『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ

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第2章王都は味オンチ!? 料理と評判が広がる日々

第5話「王宮厨房、ピンチ!?料理研究家と“塩抜き事件”」

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【1. 突然の“塩禁止令”!?】

「は、はいぃぃぃ!?」

 叫んだ声が厨房中に響き渡った。

 朝の仕込み中、王宮付き料理長のアドランさんから告げられたのは、まさかの命令。

「本日より、塩の使用を一時的に禁止する。……王政調理局からのお達しだ」

「ど、どういうことですかそれ!?」

「わしにも詳しい理由はわからん。ただ……議会で“塩の過剰使用による民意の誘導”を懸念する声が上がってな」

 ……なにその、意味わからない心配。

 

 どうやら、私の料理があまりにも人気になりすぎたせいで、
 一部の貴族が「料理で民衆を操作しているのでは」と騒ぎ始めたらしい。

「料理は、美味しくするものじゃないんですか!?」

「おぬしの気持ちはわかるが……今は命令に従うしかない」

 

 厨房内では、シェフたちが塩を片付けながら、どこか寂しそうな顔をしていた。

「こんなのおかしいよ……」
「味が決まらないのに、どうしろっていうんだ」

 

 異世界、王都、王宮――

 そこに“政治の味”が混ざってきたのを、私はひしひしと感じていた。

✳✳✳


【2. 王子の困惑と、料理利権派の影】

 セイル王子も、この“塩禁止令”には困惑していた。

「正直、信じられん。塩が民心を惑わせるとは、誰が言い出したのか……」

「噂では、上級貴族のマルドレック家が裏で動いてるとか……」

 リリナちゃんがそっと耳打ちしてくれた。

 マルドレック家は“料理利権派”として知られていて、王宮の食材納入ルートや香辛料の流通を抑えているらしい。

 私の異世界料理が人気になったことで、既存の利権が揺らいだと感じたのかもしれない。

 

「つまり、“味の主導権”を奪われたくないってこと?」

「多分、そうです。でも、これは庶民にも悪影響が出ます。すでに街の食堂でも塩の供給が止まっていて……」

 

 私の料理が、そんな波紋を呼ぶなんて。

「はぁ……美味しいものを作りたいだけなのに……」

 ベッドに倒れ込んで、天井を見上げながら私は思った。

 味の問題だけじゃない、人の気持ちや生活まで揺らいでる。

 こんなの、ほっとけない。

 

 ……でも、真っ向から反発したら、下手すれば王宮から追い出される。

 

 うーん、どうしたものか。

 そのとき――リリナちゃんがぽそっと言った。

「――お忍びの“試食会”とか、どうですか?」

「……なにそれ、おもしろそう!」

 

 私たちは、こっそり計画を立て始めた。

✳✳✳

【3. おいしさを取り戻せ!秘密の試作室】

 というわけで、リリナちゃんが案内してくれたのは――

「ここ、昔は菓子専用の厨房だったらしいです。今は倉庫扱いで、ほとんど誰も使ってません」

 王宮の裏手、地下通路の奥にある隠れ部屋。

 天井はちょっと低いけど、調理台やかまどは一通り揃ってる。秘密基地感があって、テンション上がる!

 

「さあ、“塩なし料理”の限界に挑みますか!」

 

 でも――

「うーん……味が、ぼやける……!」

 塩を使えないって、こんなに大変だったっけ!?
 味の決め手がないと、どれだけ素材が良くても印象が薄い!

 

 しかも、代替品である“しょっぱ果の皮”や“鉄藻”の粉末も、どこか違う。

「これじゃ、主張が弱いんだよねぇ」

 

 でも、あきらめるわけにはいかない。

 

「……待って。あれがあった!」

 私は急いで収納ポーチを漁る。

 出てきたのは――

「“うま味花粉”!」

 

 前に辺境の村で見つけた、香ばしい香りを持つ黄色い花の粉末。
 実はこれ、干し肉やスープに少量混ぜると、なぜかコクが増す不思議な素材。

 

 慎重に混ぜて、再加熱して――

「……よし、これでどうだ!」

 

 完成したのは、“塩なし野菜スープ・旨みブースト版”と、“ハーブおにぎり風包み焼き”。

 

「試食……!」

 ふたりで一口。

「「――おいしいっ!」」

 

 よし、これならいける!

 次は、この味を広めるための“作戦”を練らなきゃ!

✳✳✳

【4. 王宮の味、どこいった? 庶民の食卓は今…】

 その頃――

 王都の食堂では、ある異変が起きていた。

「……最近、味が薄くない?」

「うん。前より、ごはんが楽しくなくなった気がする」

 王宮から“塩の使用制限”が通達されて以降、町の料理人たちは戸惑っていた。

 

 カスミアーナ印のスープを真似して作っていた店では、スープからコクが消え、
 子どもたちからも「これじゃない」コールが続出。

「せっかく真似して人気だったのに……」

 中には営業を一時停止するお店まで現れた。

 

 一方、王宮の厨房では――

「……やっぱり、微妙ですな」

「はい……“旨味の柱”が抜けたような……」

 貴族の間でも、じわじわと不満が広がり始めていた。

 

 そんな中、セイル王子は意を決したように、私に言ってきた。

「カスミアーナ、もう我慢する必要はない。君の本来の味を、みんなに示してくれ」

「……王子、それって……?」

「非公式ではあるが、王宮において“味覚評議会”が開かれることになった。料理利権派も、出席する」

 

 ついに来た。

 塩あり vs 塩なし、ただの味対決ではない――

 “料理の本質”を問う戦い。

 

 私は、静かにエプロンの紐を締め直した。

「――やりましょう。私の味、ぶつけてきます!」

✳✳✳

【5. 評議会で勝負!?異世界ごはん対決!】

 王宮の大広間に、特別に設けられた試食台。

 今日ここで、“味覚評議会”と称する料理対決が開催される――。

「本日の試食対象は、こちらの二品です」

 司会役の老執事が告げる。

 一方は、料理利権派による「塩抜き貴族風ロースト」。

 そしてもう一方が、私の作った――

「“香草パン包み焼き・うま味花粉仕立て”です!」

 

 会場の空気はピリピリ。
 マルドレック家のご令息が、鼻で笑った。

「塩などという刺激物を使わずとも、素材の味が生きておれば充分」

「……へぇ、じゃあ食べて比べてみません?」

 

 食べた瞬間――

「んんっ!? こっち、味しない……?」

「でもこっちは……あぁ、口の中が幸せに……!」

 

 利権派の料理は、素材のよさは感じるけど、決定打がない。
 対する私の料理は、ハーブと旨味花粉の香りが広がり、噛むほどに味が重なる。

 

「こちらの方が、心に残る味だな」

「うむ……まさか涙が出るとは……」

 中には、口元をぬぐう評議員までいた。

 

「料理は、人の心を動かすものです。食べた人が“おいしい”と感じて、笑顔になる。それが何より大事なんです!」

 

 私は、真っすぐに言った。

 すると、セイル王子が口を開いた。

「料理を道具にするのではなく、力として信じたい。私は、カスミアーナの考えに賛成だ」

 

 その一言で、場の流れが変わった。

「……本日より、塩禁止令を解除する!」

 そう宣言したのは、議長役の元老院長だった。

 

 ――勝った。

 

 私は、ゆっくりと深呼吸した。

 料理で、ちゃんと“伝わった”。

✳✳✳

【6. 塩解禁! 王宮厨房に笑顔が戻る日】

 評議会が終わった翌朝。

 厨房に戻ると、そこにはすでに活気が戻っていた。

「おはようございます、カスミアーナさん!」

「今日は、塩が使えるぞーっ!」

 

 あちこちから歓声が上がる。

 調味料棚に戻された“白い宝石”――塩の壺を、誰もが大切そうに扱っていた。

「これでようやく、ちゃんとした味が作れる」

「今日のスープ、久しぶりに“本物”が出せるな!」

 

 そんな中、私は張り切って朝食の準備に取りかかっていた。

 

 今日の献立は――

白湯仕立ての鶏スープ

塩ハーブ焼き野菜

とろとろ卵のオープンオムレツ


 

「うわっ、これだよこれ!」

「懐かしい味! やっぱりカスミアーナさんの料理じゃなきゃ!」

 

 厨房の若手もベテランも、声をそろえて笑顔になっていく。

 

 するとそこへ、セイル王子がふらりと現れた。

「うん……香りだけで、おなかが鳴るな」

「王子、朝からキッチンに来るなんて、珍しいですね?」

「いや、つい……この香りに誘われてな」

 

 その顔は、なんだかとても穏やかだった。

「君の料理には、不思議な力がある。舌だけじゃなく、心が満たされる」

「ありがとうございます!」

 

 そして、王子はぽつりと呟いた。

「政治も人も、すぐには変わらない。でも――料理が、そのきっかけになればいい」

 

 その言葉に、私はそっと頷いた。

「じゃあ、これからもいっぱい作りますね。食べてくれる人がいる限り!」

 

 塩の味は、ただの調味料じゃない。

 人と人をつなぐ、心のスパイスなんだと思った。

✳✳✳

【7. 味は世界を変える――そして今日も、ごはんを作る】

 数日後、私は王宮の中庭で、ちょっとした料理教室を開いていた。

「包丁の持ち方はこう。切るときは、手を猫の手にしてね~!」

「カスミアーナ先生、なんで“猫の手”なんですか?」

「じゃないと、指切っちゃうからだよ~!」

 

 集まったのは、王宮の若手料理人や兵士たち、そして街の食堂の店主まで。

 年齢も立場もバラバラだけど、“美味しいごはんが作りたい”という気持ちは同じだった。

 

「この前の“うま味花粉”、卸してくれるってほんと?」

「もちろん! 村の人にも協力してもらって、いっぱい作ってるから!」

「助かる~! これで塩不足のときも安心だ!」

 

 料理を通じて、人と人がつながっていく。

 国も身分も関係なく、「おいしい」って気持ちだけで笑顔になれる――それって、すごいことだと思う。

 

 その日の夕方。

「ただいま~!」

「おかえりなさい、カスミアーナさん!」

 

 厨房に戻ると、みんなが笑顔で出迎えてくれた。

 火の回りは忙しく、鍋の中からはいい香り。

「じゃあ私も、ひと品追加しちゃおうかな!」

 

 私はエプロンを締め直して、まな板の前に立った。

 

《スキル確認:現在の発動中スキル》

【料理による魔食効果付与(強)】

【地球/異世界素材鑑定(高精度)】

【無限収納(時間停止付)】

【食材創出:限定素材再現】

【料理バフ:士気・疲労回復】

【料理デバフ:眠気・麻痺】

【空間味覚リンク:共有中】


 

 ……うん、スキルも絶好調!

 

「さあ、今夜もとびきりの“ごはん”で、みんなの胃袋、つかみますよー!」

 

 王宮厨房は、今日もにぎやか。

 異世界でも、やっぱり私は――

 料理研究家、カスミアーナ!

 

 次はどんな食材に出会えるかな?
 どんな人にごはんを届けられるかな?

 

 ――そう思いながら、私は包丁を手に取った。

 世界を変えるには、大きな力なんていらない。

 必要なのは、ひと皿の“おいしい”と、それを誰かに食べてもらいたいという気持ちだけ。

 

 だから、明日も私は――ごはんを作る!


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