『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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22話『気づかない優しさが、助けになる日もある』

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「田仲さーん、例の資料、あとで見ていただけます?」

「はい、午後イチで確認しますね」

定時前、社内はなんとなく気ぜわしい空気が流れていた。

月末の締め作業。みんなが黙々とPCに向かっているなか、雄一も小さなため息をつきながら手元のスケジュール帳を確認する。

――会議、資料作成、確認依頼、部下フォロー……。

(ちょっとパンパンだな)

そのとき、ふとジャケットの内ポケットに手を入れて、何かが触れた。

「ん?」

取り出してみると、小さな折り紙。しかも“手裏剣”の形。

「……ああ、ひなのか」

朝、玄関先で「おみやげ!」と笑顔で押し込まれたものだ。忙しくてすっかり忘れていた。

(……ちょっとだけ、休憩)

ひとのいない会議室に入り、持っていたマグカップに入れてきた麻衣のコーヒーをひと口。
思わず「うまっ」と声が漏れる。

実は最近、このコーヒーが地味に楽しみになっている。

豆の種類がやたら豊富になったと思ったら、「今日はエチオピア、フルーティな香りで~す」と言って麻衣が出してくる。

しかも、最近はコーヒーの香りが“気分で選ばれてる”ような気がする。
今日は朝からちょっとピリついていたのに、マイルドな香りで、頭が落ち着くようなブレンド。

(まさか、麻衣……空気読んでる?)

いやいや、さすがにエスパーじゃないだろ、と思いつつも――。

そのとき、急にチャットが鳴った。

「田仲さん、午前中に相談していた件、クライアント側の意見まとめました。確認お願いします」

データを開いて、さっと目を通す。

(あっぶな……このまま送ってたら、うちの責任になるとこだった)

雄一は即座に修正点をメッセージにまとめ、部下へ共有した。

間に合ったのは、たぶん、あのひと息を入れていなかったら無理だった。

折り紙の手裏剣と、癒しのコーヒー。

(麻衣と、ひなののコンボか……)

ちょっとだけ肩の力が抜けた。

家のこと、子どものこと、日常の中の小さなこと。
どれも「直接は役に立たない」と思っていたものが、意外と支えになっている。

(もしかして――俺、守られてる?)

そんなことを思った昼下がり。
会議室のドアを開けて戻ったとき、なんだか少し背筋が伸びた。

「よし、もうひと頑張りするか!」

仕事の合間に、ふとスマホを覗いて、妻からのLINE。

「今日の夜ごはん、チーズハンバーグの予定だけど、疲れてたら変更するね!何か食べたいのある?」

そこには、絵文字たっぷりの、ゆるっとしたメッセージ。

(……最強かよ)

雄一はニヤリと笑い、スタンプを一つだけ返した。


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