『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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35話『読み聞かせ初挑戦と、意外な出会い』

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朝、ひなのが元気に「いってきまーす!」と保育園へ駆け出していった。麻衣はエプロンと布バッグを片手に、少しだけ緊張した面持ちでその後を追う。

「ふぅ……読み聞かせなんて、ひなのにしかしたことないけど、大丈夫かな……」

今日は保育園で“保護者による読み聞かせの日”。ひなのの担任の先生に軽く頼まれたのを、うっかり「はい」と言ってしまった麻衣。気づいたら当番が回ってきていた。

(でも、せっかくだし、子どもたちの前で絵本を読むなんて、ちょっと楽しそうかも)

自分に言い聞かせるように、麻衣は足早に園へ向かった。


---

保育室に到着すると、子どもたちはもう集まっていて、小さな目をキラキラさせて麻衣を見上げてくる。

「ひなのちゃんのママ、だれー?」

「え、絵本読んでくれるのー?」

「ねぇねぇ、プリンセスの話あるー?」

質問攻めにされて、すでにちょっと汗がにじむ麻衣。先生が助け舟を出してくれて、ようやく読み聞かせが始まった。

今日選んだのは、『ふしぎなたまご』という、動物の赤ちゃんがどんどん生まれてくるユーモラスな絵本。しかも、ページのめくりに合わせてちょっとしたクイズ形式にもなっている。

「さて、つぎのページをめくると……誰のあかちゃんがでてくるでしょう~?」

「ウサギ!」「ペンギン!」「ティラノサウルスー!」

元気な声が飛び交って、麻衣もだんだん楽しくなってきた。ひなのも前列でにこにこしながら、ママを見上げている。

(ああ、やってみてよかったな)

なんだか、ふわっと心があたたかくなる。


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絵本の読み聞かせが終わったあとの自由時間。先生にお礼を言われた麻衣が控室に向かおうとすると、ひとりの女性に声をかけられた。

「すみません、今日の読み聞かせ、とても楽しかったです」

やわらかい雰囲気のその女性は、髪を一つにまとめていて、品のあるワンピース姿。初対面のはずなのに、なぜか妙に親しみがある。

「ありがとうございます、今日が初めてだったので、緊張してました」

「あ、自己紹介が遅れました。佐伯美咲(さえき みさき)と申します。最近こちらに引っ越してきて、うちの娘もここの園に入ったばかりで」

「えっ、そうなんですね! 麻衣といいます。田仲麻衣です。うちの娘は年少のひなのです」

「うちの娘は年少の、さくらっていいます。ひなのちゃんとはまだあまり話していないみたいだけど、これから仲良くなれたらうれしいです」

(あれ? なんだろう……すごく話しやすい)

麻衣は心のどこかで、「川島さんが引っ越して以来、ちょっと寂しいな」と思っていた。その空白を埋めるような、そんなあたたかな雰囲気を佐伯さんは持っていた。


---

「読み聞かせ、私もやってみようかな……って、思いました」

と佐伯さんがぽつりとつぶやいた。

「ぜひ! 初めてでも大丈夫ですよ。今日、私も何とか乗り切れましたし!」

ふたりは顔を見合わせて笑った。

その後、子どもたちの様子を見ながら、控え室でしばしの“ママトーク”。園での不思議エピソードや、子どもたちの天然発言に笑い合い、すっかり打ち解けた。


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帰り道、ひなのが無邪気に尋ねた。

「ママ、きょうのえほん、またよんでくれる?」

「うん、もちろん。今度はパパにも聞かせてあげようか」

「うん! パパ、おしごとがんばってるから、えほんでげんきになってもらうの!」

その言葉に、麻衣は思わずふふっと笑った。

読み聞かせから始まった一日。そこには新しい出会いと、小さな優しさがあった。

そして麻衣の「ちょっとしたスキル」も、またひとつ、ほのかに誰かを元気づけていたのだった。


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