『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

文字の大きさ
42 / 138

42話『ママ友ネットワークと、うわさの真相』

しおりを挟む
「ねえ、ちょっと聞いた?」 保育園の門の近く、子どもを送り届けた後に自然とできるママたちの輪。その中に、ひそひそとした声が交じった。

「何を?」 「また、田仲さんのことよ」

「えっ、麻衣さん?」 驚いたように返したのは高梨さん。ひなのと同じ年中クラスの娘・まゆちゃんのママで、最近は麻衣とよく話すようになっていた。

「先月あたりから、ちょっと不思議なこと多くない? 園の掲示板のミスに気づいたのも、田仲さんだったんだって」

「えっ、そうなの? 初耳……」 「それだけじゃないの。遠足の集合時間が間違ってたのも、先生にさりげなく伝えて直してもらったの、彼女らしいわよ」

「へぇ……でもあの人、そういうの自分から言わないよね」

「それなのよ!」 身を乗り出して言ったママの目がきらりと光る。

「普通なら“私が気づいたんですよ”ってアピールしそうじゃない? でも田仲さんって、すっと自然に動いて、表に出てこないの。不思議な人よね~」

「確かに……悪い人じゃないけど、ちょっとふわっとしてて掴みどころがない感じ」

「この前のバザーでも、すごく上手に裏方やってたのに、終わった頃には姿が見えなかったし」

「うちの子、ひなのちゃんのこと大好きでさ。“ひなのちゃんがね~”ってよく話してる。だから、あの家のお母さんはきっといい人なんだろうなって思ってた」

「うんうん、ひなのちゃん、ほんと可愛いもんね。素直だし」

「でもさ、なんでいつもあんなに余裕あるのかな? 上の子もいるんでしょ? 仕事してるって話は聞くけど、家のこととか、うまく回してるっぽいし……なんか不思議なバランス感覚持ってるよね」

高梨さんは、こっそり笑いそうになるのをこらえていた。 麻衣は確かにちょっと天然だけど、周りをよく見ていて、人に押しつけがましくなく助けるのがうまい。それに、家の中では結構ドタバタしてるのも知ってる。

――この間なんて、「洗濯物を畳んでたら、ひなのに全部ぐちゃぐちゃにされた~」と、電話口で笑ってたっけ。

「でも……そういうとこ、ちょっと羨ましいかも」 高梨さんがぽつりとつぶやいた。

「え? どういうこと?」

「うまく言えないけど……田仲さんって、目立とうとしてないのに、気づいたらこっちが助けられてるって感じがするのよね」

「……あ、それ分かるかも」 「なんか、気づいたら助けられてたって、いい言葉かも」 「高梨さん、たまに名言出すよね~」 「え、ちょっと~やめて~照れる!」

どっと笑いが起きる。 そんな中、最初に話を切り出したママがぽつりと呟いた。

「でも本当に、あんなふうに人と関われたら素敵だよね。うち、けっこうカリカリしちゃって、つい子どもにもキツく当たっちゃうから……」

「分かる~。毎朝、戦争よ」

「お弁当のタコさんウィンナー焦がしただけで、今日一日ダメな気分になるし……」

「それ、ある意味最大の失敗……!」

また笑いが弾ける。 自然と、輪の中心には麻衣の名前があった。それは悪意ある噂話ではなく、どこかほんわかとした空気をまとった、ゆるやかな尊敬と共感の空気。

――そんな時だった。

「おはようございます~」

と、まさに話題の主・麻衣が登園してきた。 ひなのの帽子を直しながら、にこにこと微笑んでいる。

さっきまで盛り上がっていたママたちが、ぱっと顔を見合わせ、次々と自然に会釈する。

まるで、話題の続きを口に出すのが少し恥ずかしくなったように。

「なんだか今日は、朝から空気がやわらかいですね~」

そう麻衣が言うと、高梨さんがふっと笑って返す。

「そうかもね。たぶん、あなたが来たからだよ」

「えっ、私ですか?」

「うん、田仲さんって……癒し系オーラあるよ」

「いや~そんなことないですよぉ~。さっきまで、ひなのがズボン逆に履いてて、玄関で大騒ぎだったんですから!」

麻衣が困ったように笑うと、その場にいたママたちも、つられて笑顔になる。

その日の午後―― ママ友たちのLINEグループには、あるママが投稿した一言が静かに流れた。

「田仲さん、やっぱり好きだわ。私もあんなふうに、周りに優しくなれたらいいのに」

すぐにいくつもの「いいね」がついた。

そしてそのうちの一つには、こう添えられていた。

「そうだね。今日の朝、なんかちょっと優しい気持ちになれたもん」


---
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

☆ほしい
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

元商社マンの俺、異世界と日本を行き来できるチートをゲットしたので、のんびり貿易商でも始めます~現代の便利グッズは異世界では最強でした~

黒崎隼人
ファンタジー
「もう限界だ……」 過労で商社を辞めた俺、白石悠斗(28)が次に目覚めた場所は、魔物が闊歩する異世界だった!? 絶体絶命のピンチに発現したのは、現代日本と異世界を自由に行き来できる【往還の門】と、なんでも収納できる【次元倉庫】というとんでもないチートスキル! 「これ、最強すぎないか?」 試しにコンビニのレトルトカレーを村人に振る舞えば「神の食べ物!」と崇められ、百均のカッターナイフが高級品として売れる始末。 元商社マンの知識と現代日本の物資を武器に、俺は異世界で商売を始めることを決意する。 食文化、技術、物流――全てが未発達なこの世界で、現代知識は無双の力を発揮する! 辺境の村から成り上がり、やがては世界経済を、そして二つの世界の運命をも動かしていく。 元サラリーマンの、異世界成り上がり交易ファンタジー、ここに開店!

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...