『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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55話『はじめての家族旅行と、不思議なラッキースキル』

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「パパ、おにぎり持ったー?」 「ママ、おやつ持ってくの忘れてない?」 「ひなの、帽子~!」

朝のバタバタを経て、田仲家はついに出発した。
行き先は、電車で一時間ほどの温泉街。家族での初めての小旅行だ。


---

◆ゆったり、のはずが……

「すごーい! 電車はやーい!」

窓の外を眺めて興奮するひなのに、悠翔もつられて笑う。
雄一は旅行用リュックを持ち、麻衣は家族分のチケットや地図を管理する“母の本能スキル”をフル稼働中だ。

到着した温泉街は、小ぢんまりとしていて、どこか懐かしい雰囲気。
まずはお土産通りを散策し、温泉たまごや焼きせんべいをつまみ食い。みんな笑顔で、順調な旅のスタート。

――だったのだが。

「……あれ? なんか、騒がしくない?」

午後、町の広場で小さなイベントを見ていた麻衣は、ふと人だかりの方に目を向けた。

「どうやら、お財布の盗難があったみたいですねぇ……」 「ええっ、さっきまでこの辺にいたのに……」

騒ぎが起きていた。どうやら、観光客の女性のバッグから財布が抜き取られたらしい。
麻衣は特に気にせず、ひなのにジュースを渡しながら「混んでるとこういうこともあるのかもね~」と夫に話す。

だが、ほんの一瞬、何かが見えた気がした。

(……あれ? あの通りすがった若い男性の背中……ちょっと変な色が……?)

もやもやとした黒い影のような気配。でもすぐに消えてしまった。

「ま、気のせいかも」

そのまま観光を続ける田仲家。足湯に入ったり、ゆでたての栗を食べたり、ほんの少しずつ、家族の時間が溶け込んでいく。


---

◆知らない間に解決!?

夕方、宿のロビーでくつろいでいたところ、さきほどの盗難騒動についてのアナウンスが聞こえた。

「……先ほどの騒動ですが、無事に財布が見つかり、警察の方で保護されたとのことです」

「へえ~、見つかったんだ! よかったね~」

麻衣がにっこりと呟く。

(……あれ? でも、さっきのあの黒っぽいもやもや……まさか)

どうやら、麻衣のスキルが一瞬だけ反応していたのかもしれない。
けれど本人は気づかない。あくまで「たまたま見かけた気がする」レベル。

偶然が重なり、事件が解決してしまったようにしか見えない――けれど、これも麻衣らしい日常だ。


---

◆温泉と、幸せの色

夜は温泉。子どもたちはおおはしゃぎ、夫婦はちょっとだけほっとする時間。

湯上がりに浴衣姿でアイスを食べながら、麻衣がぽつり。

「なんだかね、旅行って疲れるけど、家族で来ると心があったかくなる気がする」

「わかる。大変だけど……楽しいな」

と、悠翔が意外と大人びた感想を言うと、ひなのが大きくうなずいて、

「ひなの、アイス2つ目もたべたいの~」

「それはダメ~!」

というお約束のやり取りで、笑いが起こった。


---

そして夜。

部屋の窓から見える星を見上げながら、麻衣はふとスマホを手に取る。
ゲームの通知が光っていた。

《スキル【小さな予感】の熟練度が上昇しました》

(……なんか、ちょっとだけ成長したかも?)

ふわっとした実感とともに、まどろみがやってきた。

事件があっても、それに気づかなくても。
麻衣のスキルは、きっと今日も誰かをやんわりと助けている。

そんなことを、知らないまま。


---
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