『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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特別編『スミレと、はじまりのスキル』

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 その夜、麻衣のスマホに一通のメッセージが届いた。

> 「今度、少しだけ私の話を聞いてくれる?」



 送り主は、スミレさんだった。

 

 後日、静かな喫茶店で向かい合った二人。
 紅茶の湯気越しに、スミレさんはぽつりと語り出した。

「麻衣さんは……どうして、あのゲームを始めたの?」

「え? なんとなく、息抜きというか。家事の合間に、ちょこちょこ……」

「ふふ、そうよね。実は私も、最初はそうだったの。――でも、私は“逃げ場所”を探してたのかもしれない」

 

 スミレの本名は、菫沢あやめ。
 かつては都内でイベントプランナーをしていて、バリバリ働いていた。

「でもね、仕事ばっかりで、大事な人との距離をどんどん失っていったの。気づいたときには、婚約者とも疎遠になってて」

 ある日、出張先のホテルで倒れ、過労と診断された。
 療養中、ベッドの上でなんとなくインストールしたのが――あの、**“ちょっと不思議な雰囲気のスマホゲーム”**だった。

 

「最初はただの箱庭ゲームみたいだった。でも、レベルが上がると“ことば”が増えてきてね。『だれかを思う力が、スキルになる』って」

 あの頃の彼女は、誰にも頼らず、誰にも弱さを見せなかった。

「でも、ある日突然、“スキル:空色の余韻”っていうのを手に入れたの」

 そのスキルは、“他人の後悔やためらい”が、空気のように漂っているのを感じ取る力だった。
 色で見えるわけじゃない。でも、ふとした匂いの変化や音の響きで――「あ、この人、何か抱えてる」と分かってしまう。

「最初は、正直怖かった。街を歩くだけで、いろんな“未消化の気持ち”が押し寄せてきて。でも、同時に……“気づけたこと”で救えた人もいた」

 

 スミレは、それから仕事を辞め、全国を転々としながら――ときに「占い師」としてスキルを使い、人を支えるようになった。

「……ゲームが“現実を変えた”なんて、普通は信じてもらえないわ。でも私にとっては、人生をやり直すきっかけだったの」

 

 麻衣は、静かにうなずいた。

「私も、あのゲームでちょっとずつ変わってきたかも。前より、周りの人のことを“ちゃんと見る”ようになった気がしてて」

 

 スミレは紅茶をひと口飲み、ふっと微笑んだ。

「そう――だから、たまに思うの。“このゲームの本当の目的って、プレイヤー自身を癒すことなのかも”って」

「スキルは、力じゃなくて……優しさ?」

「うん。きっとそう。誰かの心に気づけたら、それがもう“ひとつのスキル”だから」

 

 日が暮れ始めた窓の外に、夕焼けが映る。
 静かなカフェで交わされたその会話は、麻衣の中に小さな温もりとして残った。

 

 そして帰り際、スミレは一枚の“カード”を差し出した。
 あのゲーム内で時々もらえる、不思議な“ことばカード”。

> 『きっと、優しさは伝染する。だからあなたが気づいたことには意味がある。』



「これは、最初に私が引いたカード。今、あなたに渡したいと思ったの」

 麻衣は、そっとカードを胸にしまった。

 

 帰り道、空を見上げると、ほんのりとした空色が残っていた。
 まるで、スミレの“空色の余韻”が、まだそこに漂っているかのようだった。


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