『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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62話『ことばの架け橋と、すれ違いの朝』

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「おはようございます~」

 その朝、麻衣はいつものように、ひなのと手をつないで登園した。
 高梨さんとすれ違いざまに笑顔で会釈し、まゆちゃんが「ひなのちゃ~ん!」と駆け寄ってきて、二人は嬉しそうに手をつないで園庭へ駆けていく。

「……元気で何よりだねぇ」

 麻衣が小さくつぶやいたそのとき、ポケットの中のスマホが“ぴこん”と小さな音を立てた。
 スキル通知だ。

> 《ことばの架け橋:反応あり》
対象:高梨まゆ子
感情のズレ:モヤモヤ・誤解・気疲れ
推奨:話しかける(きっかけ:“昨日の連絡帳”について)



(……え? 高梨さん、なにか気にしてるの?)

 

 昨日、ひなのが「まゆちゃんが絵を手伝ってくれたの」と言っていた。
 その話をもとに、麻衣はお礼のメッセージを連絡帳に書いた。
 高梨さんからの返事はなかったけれど、それがまさか――

「高梨さん、あの……昨日はありがとうございました。ひなの、まゆちゃんのおかげで楽しく描けたって喜んでました」

「……あ、ううん。こちらこそ……」

 ややぎこちない返事。
 そのあと、ぽつりと高梨さんがつぶやいた。

「実は……昨日、うちの子が“ひなのちゃんばっかり”って、ちょっとすねちゃってて……。でも、麻衣さんがあんなふうにお礼まで書いてくれて……逆に申し訳なくなっちゃって」

「えっ、そんなつもりじゃ全然なくて!」

「うん、分かってるの。分かってるけど……なんだろうね、親って、すぐ自分の子を比べちゃうとこあるのかも」

 麻衣は少し考えて、ふっと笑って言った。

「じゃあ、今度はうちのひなが“まゆちゃんに助けられた!”って大げさに言うようにしときますね。そうすれば、貸し借りなしってことで」

「……ふふっ、それずるい~!」

 二人は目を合わせて、自然に笑いあった。

> 《スキル発動完了:感情のズレ 修復》
「ことばの架け橋」が、心の距離を少し近づけました。



(スキルが教えてくれた“ちょっとしたズレ”が、こんなにも大事だったなんて……)

 

 ***

 

 一方、家に戻って洗濯を干していた麻衣のスマホが再び光る。

> 《クエスト:スキル連鎖イベント発生》
内容:午後、カフェに現れる“無口な青年”との出会い



「え、カフェ勤務でイベント発生って、ゲームかリアルか分からなくなってきたな……」

 でも――

「なんか、わくわくするかも」

 麻衣はエプロンを手に取り、鏡で前髪を整えた。
 “特別な何か”じゃなくても、自分の一言で、誰かが少し笑ってくれるなら。
 それだけで、今日もまた、いい一日になる気がした。


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