『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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68話『見えない来訪者と、スミレの警告』

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 ある晴れた平日の午後。
 麻衣はカフェのホールで、いつものようににこやかに接客をしていた。

「こちら、紅茶になります~。よかったら、焼きたてのスコーンもご一緒にいかがですか?」

 お客様がにこやかにうなずく。今日も、平和であたたかな時間が流れていた。

 ――と、思っていたのだけれど。

「……あれ?」

 ふと、厨房から出てきた店長の千夏さんが、不思議そうに首をかしげた。

「麻衣ちゃん、今、厨房の横通った?」

「いえ? ずっとホールにいましたよ?」

「……じゃあ誰だろう? 人の気配がした気がして……」

 その瞬間、麻衣のスマホがポケットの中で震えた。

> 《スキル通知:時空のゆらぎ検知》
地点:勤務先カフェ内/西側奥の壁付近
内容:次元干渉による“存在のゆらぎ”を感知しました



(……え?)

 麻衣は、なんとなく背中にひやりとした空気を感じた。
 いつもの、スキルが何かを「教えてくれる」予感とはちがう――もっと深く、もっと不安定なもの。

「……ねえ千夏さん。今日は、ほかに誰か来る予定でした?」

「ううん、常連さんばかり。新人研修も、来週だし……」

 麻衣は、そっとホールの隅にある飾り棚の前に近づいた。

 スキルを使うまでもなく、空気の密度が違う。
 まるで“そこに誰かいるのに、見えていない”ような、不自然な静けさ。

 そのとき――

「久しぶりね、麻衣さん」

 ふいに背後から声がした。

「うわっ!?」

 驚いて振り向くと、そこには占い師のスミレさんが立っていた。
 相変わらず、紫がかったストールをふわりと肩にかけ、不思議な微笑みを浮かべている。

「スミレさん……びっくりしました」

「ふふ、ごめんなさい。でも、そろそろ“話しておくべきこと”がある気がして」

 スミレさんは、麻衣に目線だけで「座って」と合図し、二人はカフェの片隅に並んで腰を下ろした。


---

◆知られざるスキルの“副作用”

「スキルの進化、順調そうね?」

「……はい。便利というか、ちょっと暴走気味というか……」

「それなのよ」

 スミレさんは、お茶をひと口飲んでから、ゆっくりと話し始めた。

「最近、スキルの“次元干渉”が強まってる。あなたのスキルも、日常の枠を超え始めてるわ」

「日常の枠……?」

「たとえば、“見えない誰か”を引き寄せたり、“まだこの世界にいない感情”を感じ取ったり。これは“共鳴現象”といって、スキル所持者の感度が高まると起きるの」

 麻衣は、少し身を乗り出した。

「じゃあ……さっきの、店の奥で感じた気配も?」

「可能性は高いわね。でも、危険ではないわ。少なくとも今は」

「今は……?」

「ただし、同じプレイヤー同士のスキルが近づきすぎると、“境界”が緩んでくるの。異なる感情の“渦”が混ざってしまうのよ」

 スミレさんは、スマホを取り出して画面を見せてきた。

 そこには、麻衣と同じゲームアプリが――ただし、見慣れないメニューが開かれていた。

「これ……“次元メモリー”?」

「はい。高レベルのスキル所持者になると、選ばれた人には、過去・未来の出来事や“他者の選択”が一瞬だけ見えることがあるの」

「それって、予知とか……?」

「そう思う人もいるけど、本当は、“あなた自身が選ばなかった別の可能性”を見る力よ」


---

◆見えない来訪者の正体は?

「じゃあ……さっきの気配って、“他の選択肢”の中の誰か?」

「そう。もしくは……あなたが関わるはずだった“別の誰か”。ふとした拍子に現れて、そしてすぐに消えていく」

 麻衣は背筋がすうっと冷える感覚を覚えた。

「そんな存在……どうしたら?」

「無理に排除しなくていいの。あなたのスキルが、今の環境にしっかり根づいていれば、向こうも“観察”するだけで去っていくわ。警戒しすぎないことよ」

「……はい」

「それと、これからは“夢”にも注意して」

「夢……ですか?」

「境界が曖昧になったスキルは、無意識にも影響を及ぼす。ときどき、あなたは誰かの感情を“夢”として見ることがあるでしょう?」

 麻衣はごくりと唾を飲み込んだ。

 実は昨夜、“泣きながら手紙を書いている見知らぬ少年”の夢を見たばかりだった。

「……それもスキルの影響……?」

「ええ。でもそれもまた、あなたの優しさの表れよ」


---

◆終わりに

 その日の帰り道。
 麻衣はふと空を見上げた。

 空には何もない。風も穏やかで、雲はゆっくり流れている。

 けれど、たしかに――誰かが「そこにいた」ような、そんな余韻が残っていた。

 (大丈夫。私が見えるものを、ちゃんと受け止めていこう)

 麻衣はスカートの裾を軽く押さえて、そっと笑った。


---
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