『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

文字の大きさ
95 / 138

92話『父と子の、ちょっと不器用な休日』

しおりを挟む
土曜日の朝。麻衣は早番のカフェ勤務で、すでに家を出ていた。

 「ひなのー、靴はいたかー?」  「はいたー! でもくつしたまちがえた~!」

 雄一はリビングで息子・悠翔(はると)の連絡帳を確認しながら、年長に進級したばかりのひなのの声に振り返る。

 「左右ちがう靴下って……おしゃれってことでいいか?」

 「ちがーう!」
 ひなのがぷくっと頬をふくらませながら、パタパタと戻っていく。

 一方、悠翔はというと、朝ごはんを食べながら漫画を読んでいたが、ふと手を止めて言った。

 「ねえ、お父さん。今日さ、ひなのと3人でどっか行かない?」

 「おっ、珍しいな。どこ行きたいんだ?」

 「うーん……科学館とか?」

 「科学館!? お前、理科好きだったっけ?」

 「いや、自由研究のネタ探し」

 「……あー、夏休みが迫ってるもんな……」

 

 そんなわけで、雄一はひなのを連れて、悠翔と一緒に近くの市立科学館へ向かった。

 電車に乗って出かけるのは久しぶり。ひなのは窓に顔を張りつけて、「おっきいビル~!」「あっ、バス!」と興奮気味。

 「なあ、ひなの。今日はお母さんいないから、しっかり頼むぞ?」

 「まかせて!」
 と胸を張ったものの、駅の階段ではやっぱり「だっこー!」と両手を上げてきた。

 

 科学館では、悠翔が熱心にメモを取りながら展示を眺め、ひなのはプラネタリウムでうとうと……。

 「なあ、ひなの寝てないか?」

 「ねてないー……」
 といいつつ、膝の上でくっついてくる娘を見て、雄一はちょっと幸せな気分になる。

 

 昼は、館内の軽食コーナーでカレーうどん。ひなのはなぜかカレーのルウだけを延々と舐めていた。

 「それ……麺といっしょに食べような?」

 「やだ~、ここだけがすき~!」

 「こいつ、食の好みが完全に麻衣似だな……」

 

 帰り道。駅前の小さな公園でひとやすみしながら、悠翔がふと口を開く。

 「……お父さん。スキルってさ、本当にあるの?」

 「……ん?」

 「最近、お母さんの周りってさ、なんか“いいこと”多くない?」

 「気のせいじゃないか? ……いや、たしかに偶然が多いか?」

 ふたりで顔を見合わせて、なんとなく笑った。

 ひなのはというと、すっかり爆睡しており、ベンチに座る雄一の肩にもたれかかっていた。

 

 「……まあさ」
 悠翔がつぶやく。

 「お母さんがなんかスゴくても、うちって……けっこう平和だよね」

 「……そうだな。奇跡より、この平和が一番ありがたい」

 

 その日の夕方。帰宅した麻衣が見たのは、リビングでソファにもたれて3人でぐっすり昼寝している光景だった。

 「……なにこの平和」

 微笑みながら、そっとブランケットをかけた麻衣のまわりに、ほのかな“光のもや”が一瞬、きらりと揺れた。


---
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

気弱令嬢の悪役令嬢化計画

みおな
ファンタジー
 事故で死んだ私が転生した先は、前世の小説の世界?  しかも、婚約者に不当に扱われても、家族から冷たくされても、反論ひとつ出来ない気弱令嬢?  いやいやいや。 そんなことだから、冤罪で処刑されるんでしょ!  せっかく生まれ変わったんだから、処刑ルートなんて真っ平ごめん。  屑な婚約者も冷たい家族も要らないと思っていたのに・・・?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...