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92話『父と子の、ちょっと不器用な休日』
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土曜日の朝。麻衣は早番のカフェ勤務で、すでに家を出ていた。
「ひなのー、靴はいたかー?」 「はいたー! でもくつしたまちがえた~!」
雄一はリビングで息子・悠翔(はると)の連絡帳を確認しながら、年長に進級したばかりのひなのの声に振り返る。
「左右ちがう靴下って……おしゃれってことでいいか?」
「ちがーう!」
ひなのがぷくっと頬をふくらませながら、パタパタと戻っていく。
一方、悠翔はというと、朝ごはんを食べながら漫画を読んでいたが、ふと手を止めて言った。
「ねえ、お父さん。今日さ、ひなのと3人でどっか行かない?」
「おっ、珍しいな。どこ行きたいんだ?」
「うーん……科学館とか?」
「科学館!? お前、理科好きだったっけ?」
「いや、自由研究のネタ探し」
「……あー、夏休みが迫ってるもんな……」
そんなわけで、雄一はひなのを連れて、悠翔と一緒に近くの市立科学館へ向かった。
電車に乗って出かけるのは久しぶり。ひなのは窓に顔を張りつけて、「おっきいビル~!」「あっ、バス!」と興奮気味。
「なあ、ひなの。今日はお母さんいないから、しっかり頼むぞ?」
「まかせて!」
と胸を張ったものの、駅の階段ではやっぱり「だっこー!」と両手を上げてきた。
科学館では、悠翔が熱心にメモを取りながら展示を眺め、ひなのはプラネタリウムでうとうと……。
「なあ、ひなの寝てないか?」
「ねてないー……」
といいつつ、膝の上でくっついてくる娘を見て、雄一はちょっと幸せな気分になる。
昼は、館内の軽食コーナーでカレーうどん。ひなのはなぜかカレーのルウだけを延々と舐めていた。
「それ……麺といっしょに食べような?」
「やだ~、ここだけがすき~!」
「こいつ、食の好みが完全に麻衣似だな……」
帰り道。駅前の小さな公園でひとやすみしながら、悠翔がふと口を開く。
「……お父さん。スキルってさ、本当にあるの?」
「……ん?」
「最近、お母さんの周りってさ、なんか“いいこと”多くない?」
「気のせいじゃないか? ……いや、たしかに偶然が多いか?」
ふたりで顔を見合わせて、なんとなく笑った。
ひなのはというと、すっかり爆睡しており、ベンチに座る雄一の肩にもたれかかっていた。
「……まあさ」
悠翔がつぶやく。
「お母さんがなんかスゴくても、うちって……けっこう平和だよね」
「……そうだな。奇跡より、この平和が一番ありがたい」
その日の夕方。帰宅した麻衣が見たのは、リビングでソファにもたれて3人でぐっすり昼寝している光景だった。
「……なにこの平和」
微笑みながら、そっとブランケットをかけた麻衣のまわりに、ほのかな“光のもや”が一瞬、きらりと揺れた。
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「ひなのー、靴はいたかー?」 「はいたー! でもくつしたまちがえた~!」
雄一はリビングで息子・悠翔(はると)の連絡帳を確認しながら、年長に進級したばかりのひなのの声に振り返る。
「左右ちがう靴下って……おしゃれってことでいいか?」
「ちがーう!」
ひなのがぷくっと頬をふくらませながら、パタパタと戻っていく。
一方、悠翔はというと、朝ごはんを食べながら漫画を読んでいたが、ふと手を止めて言った。
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「なあ、ひなの寝てないか?」
「ねてないー……」
といいつつ、膝の上でくっついてくる娘を見て、雄一はちょっと幸せな気分になる。
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「それ……麺といっしょに食べような?」
「やだ~、ここだけがすき~!」
「こいつ、食の好みが完全に麻衣似だな……」
帰り道。駅前の小さな公園でひとやすみしながら、悠翔がふと口を開く。
「……お父さん。スキルってさ、本当にあるの?」
「……ん?」
「最近、お母さんの周りってさ、なんか“いいこと”多くない?」
「気のせいじゃないか? ……いや、たしかに偶然が多いか?」
ふたりで顔を見合わせて、なんとなく笑った。
ひなのはというと、すっかり爆睡しており、ベンチに座る雄一の肩にもたれかかっていた。
「……まあさ」
悠翔がつぶやく。
「お母さんがなんかスゴくても、うちって……けっこう平和だよね」
「……そうだな。奇跡より、この平和が一番ありがたい」
その日の夕方。帰宅した麻衣が見たのは、リビングでソファにもたれて3人でぐっすり昼寝している光景だった。
「……なにこの平和」
微笑みながら、そっとブランケットをかけた麻衣のまわりに、ほのかな“光のもや”が一瞬、きらりと揺れた。
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