107 / 138
104話『スミレさんと、もうひとつのスキル反応』
しおりを挟む
朝のカフェには、いつものように穏やかな空気が流れていた。
麻衣は手際よくカウンターを整え、開店準備を終えると、ふっと一息ついた。
「今日もがんばろ~」
そんなときだった。
郵便受けから、厚みのある封筒が一通、ポトンと落ちた。
「……ん? 手紙?」
差出人の名前はなかったけれど、封のところに、小さな花のシールが貼られていた。
どこか見覚えのある雰囲気に、麻衣は首をかしげながら封を開けた。
中から出てきたのは、手紙と――一枚の写真だった。
手紙の文字は丁寧で、やや癖のある筆跡。
> 「ご無沙汰しています、麻衣さん。
おそらくこれが届く頃、私はまたひとつ“気配”に気づいた頃だと思います。
前にお話しした“共鳴”のこと、覚えていますか?」
スミレさんの名前はなかった。
でも、麻衣にはわかっていた。
この文体、この香り。間違いない、と。
> 「最近、スキルの感覚が変わってきています。
“誰かと繋がる”だけじゃなく、“未来の気配”が混じるようになってきて……。
それが少し怖くもあり、でも、とてもワクワクもしていて。
たぶん、麻衣さんもそろそろ“気づく”頃でしょう?
これは、あなたにしかできないこと。
……そう思って、送ります。」
写真は、少し前のカフェで撮られた一枚。
スミレさん、穂積さん、そして麻衣が笑い合っている。
(……誰が撮ったんだろう?)
麻衣は、写真の隅に目を留めた。
そこには、見慣れない小さな光の粒のようなものが写り込んでいた。
まるで誰かの“気持ち”が、偶然可視化されたかのように。
その瞬間――
麻衣のスマホが、ポンと音を鳴らした。
《共鳴スキャン:新規反応を検知しました》
《対象:未確認/遠距離感知モード》
《スキルクエスト:未達成の因子に接触しています》
「スキル……クエスト?」
初めて見る表示に、麻衣は驚いた。
ちょうどそのとき、店のドアが開いた。
「こんにちはー。……あれ、スミレさん来てるかと思ったのに」
現れたのは、穂積さんだった。
「今日はまだです。……でも、なんだか来そうな気がします」
麻衣がそう返すと、穂積さんは不思議そうに笑った。
「占いでも始めました?」
「ふふっ、そんな感じかもしれません」
そして、カフェの片隅。
いつもの席に、ひとつだけ追加でカップを置いた。
それが、なんとなく“正解”な気がしたからだ。
その日、スミレさんは現れなかった。
でも、手紙の最後の一文が、麻衣の心にずっと残っていた。
> 「世界はきっと、“つながる力”でやさしくなる。
だからあなたは、あなたのままでいてください」
麻衣はそっと、封筒をしまい、深呼吸をした。
(スキルも、つながりも――怖くない。
だって、それが私の日常になってきてるから)
カフェの空気は、今日もやさしくてあたたかい。
誰かの“気持ち”が、ふんわりと混じり合って、少しずつ未来を動かしていく。
---
麻衣は手際よくカウンターを整え、開店準備を終えると、ふっと一息ついた。
「今日もがんばろ~」
そんなときだった。
郵便受けから、厚みのある封筒が一通、ポトンと落ちた。
「……ん? 手紙?」
差出人の名前はなかったけれど、封のところに、小さな花のシールが貼られていた。
どこか見覚えのある雰囲気に、麻衣は首をかしげながら封を開けた。
中から出てきたのは、手紙と――一枚の写真だった。
手紙の文字は丁寧で、やや癖のある筆跡。
> 「ご無沙汰しています、麻衣さん。
おそらくこれが届く頃、私はまたひとつ“気配”に気づいた頃だと思います。
前にお話しした“共鳴”のこと、覚えていますか?」
スミレさんの名前はなかった。
でも、麻衣にはわかっていた。
この文体、この香り。間違いない、と。
> 「最近、スキルの感覚が変わってきています。
“誰かと繋がる”だけじゃなく、“未来の気配”が混じるようになってきて……。
それが少し怖くもあり、でも、とてもワクワクもしていて。
たぶん、麻衣さんもそろそろ“気づく”頃でしょう?
これは、あなたにしかできないこと。
……そう思って、送ります。」
写真は、少し前のカフェで撮られた一枚。
スミレさん、穂積さん、そして麻衣が笑い合っている。
(……誰が撮ったんだろう?)
麻衣は、写真の隅に目を留めた。
そこには、見慣れない小さな光の粒のようなものが写り込んでいた。
まるで誰かの“気持ち”が、偶然可視化されたかのように。
その瞬間――
麻衣のスマホが、ポンと音を鳴らした。
《共鳴スキャン:新規反応を検知しました》
《対象:未確認/遠距離感知モード》
《スキルクエスト:未達成の因子に接触しています》
「スキル……クエスト?」
初めて見る表示に、麻衣は驚いた。
ちょうどそのとき、店のドアが開いた。
「こんにちはー。……あれ、スミレさん来てるかと思ったのに」
現れたのは、穂積さんだった。
「今日はまだです。……でも、なんだか来そうな気がします」
麻衣がそう返すと、穂積さんは不思議そうに笑った。
「占いでも始めました?」
「ふふっ、そんな感じかもしれません」
そして、カフェの片隅。
いつもの席に、ひとつだけ追加でカップを置いた。
それが、なんとなく“正解”な気がしたからだ。
その日、スミレさんは現れなかった。
でも、手紙の最後の一文が、麻衣の心にずっと残っていた。
> 「世界はきっと、“つながる力”でやさしくなる。
だからあなたは、あなたのままでいてください」
麻衣はそっと、封筒をしまい、深呼吸をした。
(スキルも、つながりも――怖くない。
だって、それが私の日常になってきてるから)
カフェの空気は、今日もやさしくてあたたかい。
誰かの“気持ち”が、ふんわりと混じり合って、少しずつ未来を動かしていく。
---
39
あなたにおすすめの小説
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯
☆ほしい
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。
でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。
今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。
なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。
今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。
絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。
それが、いまのレナの“最強スタイル”。
誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。
そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
元商社マンの俺、異世界と日本を行き来できるチートをゲットしたので、のんびり貿易商でも始めます~現代の便利グッズは異世界では最強でした~
黒崎隼人
ファンタジー
「もう限界だ……」
過労で商社を辞めた俺、白石悠斗(28)が次に目覚めた場所は、魔物が闊歩する異世界だった!?
絶体絶命のピンチに発現したのは、現代日本と異世界を自由に行き来できる【往還の門】と、なんでも収納できる【次元倉庫】というとんでもないチートスキル!
「これ、最強すぎないか?」
試しにコンビニのレトルトカレーを村人に振る舞えば「神の食べ物!」と崇められ、百均のカッターナイフが高級品として売れる始末。
元商社マンの知識と現代日本の物資を武器に、俺は異世界で商売を始めることを決意する。
食文化、技術、物流――全てが未発達なこの世界で、現代知識は無双の力を発揮する!
辺境の村から成り上がり、やがては世界経済を、そして二つの世界の運命をも動かしていく。
元サラリーマンの、異世界成り上がり交易ファンタジー、ここに開店!
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる