『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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126話『わたしの知らない“助け”』

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最近、麻衣には不思議なことが増えていた。

たとえば、朝起きるとコーヒー豆の補充がされていたり、スーパーで買い忘れたはずの卵が冷蔵庫にあったり、悠翔の宿題のプリントがきちんとホチキスで綴じられていたり……。

「……え、やったっけ、私……?」

それは本当に小さな“助け”で、気にしなければ見過ごす程度のことだった。でも、麻衣はなんとなく――“気配”を感じていた。

(……スキル、かな……?)

最近、スキルの挙動が不安定になっていた。明確な発動をしていないはずなのに、結果だけが残るような、そんな現象。

「麻衣、お弁当ありがとう。今日もすごくうまかったよ」

夫・雄一が微笑みながらそう言って、出勤の支度をする。
その後ろ姿に、どこか“無理をしている気配”があった。

(……なんか、隠してる?)

違和感の理由を、麻衣はまだ知らない。

***

その日の午後。
ひなのを迎えに行った帰り道、麻衣のスマホに、見慣れない番号から着信があった。

「はい、田仲です」

『……奥さま、田仲雄一さんの会社の件でご連絡差し上げました』

「会社……?」

麻衣の心に、ひやりと冷たい風が吹いた。

『雄一さんの会社、実は現在、資金繰りの問題で一部部署の整理が検討されております。ご家族としてご存じかと思い……』

「……聞いてません!」

声が少し、震えた。

スキルで何でも助けられると思っていた。けれど、雄一の悩みに、彼の不安に、何も気づけていなかった。

(私、何やってたの……)

***

その夜。
麻衣は、雄一にそれとなく話を切り出した。

「ねえ、最近……仕事、大丈夫?」

「え? ああ……ちょっとバタバタしてるけど、まあ、なんとかなるよ」

明るく答える彼の笑顔に、どこか“作り物”の影を感じた。
きっと、本当のことを話せば、心配させると分かっているから。だからこそ、隠している。

(雄一……私、何か……できること……)

麻衣はスマホを取り出し、スキルアプリを立ち上げる。
【スキル:日常支援Lv.35】【副スキル:環境最適化】【対象:家族】
発動条件は「不在時の支援/危機察知による自動最適化」。

(……知らないうちに、家族を助けるように、スキルが動いてたんだ……)

そして、もう一つ。

画面に、新たなスキル通知が表示された。

【新スキル獲得:情報干渉(家庭限定)】

(なにこれ……家庭限定?)

説明を読むと、「家族の生活圏内でのみ、情報の取得・補正・拡張が可能」とある。

“情報の取得”――つまり、会社で起きていることを、麻衣が“知る”ことができる。

“補正”――つまり、ちょっとした誤解やミスを、こっそり正せる。

“拡張”――たとえば、雄一が気づかなかった提案書の抜けを、見えるように補足したり……。

(私が直接手を出さなくても、雄一を助けられるってこと?)

これはもしかして……
“気づかれないまま、家族を守るためのスキル”なんだ。

***

翌朝。

「……あれ、なんで? この見積もり……直ってる……?」

「え、この資料、昨日の夜はなかったぞ?」

会社のオフィスでは、小さな奇跡が起きていた。
雄一の部署で起きかけていたトラブル――発注書の記入ミスや取引先への伝達漏れなど、倒産の引き金になりかねない小さなミスが、いつの間にか“是正”されていたのだ。

原因は不明。だが結果として、プロジェクトはギリギリ持ち直し、上層部からも評価される形となった。

「……本当に、間一髪だったな」

雄一は、深く息を吐いた。

(俺、ずっと……何も守れてないって思ってた。けど……)

ふと、スマホの待ち受けの家族写真を見つめる。

そこには、ひなのを抱えて笑う麻衣の姿。

(……いや、守られてたのは、俺の方だったのかもしれないな)

***

その日の夜。

「今日ね、パパ、なんかニコニコして帰ってきたよー!」

「うん、なんか、ちょっと安心した顔だった!」

子どもたちの声を聞きながら、麻衣は静かに笑った。

スキルが勝手に助けたかもしれない。
でも、たぶんそれだけじゃない。

(……私が、心から「守りたい」と思ったから)

スキルが答えたのは、その想い。

麻衣は、ソファに座って、ひなのの髪を撫でた。

「おかえり、雄一さん。今日もお疲れさま」

「ただいま。……ありがとう、麻衣」

それは、スキルもゲームも関係ない、心の通い合いだった。


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