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128話『日常の盾、非日常の剣』
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「おはよう、ママ!」
いつも通りの朝だった。ひなのが先に目覚め、悠翔が眠そうにリビングへ。雄一はすでにスーツ姿でコーヒーを片手にニュースを眺めている。
けれど、麻衣の中には静かに揺れる違和感があった。
(変わらないように見えて、少しずつ……何かが変わっている)
それは“スキル”のせいだけではなかった。
人の目には見えない“ゆらぎ”が、町のあちこちで起き始めていた。
***
その日の夕方、麻衣は買い物の帰り道、ふと立ち止まった。
団地の前の広場に、子どもたちが集まっている。
……が、その中に、明らかに“違和感のある子”が一人混ざっていた。
「……スキル世界の……?」
目に映るのは、ゲーム世界の“サポートNPC”で見たことのある少年の姿。人工的に整いすぎた顔。反応の薄い瞳。
現実にいてはいけない存在。
そのとき、麻衣のスマホに通知が浮かぶ。
> 【警告:スキル干渉体「模擬住民」出現】
※影響範囲:1ブロック内
※状態:観察モード
「観察って……なんでここに?」
スマホを手にしたまま、麻衣は歩を進めた。
「……ねえ、君。名前は?」
その“少年”は、一瞬きょとんとした顔を見せたあと、小さな声で言った。
「──ボクは、ここで過ごす許可をもらってます。観察任務ですから」
「誰に許可を?」
「……プレイヤーに。あなた、です」
麻衣の背筋に寒気が走る。
(私が、呼んだ? ……そんなつもりなかったのに)
> 【補足:あなたの“並行選択”によって、境界に揺らぎが生じています】
※その結果、“別世界の存在”が現実世界に対話的形で現れ始めています。
(対話的……?)
つまり、彼らは敵意ではなく、“理解”を求めて出てきている。
現実を壊すのではなく、“共存の可能性”を模索するために。
***
その夜、雄一がリビングでぽつりと呟いた。
「麻衣……最近、夢を見るんだ。ゲームの中の世界みたいな場所で、誰かと話してる夢」
「……誰と?」
「よくわからない。顔は見えない。でも、その人は……“君を助けたい”って言ってた」
麻衣は思わず、手に持っていたカップを握りしめた。
(雄一にも、“スキル世界”の影響が……?)
いや、違う。これは“影響”ではない。
彼はもう――彼自身の意志で、境界に触れ始めているのだ。
「……雄一、お願いがあるの。ちょっとだけ……一緒に来てくれる?」
「うん、いいよ」
***
二人で向かったのは、町外れの“あの公園”。
数日前から、ここだけ景色が変わり始めていた。
ベンチの一部が、明らかに“ファンタジー風の装飾”に置き換わっていたり、花壇にあり得ない植物が咲いていたり。
「ここが……?」
「たぶん、境界点。現実と、あっちの世界が混ざり始めてる場所」
「……怖くないの?」
「ううん、怖くないよ。だって……わたしが始めたことだから」
麻衣がそう言ったとき、公園の奥からまた“誰か”が現れた。
銀色の髪を揺らす、どこか見覚えのある女性。
それは、ゲーム内で何度も会ってきた“スキルガイド”の姿だった。
でも――彼女の表情には、いつもの機械的な微笑みではなく、“迷い”があった。
「あなたに問います。田仲麻衣。
このまま境界が完全に開けば、“融合”が始まります。世界がひとつになるかもしれません。
それでも、なおあなたは進みますか?」
麻衣は、雄一の手をぎゅっと握った。
「私は……家族を守りたい。でも、世界を壊したくはない。
その両方を諦めないって、決めたの」
その言葉に、“ガイド”はゆっくりと目を伏せた。
「……ならば、選択の最終局面へと向かいます。
――プレイヤーの意志を、最終フェーズに反映します」
> 【スキル《日常支援》が進化条件を満たしました】
《進化可能スキル:選択》
・「現実との融合を受け入れる」
・「スキルを封印し、現実を守る」
・「第三の可能性を模索する」
(……まだ、決めない。だって、私ひとりで背負うことじゃない)
「……答えは、きっと見つけるよ。みんなと一緒に」
そして、その言葉に呼応するように、雄一がそっと麻衣の肩に手を置いた。
「……俺も、一緒に考える。君と、家族と、世界のこと」
麻衣は微笑みながら、小さくうなずいた。
***
次の朝。
“模擬住民”だった少年は、もう姿を消していた。
だが、代わりに、広場にはこんな張り紙があった。
> 【ご協力ありがとうございました】
――新しい日常の可能性を、確認しました。
麻衣はその紙を見つめ、そっと呟いた。
「まだ終わらない。けど、きっと終わらせられる」
その視線の先には――
変わらない町並みと、その裏側でゆっくりと変わり始めた“日常の境界線”が広がっていた。
---
いつも通りの朝だった。ひなのが先に目覚め、悠翔が眠そうにリビングへ。雄一はすでにスーツ姿でコーヒーを片手にニュースを眺めている。
けれど、麻衣の中には静かに揺れる違和感があった。
(変わらないように見えて、少しずつ……何かが変わっている)
それは“スキル”のせいだけではなかった。
人の目には見えない“ゆらぎ”が、町のあちこちで起き始めていた。
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その日の夕方、麻衣は買い物の帰り道、ふと立ち止まった。
団地の前の広場に、子どもたちが集まっている。
……が、その中に、明らかに“違和感のある子”が一人混ざっていた。
「……スキル世界の……?」
目に映るのは、ゲーム世界の“サポートNPC”で見たことのある少年の姿。人工的に整いすぎた顔。反応の薄い瞳。
現実にいてはいけない存在。
そのとき、麻衣のスマホに通知が浮かぶ。
> 【警告:スキル干渉体「模擬住民」出現】
※影響範囲:1ブロック内
※状態:観察モード
「観察って……なんでここに?」
スマホを手にしたまま、麻衣は歩を進めた。
「……ねえ、君。名前は?」
その“少年”は、一瞬きょとんとした顔を見せたあと、小さな声で言った。
「──ボクは、ここで過ごす許可をもらってます。観察任務ですから」
「誰に許可を?」
「……プレイヤーに。あなた、です」
麻衣の背筋に寒気が走る。
(私が、呼んだ? ……そんなつもりなかったのに)
> 【補足:あなたの“並行選択”によって、境界に揺らぎが生じています】
※その結果、“別世界の存在”が現実世界に対話的形で現れ始めています。
(対話的……?)
つまり、彼らは敵意ではなく、“理解”を求めて出てきている。
現実を壊すのではなく、“共存の可能性”を模索するために。
***
その夜、雄一がリビングでぽつりと呟いた。
「麻衣……最近、夢を見るんだ。ゲームの中の世界みたいな場所で、誰かと話してる夢」
「……誰と?」
「よくわからない。顔は見えない。でも、その人は……“君を助けたい”って言ってた」
麻衣は思わず、手に持っていたカップを握りしめた。
(雄一にも、“スキル世界”の影響が……?)
いや、違う。これは“影響”ではない。
彼はもう――彼自身の意志で、境界に触れ始めているのだ。
「……雄一、お願いがあるの。ちょっとだけ……一緒に来てくれる?」
「うん、いいよ」
***
二人で向かったのは、町外れの“あの公園”。
数日前から、ここだけ景色が変わり始めていた。
ベンチの一部が、明らかに“ファンタジー風の装飾”に置き換わっていたり、花壇にあり得ない植物が咲いていたり。
「ここが……?」
「たぶん、境界点。現実と、あっちの世界が混ざり始めてる場所」
「……怖くないの?」
「ううん、怖くないよ。だって……わたしが始めたことだから」
麻衣がそう言ったとき、公園の奥からまた“誰か”が現れた。
銀色の髪を揺らす、どこか見覚えのある女性。
それは、ゲーム内で何度も会ってきた“スキルガイド”の姿だった。
でも――彼女の表情には、いつもの機械的な微笑みではなく、“迷い”があった。
「あなたに問います。田仲麻衣。
このまま境界が完全に開けば、“融合”が始まります。世界がひとつになるかもしれません。
それでも、なおあなたは進みますか?」
麻衣は、雄一の手をぎゅっと握った。
「私は……家族を守りたい。でも、世界を壊したくはない。
その両方を諦めないって、決めたの」
その言葉に、“ガイド”はゆっくりと目を伏せた。
「……ならば、選択の最終局面へと向かいます。
――プレイヤーの意志を、最終フェーズに反映します」
> 【スキル《日常支援》が進化条件を満たしました】
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・「スキルを封印し、現実を守る」
・「第三の可能性を模索する」
(……まだ、決めない。だって、私ひとりで背負うことじゃない)
「……答えは、きっと見つけるよ。みんなと一緒に」
そして、その言葉に呼応するように、雄一がそっと麻衣の肩に手を置いた。
「……俺も、一緒に考える。君と、家族と、世界のこと」
麻衣は微笑みながら、小さくうなずいた。
***
次の朝。
“模擬住民”だった少年は、もう姿を消していた。
だが、代わりに、広場にはこんな張り紙があった。
> 【ご協力ありがとうございました】
――新しい日常の可能性を、確認しました。
麻衣はその紙を見つめ、そっと呟いた。
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その視線の先には――
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