亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた

榛乃

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Side story ¦ ルシウス

04

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 もし本当に、彼女がそれを理由に嫉妬心を抱いていたのなら。なんて残酷なことを言うのだろう、と思った。リシェルが最も欲していたものを、彼女はこれまで何度も、それこそ身から溢れるほどに与えられてきたはずなのに。アルベルトの視線を。アルベルトの愛情を。アルベルトのやさしさを。どれほど願っても、どんなに望んでも、それらが自分に向けられることは決してないと分かっていながら、それでもリシェルが、心の奥底では密かに焦がれていたものを、オリヴィアは当然のように手にしていたというのに。何年も、何年も、ずっと。

「双子の私には出来なくて、貴方だけが出来たの。自然に。それが……それが、本当に羨ましくて、寂しくて……嫉妬してしまったわ」

 それなのに、どの口が“嫉妬”だの何だのとほざくのだろう。
 彼女へ怒りを向けるのは間違っている、と。責めてはいけない、と。分かっている。頭では分かっているのだ。どうしようもないことだ、とも。
 けれど、胸の奥底に湧き上がる苛立ちを抑えきることが出来ず、俺はそれを悟られぬよう視線を逸らし、彼女へ背を向けた。リシェルと瓜二つの顔から、殆ど同じ形をした目から逃げるようにして。

「……アルベルトを呼んでくる」

 今すぐここを出ていきたかった。外へ出て、雪で冷やされた清潔な空気を、身体いっぱいに吸い込みたくてたまらなかった。そうすることで、胸のざわつきをどうにか鎮めたかった。
 だから、努めて平静を装いながら歩み出そうとした俺を、しかしオリヴィアは無理矢理引き留めた。上着の袖を、蒼白い細い指で、まるで縋り付くように掴んで。

「ねえ、ルシウス。お願いがあるの。私の……最期の、お願い」

 振り返ることはしなかった。しなかったというより、出来なかった。ただ静かに立ち尽くし、背中越しに彼女の言葉の続きを待つ。瞬きをする度、瞼の裏の暗闇に、リシェルの顔が次から次へと浮かんでくる。驚いている顔。泣いている顔。怒っている顔。そして、まるで太陽のように眩い、くしゃりと綻んだ笑顔――。

「貴方にしか頼めないことなの」

 微かに触れた彼女の皮膚は、ひどく冷たかった。暖炉や魔道具で、春の陽だまりの中のようにあたためられた室内にいながら。外気に晒された人形の手でもあるみたいに。生気のまるで感じられない、骨の浮いた冷たい手。

「どうか、お願い。ずっと……ずっと、あの子の傍にいてあげて。誰よりも、一番近くに」

 そう懇願する声は、病に蝕まれているとは思えないほど澄んでいて、力強かった。この世にたったひとりの、愛おしくてたまらない妹への想いが溢れんばかりに滲んだ、胸が締め付けられるほど真っ直ぐな声。祈るように紡がれたその言葉に、心が強く揺さぶられるのを感じながら、俺はただ奥歯をきつく噛み締めるしかなかった。大切な妹の幸せを願う、姉としての愛情。健気な、どこまでもどこまで純粋な想い。

 それから三ヶ月後、彼女は亡くなった。ずっと共に生きてきた、かけがえのない妹に見守られながら。最愛の夫の腕の中で、静かに――。
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