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三日後の夕方、ロアンさんは約束の時間ぴったりに迎えに来てくれた。未だ村への正しい道を憶えきれていない私の為に。
陽はすっかり傾き、木々の上に広がる空には、あたたかな橙色が滲んでいた。もっと上の方を仰げば、そこには深い藍色が蕩けるように落ちはじめ、少しだけ欠けた白い月がぽっかりと浮かんでいる。
ヴィオラさんの誘いを、はじめは断ろうと思っていた。いくら“聖女の力”でアレク君の命が助かったとはいえ、彼がノクシールに拒絶反応を示したのは私のせいだし、何より――“魔女”である私と親しくしていることが他の村人たちに知られたら、彼女たち家族の立場が危うくなってしまうかもしれない。
そう考えて、返事を聞きに来たロアンさんに断りの言葉を告げたのだけれど、
――貴女が行かないのなら、僕も行きません。
と言われてしまっては、私は結局、了承せざるを得なかった。「何も出来なかった僕だけが行くわけにはいかない」という彼の言い分は、分からなくもない。でも、ふたりとも行かないとなると、それこそ折角誘ってくれたヴィオラさんに申し訳ない気がした。私自身は断ろうとしていたくせに、おかしな話ではあるけれど。
段々と村が近付いてくるにつれ、不安と緊張に苛まれる私を、ロアンさんはやさしく気遣ってくれた。大丈夫ですよ、と、やわらかな声音で言葉をかけてくれながら。貴女にもし酷いことをするような人がいれば僕たちが赦しませんから、とも。そんなふうに言ってくれる人なんて、今までひとりもいなかったから、つい涙腺が緩みそうになってしまって、私は村につくまでの道すがら、彼が気になっているというグレオリウス様のことについてひたすら語った。記憶にある限り、全てのことを。そうすることで、こぼれそうになるものを誤魔化すしかなかった。
ロアンさんに案内されたサリニエ親子――ヴィオラさんたち――の家は、村に入ってすぐのところに、幾つかの民家と密集して建っていた。深茶色の柱と、その合間を埋めるように塗られた白い漆喰の壁、小さな菱形の桟と硝子の組み合わさった幾つもの窓。壁沿いには煉瓦造りの花壇が設けられ、白や紫の愛らしい花が夕風に揺れている。柱の幾つかには、玉ねぎなどの野菜やオレンジなどのドライフルーツ、それからクローブといった香辛料が、麻縄に括り付けて吊るされていた。
すぐ傍には、村のもうひとつのシンボルだという小さな時計台があり、根本には古い木製のベンチが置かれている。背凭れのない、ただ台座と脚を取り付けただけのような、簡素なベンチ。そこに、村人と思しき三人の老女が座っていた。ロアンさんの後ろについて歩く私を、じっと見据えながら。けれどその視線に、憎悪や侮蔑というものはまるで含まれていなかった。今までたくさん浴びてきたそのどれとも違って、純粋な“興味”だけがそこに滲んでいる。転がったボールを追って走ってきた数人の子どもたちも、少し離れた所にある井戸の周りに集っている女性たちも、みな一様に。
罵声を投げつけられているわけでも、嘲られているわけでもないと分かっていても、たくさんの視線に晒されるのは、やっぱりどうしても緊張してしまう。これまで嫌と言うほど心に刻みつけられた、色んな記憶と言葉のせいで。本当にこのままヴィオラさんたちの家へ行って良いのだろうか。ロアンさんの傍を歩いていて良いのだろうか。そんな不安が、引っかき傷のような痕を残しながら胸を過ってゆく。私のせいで彼らが迷惑を受けたり嫌な思いをしたりするのは、絶対に避けたい。これまで出会ったどの人たちとも違って、私に唯一やさしく接してくれた人たちだから。
「安心してください。みんな、ただ貴女に興味があるだけですから」
そう言ってふわりと目を細めるロアンさんの横顔をちらりと一瞥し、私は曖昧に苦笑をこぼす。道を踏み締める足が、まるで鉛の枷でも嵌められているみたいに、重たい。このまま彼についていって、本当に良いのだろうか。重たい足を半ば引き摺るようにしておずおずと歩みながら、私は胸の内でひっそりと溜息をつく。身体の中に渦巻く不安は、村に足を踏み入れる前のそれの比ではない。
そうこうしている内に、サリニエ家の玄関扉の前に着いてしまい、私は無数の視線を未だ背中に受けたまま、先端がアーチ型になったその深茶色の扉を、緊張に息を呑みながらじっと見つめる。ロアンさんがノックをして数秒後、家の中からばたばたとした忙しない足音が微かに聞こえ、それからすぐに、眼の前に静かに佇んでいた扉が引き開かれた。
その瞬間、足元にぼふんと何かが勢いよくぶつかり、私は虚を突かれて体勢を崩す。すかさずロアンさんが手を伸ばして背中を支えてくれたおかげで、どうにか尻餅をつくことは避けられたけれど。あまりに突然のことに状況が呑み込めず、私は間の抜けた顔でぱちりと目を瞬かせた。
「こらっ、アレク! お客様に失礼でしょう!」
慌てて奥から出てきたヴィオラさんが、むっと顔を顰めて私の足元を見下ろす。その鋭い視線を辿って、足元に絡みつく何かへゆるゆると目を落としてみると、そこには白い歯を覗かせながらにっこりと無邪気に笑うアレク君が抱きついていた。左から三番目の前歯が、一本抜けている。まさかと思ってぎょっとしたけれど、ヴィオラさん曰く、どうやら最近抜けた乳歯の痕のようだった。
「ごめんなさいね。貴女が来ると聞いて、凄く楽しみにしていたものだから」
そう言ってふくよかに微笑み、ヴィオラさんは私の顔を暫しじっと見つめて、それからゆっくりと伸ばした両腕で私をぎゅっと力強く、それでもやさしく抱き締めた。感慨深そうに、耳元で小さな吐息をこぼしながら。
「貴女に、ちゃんとお礼をしたかったの。だから来てくれて、本当に嬉しいわ」
彼女の背中へ腕を回すべきか否か迷って、傍らに立つロアンさんを戸惑いながら横目で見上げると、彼は静かに顔を綻ばせ、それからこくりと頷いた。だから私は、躊躇いがちにではあったけれど、おずおずと両腕を持ち上げて、肌触りの良いワンピースに包まれたヴィオラさんの背中へそっと腕を回す。彼女ほど力強くはないけれど、それでも“会えて嬉しい”という想いを、触れ合った部分からしっかりと伝えながら。
「さあさあ、遠慮せず中に入って。料理はもう出来てるから、すぐ出すわね」
足元に抱きついていたアレク君に手を引かれ、私は玄関扉を潜って、室内へと足を踏み入れる。真壁造りの室内は、外観と同様、深茶色の柱と漆喰の壁で四方を覆われていた。壁に吊るされた乾燥オレンジと、すっかり水分の抜けた白いカモミール。飴色に磨かれた大きな書棚、壁に切られた煉瓦造りの暖炉、その上に並べられた幾つもの小ぶりなオブジェ、窓際に置かれた丸いゲリドン、白磁の花瓶にたっぷり活けられた赤いポピー。
リビングと思しき部屋の中央には長方形の大きなテーブルと、人数分の椅子が置かれられていた。そのひとつに腰掛けていたマルセルさんがはっと顔を上げ、そうして気まずそうに微笑みながら会釈する。彼には既に、たくさんの謝罪の言葉をもらっているけれど。それでも未だ引き摺っている部分があるのか、マルセルさんはすぐに目を逸らしてしまった。どうやらあの晩、彼はヴィオラさんにこってりと叱られたらしい。
陽はすっかり傾き、木々の上に広がる空には、あたたかな橙色が滲んでいた。もっと上の方を仰げば、そこには深い藍色が蕩けるように落ちはじめ、少しだけ欠けた白い月がぽっかりと浮かんでいる。
ヴィオラさんの誘いを、はじめは断ろうと思っていた。いくら“聖女の力”でアレク君の命が助かったとはいえ、彼がノクシールに拒絶反応を示したのは私のせいだし、何より――“魔女”である私と親しくしていることが他の村人たちに知られたら、彼女たち家族の立場が危うくなってしまうかもしれない。
そう考えて、返事を聞きに来たロアンさんに断りの言葉を告げたのだけれど、
――貴女が行かないのなら、僕も行きません。
と言われてしまっては、私は結局、了承せざるを得なかった。「何も出来なかった僕だけが行くわけにはいかない」という彼の言い分は、分からなくもない。でも、ふたりとも行かないとなると、それこそ折角誘ってくれたヴィオラさんに申し訳ない気がした。私自身は断ろうとしていたくせに、おかしな話ではあるけれど。
段々と村が近付いてくるにつれ、不安と緊張に苛まれる私を、ロアンさんはやさしく気遣ってくれた。大丈夫ですよ、と、やわらかな声音で言葉をかけてくれながら。貴女にもし酷いことをするような人がいれば僕たちが赦しませんから、とも。そんなふうに言ってくれる人なんて、今までひとりもいなかったから、つい涙腺が緩みそうになってしまって、私は村につくまでの道すがら、彼が気になっているというグレオリウス様のことについてひたすら語った。記憶にある限り、全てのことを。そうすることで、こぼれそうになるものを誤魔化すしかなかった。
ロアンさんに案内されたサリニエ親子――ヴィオラさんたち――の家は、村に入ってすぐのところに、幾つかの民家と密集して建っていた。深茶色の柱と、その合間を埋めるように塗られた白い漆喰の壁、小さな菱形の桟と硝子の組み合わさった幾つもの窓。壁沿いには煉瓦造りの花壇が設けられ、白や紫の愛らしい花が夕風に揺れている。柱の幾つかには、玉ねぎなどの野菜やオレンジなどのドライフルーツ、それからクローブといった香辛料が、麻縄に括り付けて吊るされていた。
すぐ傍には、村のもうひとつのシンボルだという小さな時計台があり、根本には古い木製のベンチが置かれている。背凭れのない、ただ台座と脚を取り付けただけのような、簡素なベンチ。そこに、村人と思しき三人の老女が座っていた。ロアンさんの後ろについて歩く私を、じっと見据えながら。けれどその視線に、憎悪や侮蔑というものはまるで含まれていなかった。今までたくさん浴びてきたそのどれとも違って、純粋な“興味”だけがそこに滲んでいる。転がったボールを追って走ってきた数人の子どもたちも、少し離れた所にある井戸の周りに集っている女性たちも、みな一様に。
罵声を投げつけられているわけでも、嘲られているわけでもないと分かっていても、たくさんの視線に晒されるのは、やっぱりどうしても緊張してしまう。これまで嫌と言うほど心に刻みつけられた、色んな記憶と言葉のせいで。本当にこのままヴィオラさんたちの家へ行って良いのだろうか。ロアンさんの傍を歩いていて良いのだろうか。そんな不安が、引っかき傷のような痕を残しながら胸を過ってゆく。私のせいで彼らが迷惑を受けたり嫌な思いをしたりするのは、絶対に避けたい。これまで出会ったどの人たちとも違って、私に唯一やさしく接してくれた人たちだから。
「安心してください。みんな、ただ貴女に興味があるだけですから」
そう言ってふわりと目を細めるロアンさんの横顔をちらりと一瞥し、私は曖昧に苦笑をこぼす。道を踏み締める足が、まるで鉛の枷でも嵌められているみたいに、重たい。このまま彼についていって、本当に良いのだろうか。重たい足を半ば引き摺るようにしておずおずと歩みながら、私は胸の内でひっそりと溜息をつく。身体の中に渦巻く不安は、村に足を踏み入れる前のそれの比ではない。
そうこうしている内に、サリニエ家の玄関扉の前に着いてしまい、私は無数の視線を未だ背中に受けたまま、先端がアーチ型になったその深茶色の扉を、緊張に息を呑みながらじっと見つめる。ロアンさんがノックをして数秒後、家の中からばたばたとした忙しない足音が微かに聞こえ、それからすぐに、眼の前に静かに佇んでいた扉が引き開かれた。
その瞬間、足元にぼふんと何かが勢いよくぶつかり、私は虚を突かれて体勢を崩す。すかさずロアンさんが手を伸ばして背中を支えてくれたおかげで、どうにか尻餅をつくことは避けられたけれど。あまりに突然のことに状況が呑み込めず、私は間の抜けた顔でぱちりと目を瞬かせた。
「こらっ、アレク! お客様に失礼でしょう!」
慌てて奥から出てきたヴィオラさんが、むっと顔を顰めて私の足元を見下ろす。その鋭い視線を辿って、足元に絡みつく何かへゆるゆると目を落としてみると、そこには白い歯を覗かせながらにっこりと無邪気に笑うアレク君が抱きついていた。左から三番目の前歯が、一本抜けている。まさかと思ってぎょっとしたけれど、ヴィオラさん曰く、どうやら最近抜けた乳歯の痕のようだった。
「ごめんなさいね。貴女が来ると聞いて、凄く楽しみにしていたものだから」
そう言ってふくよかに微笑み、ヴィオラさんは私の顔を暫しじっと見つめて、それからゆっくりと伸ばした両腕で私をぎゅっと力強く、それでもやさしく抱き締めた。感慨深そうに、耳元で小さな吐息をこぼしながら。
「貴女に、ちゃんとお礼をしたかったの。だから来てくれて、本当に嬉しいわ」
彼女の背中へ腕を回すべきか否か迷って、傍らに立つロアンさんを戸惑いながら横目で見上げると、彼は静かに顔を綻ばせ、それからこくりと頷いた。だから私は、躊躇いがちにではあったけれど、おずおずと両腕を持ち上げて、肌触りの良いワンピースに包まれたヴィオラさんの背中へそっと腕を回す。彼女ほど力強くはないけれど、それでも“会えて嬉しい”という想いを、触れ合った部分からしっかりと伝えながら。
「さあさあ、遠慮せず中に入って。料理はもう出来てるから、すぐ出すわね」
足元に抱きついていたアレク君に手を引かれ、私は玄関扉を潜って、室内へと足を踏み入れる。真壁造りの室内は、外観と同様、深茶色の柱と漆喰の壁で四方を覆われていた。壁に吊るされた乾燥オレンジと、すっかり水分の抜けた白いカモミール。飴色に磨かれた大きな書棚、壁に切られた煉瓦造りの暖炉、その上に並べられた幾つもの小ぶりなオブジェ、窓際に置かれた丸いゲリドン、白磁の花瓶にたっぷり活けられた赤いポピー。
リビングと思しき部屋の中央には長方形の大きなテーブルと、人数分の椅子が置かれられていた。そのひとつに腰掛けていたマルセルさんがはっと顔を上げ、そうして気まずそうに微笑みながら会釈する。彼には既に、たくさんの謝罪の言葉をもらっているけれど。それでも未だ引き摺っている部分があるのか、マルセルさんはすぐに目を逸らしてしまった。どうやらあの晩、彼はヴィオラさんにこってりと叱られたらしい。
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