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白くてやわらかな何かを、ぎゅっと力強く握る小さな手が見える。それから、がしがしと藻掻くように足を動かして、上へ、また上へと登ってゆく感覚も。
視界の端で、前髪の先がちらちらと揺れている。風が吹いているのだと分かるのに、髪や肌にそれが触れる感触はまるでない。それなのに、身体は真綿に包まれているみたいにあたたかく、鼻先には、やさしい匂いがふんわりと満ちていた。
――落ちるぞ。
ふいに、頭上から声が落ちてきた。低く落ち着いた、感情の欠片も感じられない淡々とした男性の声。その声に私は驚くでもなく、怒るでもなく、ただ無邪気に笑っていた。きゃっきゃ、と声をあげるように。でもその笑い声は、何故か耳に届かない。分厚い水の膜に隔たれてでもみるみたいに、どこか遠く、ぼんやりとしている。それは声とも音ともいえない、何かの響き。だから私はただ、そういうふうに笑っている、と、そう感じられるだけ。
――君にとっては、さながら高峰かな。
また声が聞こえた。今度はさっきとは違う、飄々とした調子の明るい声。その声はくすくすと愉快そうに笑い、「随分お転婆なもんだ」と言った。私自身の声は聞こえないのに、他の誰かのそれはちゃんと鮮明に聞こえるのは、どうしてだろう。何に遮られることも、輪郭がぼやけることもなく、はっきりと響いてくるのは。
――珍しいな。お前がそんなに気を許しているのは。
今度もまた違う声――女性の声――が聞こえたけれど、私は何も反応をせずに、ただ黙々と手と足を動かして白い壁を登り続ける。時折ずり下がりながら、それでも諦めることなく、ひたすらに上を目指して。そこに何があるかなんて、分からないのに。けれど何故か、そこに辿り着けばとても良いものがある、という気がした。とても良い、そしてとても嬉しい何かが。だから、早くそこへ行きたかった。行きたくて行きたくてたまらなかった。
けれども、白い壁を掴もうと伸ばした右手が空を切り、そのせいで踏ん張っていた足まで支えを失う。その瞬間、バランスを崩した私は、背中からすとんと落下した。あっ、と誰かが頓狂な声をあげる。その一瞬のような声の間にも、私はとまることなく、どんどん宙を滑って落ちてゆく。下へ、下へ、と。白い壁はみるみる遠のき、視界の端で、淡いラベンダーグレイが微かに揺れた。
このままだと、地面にぶつかる――と頭では分かっているのに。でも不思議と、少しも怖くはなかった。寧ろ愉快ですらあって、きっと今私は笑っているのだろう、とまるで他人事のように思う。もしかしたらまた、きゃっきゃと無邪気に声をあげて笑っているのかもしれない、と。でもその声は、やっぱり耳へは届かない。
やがて、ぽすん、と何かにやわらかく受け止められた感触がして、私はぱちりと目を瞬かせる。すぐに傍から、くつくつと喉を鳴らす笑い声と、それを嗜める穏やかな声が聞こえた。それらをぼんやりと耳にしながら、私はただぱちぱちと瞬きを繰り返し、澄んだ青空を背景にこちらを見下ろす、深い紫色の瞳をじっと見つめる。まるでアメシストのように美しい、淡く光り輝いているようにも見える、深い紫色の瞳を――。
ふわりと掬い上げられるように意識が浮かび、重たい瞼をそっと持ち上げる。
霞んだ視界に最初に映ったのは、所々に染みの浮いた古い板張りの、見覚えのない天井だった。それを、夢と現の狭間を揺蕩うようにぼんやりと眺めながら、身体のそこここに残る眠気が抜けるのをじっと待つ。薄暗い部屋を横切るようにして伸びる白い光、早朝特有の新鮮な空気、そこに仄かに混じる乾いたオレンジのすっきりとした爽やかな香り。それから、身体をまるっと包み込む、真綿のような優しい感触。
何度か瞬きを繰り返すうちに意識が覚醒し、私はゆっくりと上体を起こす。久しぶりにきちんとしたベッドで眠ったからか、身体がとても軽い。寝具はどれも清潔でやわらかく、一晩眠っただけなのに、蓄積していた疲労がすっかり癒やされたようだった。
すぐ脇の窓にかかったカーテンを引くと、薄い硝子の向こう側一面に、雲ひとつない鮮やかな青空が広がっていた。燦々と降り注ぐ陽光が、起き抜けの目にはとても強烈で、思わず目を細める。愛らしい小鳥の囀り、朝光を散らすように揺れる枝葉、どこか遠くでがらがらと鳴る荷車の音。
ぐっと伸びをしてからベッドを降り、私はキャビネットの横に立てかけられた姿見の前に立つ。綺麗に磨き込まれた鏡を覗き込み、目元が腫れていないかを確かめてから、今度は一歩退いて、全身をくまなく眺める。ゆったりとした麻の寝間着に包まれた自分の身体が、昨日ここへ来る前よりも少しだけふっくらしているように見えるのは、気の所為だろうか。でも、そう思ってしまうくらいには、昨晩はよく食べ、そしてよく飲んだ。ヴィオラさんお手製の、家庭的でやさしい味わいの料理をたくさん、心ゆくまで。デザートには果物のたっぷりのったタルトと林檎の蒸し焼きを食べたし、アレク君が眠った後には、ビスコッティをお供に食後酒まで楽しんだ。
その頃にはすっかり夜も更け、夜道を帰すのは危ないからと、一晩泊まっていくことを勧められた。ロアンさんは自宅が近くだからと、お開きと同時に帰っていったけれど、私はそんな彼の説得もあり、ヴィオラさんたちの勧めに甘えることにした。ひとりで夜道を歩くのには、慣れてはいるのだけど。それは駄目だ、帰るなら僕が送っていく、と言われては、どうしても頷かざるを得なかった。礼拝堂へ着くまではふたりだけれど、私を送り届けた後の帰路、彼はひとりだ。いくら年若い男性だろうが、夜道の危なさにそれは関係ない。
寝間着から自分の服に着替え、乱れた髪の毛を手櫛で整えてから、そっと客間を抜け出す。アレク君たちはまだ眠っているのか、家の中はとても静かだ。明かり取りの窓から差し込む朝陽が、廊下をあたたかく照らしている。その上を、足音に気をつけながら、ゆっくりと進む。木製の小さなスツールに飾られた白い小花、簡素な額縁に入れて飾られた絵、灯りの落とされた燭台。
廊下の突き当たりにある階段に足をかけた時、ふわりと、香ばしい匂いが鼻先を掠めた。何かが焼けるような、食欲を誘う良い匂い。昨日あれだけたらふく食べたのに、ついお腹が鳴ってしまいそうで、私は苦笑する。どうやら“満腹”を思い出した胃袋は、今までの不足を補うかのように、今やすっかり欲張りになってしまったらしい。
一階へ下り、リビングを横切ってキッチンを覗いてみると、そこにはエプロンをつけたヴィオラさんの、華奢な後ろ姿があった。深緑色のリボンで結われたブロンドの髪の毛が、朝の光を浴びて淡く輝いている。
「おはようございます」
声を掛けると、ヴィオラさんは動かしていた手をとめて、穏やかに振り向いた。長く濃い睫毛に縁取られた、蜂蜜のようにとろりとした琥珀色の瞳。彼女は私の姿を認めると、水で濡れた手を布巾で拭いながら、にっこりと微笑んだ。
「おはよう。昨晩はよく眠れたかしら?」
「はい、おかげさまで。とても気持ちよく眠れました」
そう答えた瞬間、ふと、そういえば何か夢を見ていたような気がする、と思い出す。それはひどく朧気で、どんな内容だったのか、まるで判然としないけれど。でも、とても懐かしく、胸があたたかくなるような夢だった、という感覚だけが、頭に、心に、身体のそこここに今も残っているような気がした。じんわりと、奥底まで沁みるように。
それなのに、内容をはっきりと思い出せないというのが、少しもどかしい。思い出せればきっと、もっと晴れやかな心地になれるだろうに。――けれど、そう思うのもまた、不思議なことだった。どんな夢だったのか分からないのに、思い出せばきっと晴れやかな気持ちになれると思うだなんて。
「今、パンを焼いているところなの。もうすぐ出来るから、先にお茶を淹れるわね」
視界の端で、前髪の先がちらちらと揺れている。風が吹いているのだと分かるのに、髪や肌にそれが触れる感触はまるでない。それなのに、身体は真綿に包まれているみたいにあたたかく、鼻先には、やさしい匂いがふんわりと満ちていた。
――落ちるぞ。
ふいに、頭上から声が落ちてきた。低く落ち着いた、感情の欠片も感じられない淡々とした男性の声。その声に私は驚くでもなく、怒るでもなく、ただ無邪気に笑っていた。きゃっきゃ、と声をあげるように。でもその笑い声は、何故か耳に届かない。分厚い水の膜に隔たれてでもみるみたいに、どこか遠く、ぼんやりとしている。それは声とも音ともいえない、何かの響き。だから私はただ、そういうふうに笑っている、と、そう感じられるだけ。
――君にとっては、さながら高峰かな。
また声が聞こえた。今度はさっきとは違う、飄々とした調子の明るい声。その声はくすくすと愉快そうに笑い、「随分お転婆なもんだ」と言った。私自身の声は聞こえないのに、他の誰かのそれはちゃんと鮮明に聞こえるのは、どうしてだろう。何に遮られることも、輪郭がぼやけることもなく、はっきりと響いてくるのは。
――珍しいな。お前がそんなに気を許しているのは。
今度もまた違う声――女性の声――が聞こえたけれど、私は何も反応をせずに、ただ黙々と手と足を動かして白い壁を登り続ける。時折ずり下がりながら、それでも諦めることなく、ひたすらに上を目指して。そこに何があるかなんて、分からないのに。けれど何故か、そこに辿り着けばとても良いものがある、という気がした。とても良い、そしてとても嬉しい何かが。だから、早くそこへ行きたかった。行きたくて行きたくてたまらなかった。
けれども、白い壁を掴もうと伸ばした右手が空を切り、そのせいで踏ん張っていた足まで支えを失う。その瞬間、バランスを崩した私は、背中からすとんと落下した。あっ、と誰かが頓狂な声をあげる。その一瞬のような声の間にも、私はとまることなく、どんどん宙を滑って落ちてゆく。下へ、下へ、と。白い壁はみるみる遠のき、視界の端で、淡いラベンダーグレイが微かに揺れた。
このままだと、地面にぶつかる――と頭では分かっているのに。でも不思議と、少しも怖くはなかった。寧ろ愉快ですらあって、きっと今私は笑っているのだろう、とまるで他人事のように思う。もしかしたらまた、きゃっきゃと無邪気に声をあげて笑っているのかもしれない、と。でもその声は、やっぱり耳へは届かない。
やがて、ぽすん、と何かにやわらかく受け止められた感触がして、私はぱちりと目を瞬かせる。すぐに傍から、くつくつと喉を鳴らす笑い声と、それを嗜める穏やかな声が聞こえた。それらをぼんやりと耳にしながら、私はただぱちぱちと瞬きを繰り返し、澄んだ青空を背景にこちらを見下ろす、深い紫色の瞳をじっと見つめる。まるでアメシストのように美しい、淡く光り輝いているようにも見える、深い紫色の瞳を――。
ふわりと掬い上げられるように意識が浮かび、重たい瞼をそっと持ち上げる。
霞んだ視界に最初に映ったのは、所々に染みの浮いた古い板張りの、見覚えのない天井だった。それを、夢と現の狭間を揺蕩うようにぼんやりと眺めながら、身体のそこここに残る眠気が抜けるのをじっと待つ。薄暗い部屋を横切るようにして伸びる白い光、早朝特有の新鮮な空気、そこに仄かに混じる乾いたオレンジのすっきりとした爽やかな香り。それから、身体をまるっと包み込む、真綿のような優しい感触。
何度か瞬きを繰り返すうちに意識が覚醒し、私はゆっくりと上体を起こす。久しぶりにきちんとしたベッドで眠ったからか、身体がとても軽い。寝具はどれも清潔でやわらかく、一晩眠っただけなのに、蓄積していた疲労がすっかり癒やされたようだった。
すぐ脇の窓にかかったカーテンを引くと、薄い硝子の向こう側一面に、雲ひとつない鮮やかな青空が広がっていた。燦々と降り注ぐ陽光が、起き抜けの目にはとても強烈で、思わず目を細める。愛らしい小鳥の囀り、朝光を散らすように揺れる枝葉、どこか遠くでがらがらと鳴る荷車の音。
ぐっと伸びをしてからベッドを降り、私はキャビネットの横に立てかけられた姿見の前に立つ。綺麗に磨き込まれた鏡を覗き込み、目元が腫れていないかを確かめてから、今度は一歩退いて、全身をくまなく眺める。ゆったりとした麻の寝間着に包まれた自分の身体が、昨日ここへ来る前よりも少しだけふっくらしているように見えるのは、気の所為だろうか。でも、そう思ってしまうくらいには、昨晩はよく食べ、そしてよく飲んだ。ヴィオラさんお手製の、家庭的でやさしい味わいの料理をたくさん、心ゆくまで。デザートには果物のたっぷりのったタルトと林檎の蒸し焼きを食べたし、アレク君が眠った後には、ビスコッティをお供に食後酒まで楽しんだ。
その頃にはすっかり夜も更け、夜道を帰すのは危ないからと、一晩泊まっていくことを勧められた。ロアンさんは自宅が近くだからと、お開きと同時に帰っていったけれど、私はそんな彼の説得もあり、ヴィオラさんたちの勧めに甘えることにした。ひとりで夜道を歩くのには、慣れてはいるのだけど。それは駄目だ、帰るなら僕が送っていく、と言われては、どうしても頷かざるを得なかった。礼拝堂へ着くまではふたりだけれど、私を送り届けた後の帰路、彼はひとりだ。いくら年若い男性だろうが、夜道の危なさにそれは関係ない。
寝間着から自分の服に着替え、乱れた髪の毛を手櫛で整えてから、そっと客間を抜け出す。アレク君たちはまだ眠っているのか、家の中はとても静かだ。明かり取りの窓から差し込む朝陽が、廊下をあたたかく照らしている。その上を、足音に気をつけながら、ゆっくりと進む。木製の小さなスツールに飾られた白い小花、簡素な額縁に入れて飾られた絵、灯りの落とされた燭台。
廊下の突き当たりにある階段に足をかけた時、ふわりと、香ばしい匂いが鼻先を掠めた。何かが焼けるような、食欲を誘う良い匂い。昨日あれだけたらふく食べたのに、ついお腹が鳴ってしまいそうで、私は苦笑する。どうやら“満腹”を思い出した胃袋は、今までの不足を補うかのように、今やすっかり欲張りになってしまったらしい。
一階へ下り、リビングを横切ってキッチンを覗いてみると、そこにはエプロンをつけたヴィオラさんの、華奢な後ろ姿があった。深緑色のリボンで結われたブロンドの髪の毛が、朝の光を浴びて淡く輝いている。
「おはようございます」
声を掛けると、ヴィオラさんは動かしていた手をとめて、穏やかに振り向いた。長く濃い睫毛に縁取られた、蜂蜜のようにとろりとした琥珀色の瞳。彼女は私の姿を認めると、水で濡れた手を布巾で拭いながら、にっこりと微笑んだ。
「おはよう。昨晩はよく眠れたかしら?」
「はい、おかげさまで。とても気持ちよく眠れました」
そう答えた瞬間、ふと、そういえば何か夢を見ていたような気がする、と思い出す。それはひどく朧気で、どんな内容だったのか、まるで判然としないけれど。でも、とても懐かしく、胸があたたかくなるような夢だった、という感覚だけが、頭に、心に、身体のそこここに今も残っているような気がした。じんわりと、奥底まで沁みるように。
それなのに、内容をはっきりと思い出せないというのが、少しもどかしい。思い出せればきっと、もっと晴れやかな心地になれるだろうに。――けれど、そう思うのもまた、不思議なことだった。どんな夢だったのか分からないのに、思い出せばきっと晴れやかな気持ちになれると思うだなんて。
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