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01 婚約者に蔑ろにされる
しおりを挟む魔狼はスカベンジャーである。魔獣の食べ残しの獲物、人々の食べ残しの食事、行き倒れた動物や人等きれいに掃除してくれる。でも偶に襲い掛かって来る。それは空腹だとか、テリトリーを荒らされたとか、様々な理由で。そして弱者は生贄になる。
私も、今まさにその魔狼に襲われている。
◇◇
私の名はステラ・ルース・ギルモア。ヘレスコット王国の公爵家の一人娘で、母親の違う兄が二人いる。私のお母様はお父様の三回目の結婚相手だ。
お父様は結婚する度に爵位が上がり、お母様と結婚して公爵にのし上がった。銀髪に青い瞳の美男で、艶聞が絶えない。
私が十二歳の時、二つ年上のヘレスコット王国の王太子アーネスト・オーガスタス・ヘレスコットの婚約者になった。
王族に次ぐ地位と、広い領地と潤沢な資産と幅広い人脈を持つギルモア公爵家の令嬢であり、婚約は王家からの打診による政略であった。
アーネスト殿下は金髪碧眼の、それはもう物語に出てくるようなキラキラとした美しい王子様で、初めて会った時は胸がときめいた。
しかし、親睦もかねて高位貴族の子女も参加した王宮でのお茶会の日。
「ステラ、君はどんな魔法が出来るのだ」
王太子殿下に興味本位に聞かれて、私は少し俯いた。
ヘレスコット王国は、十二歳になると教会で魔力検査を受けることが義務付けられている。鑑定の結果、私の魔力は少なくて、使える魔法は『自然魔法』という聞いた事もない魔法だった。
「自然魔法でございます」
恐る恐る答えると、案の定誰も知らない。
「何だそれは。聞いた事がないな」
「農業の魔法ではないのか?」
「花でも咲かせるのでしょうか?」
参加している高位貴族の子息令嬢たちが口々に聞く。
「その、お花が挨拶したり……」
「ほう、やってみせろ」
アーネスト殿下は腕を組んで横柄に顎を杓る。私が花壇に両手を捧げると、そよ風に吹かれたように花がゆらゆら揺れた。
「何だ、それは」
「しょぼい……」
目立たなくて、目新しくもない私の魔法に、みんなの評価は散々だ。
でも私は自然魔法が本来はどんなものなのか知らない。誰も教えてくれないし、本にも載っていない。屋敷で小さな頃から、お花に話しかけるとゆらゆら揺れるので、それを再現しただけなのだ。
「僕は風魔法が使える。風よ吹き抜けろ『エアロ!』」
ひとりの少年が風を起こした。びゅっと風が吹いてさわさわと枝葉が揺れる。
「まあ、すごい」
「もう風魔法をあのように使いこなせますのね」
「ここは王宮の花壇だから、僕は手加減しているんだ」
「ステラ嬢とえらい違いだ」
「情けないぞ、ステラ。このような者が私の婚約者か」
アーネスト殿下は機嫌を悪くして私を睨む。
「ステラはここで花でも愛でていればよい」
そのまま私を放置して、他の子息令嬢を引き連れて行ってしまった。
項垂れて屋敷に帰った私を見て「どうしたの、ステラ?」とお母様が聞く。
「お母様。私の魔法は小さくてしょぼいと皆さまに笑われました」
しょんぼりした私を、お母様は抱き寄せた。
「ねえステラ、まだその時期じゃないのよ、きっと」
身体があまり丈夫でなかったお母様は、その頃から私に呪文のような言葉を紡ぐようになった。
『大丈夫、あなたのしたいようにしていいのよ』
『星があなたを導き、あなたが星を導くの』
それまでの私は、お母様に守られ甘やかされて領地で自由に過ごしていた。
それが、王太子の婚約者に決まってからは、謎の王妃教育(殿下のサポート)とか、謎の王妃教育(殿下の尻拭い)とか、謎の王妃教育(王妃殿下の愚痴や自慢話を聞くお茶会)とか、女官の苛めによる憂さ晴らしの為の王妃教育とかが始まって、私のアーネスト殿下に対する気持ちは、あっさりボロボロに擦り切れてどこかへ吹き飛んで行った。
私が十三歳の時、お母様が病で亡くなった。
お母様が亡くなってから私は段々と元気を失い、容姿も鈍色の髪に青鈍色の瞳をした痩せて貧相な女に育った。
王太子アーネストは見目の悪い私をますます蔑ろにし、十五歳からこのヘレスコット王国の貴族や成績の良い平民などが行く王立貴族学院では、様々な美しい令嬢を側に侍らせていると聞く。
私が王太子から疎まれている事を知った父ギルモア公爵は、ある日、それは可愛らしい少女を連れて来た。彼女は公爵の庶子でメラニーという。私と同い年で、金髪に青い瞳のとりわけ器量のよい少女だった。
母親は公爵家に与する家の伯爵家の娘で、公爵家に侍女として行儀見習いに来ていて見初められ愛妾になった。母親も美人であった。
ギルモア公爵はその女性と婚姻し、メラニーを認知した。
そして私と王太子アーネストとの茶会でメラニーを紹介したのだ。メラニーはあっという間にアーネスト殿下に気に入られ側に侍るようになった。
お父様の手際のよいやり方を、私は呆然と見ていた。
十五歳になって私は王立貴族学院に入学した。すでに王太子アーネストとメラニーの仲は知れ渡っていて、貴族令嬢たちは競って私の悪口を言って貶める。
「あのようなみっともない女が、アーネスト殿下の側に侍るなど許されませんわ」
「聞けば属性魔法も使えず、魔力も平民並みとか」
「生徒会で遅くまで何をしているやら」
「女官から聞いた話ですけれど、王妃様が出来損ないと申されたそうで」
王太子に蔑ろにされる私と仲良くしようとする者などおらず、私は最初から孤立していた。
アーネスト殿下は私を生徒会に入れ、仕事を押し付けた。王宮に行けば王太子の補佐として仕事を手伝わされた。段々その分量が増えて、殆んど私が見て、確認のサインだけ彼がするようになった。
「ちゃんと確認をされますよう──」と余計な事を言えば「面倒な、お前がやっておけばいいものを私に押し付けて」と反対に文句を言われる。
「お前は貧相な上に愛想も良くない。少しは笑え」
アーネスト殿下は私の両頬を引っ張って、それから突き放した。
「ああ、笑うと魔女のようで気味が悪い。まったく、何でこんな女が私の婚約者なのだ」
そして側近やメラニーを引き連れて出かけて行く。私はひとり置いて行かれるのだ。私の表情筋はもう疲れ果てて機能しなくなっていた。
私はうんざりしていた。私を置いて死んでしまったお母様も、後妻とその娘を連れて来るお父様も、文句ばかりで蔑ろにする婚約者も、それを押し付けた王家も、がんじがらめで重くてしんどい自分自身のこの心と身体も──。
私はとても疲れていて、もう嫌だった。
(もう逃げたい、何もかも全ての事から)
領地に帰って引き籠ろうか、国を出て他国に留学して勉強をしようか、いっそ冒険者になろうか──。
でも、せめて学校を出てからと思って我慢していた。
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