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18 揺れる国に背を向ける
しおりを挟む「ステラを頼む」
お父様がエルダー様に告げる。お父様の周りには騎士がいる。王宮の広間は二つに分かれて睨み合い、今にも斬り合いが起きそう。
「ステラ、君は私と帰ろう」
私を抱いたエルダー様が転移の呪文を唱える。
「ソ・セナルフェ」
「お父様……」
帝国の艦隊を呼んだのは国王陛下と王妃様。お父様はどうなるの。反逆者なの? 私の所為で?
私はエルダー様とダリルに守られ、ノータム連邦共和国のエルダー様の屋敷に飛んだ。
「お帰りなさいませ」
アンとコケちゃんが迎えてくれる。
エルダー様は私を預けると直ぐに屋敷を出て行く。
「何処へ──」
私は言葉を飲み込んだ。跪いて祈る事しか出来ない。
ヘレスコット王国は内乱状態に陥った。帝国も艦隊を失い国は混乱に満ちた。
私は何をしたんだろう。
どうすればいいの。
破壊だけして、後、出る幕がないってどうよ。やるせない。
「サイアーズの森は無事だ。暫らく森に行っていなさい」
帰って来たエルダー様に言われて頷いた。私の顔はそそけて、森で出会った時よりも酷いかもしれない。
森に行くとダリルの父が現れて毒を吐いた。
「破壊の魔人だなお前は」
「五月蝿い」
「あいつもこんな可愛い子を利用するだけ利用して捨てて」
「五月蝿い」
「許せんだろう、恨むがいい、呪うがいい」
「あんたをね」
「悪魔より酷え顔してやがる」
「五月蝿い、ぶっ殺す」
「止めろ、ステラ」
引き止める男は、私を悪し様にいう男と同じ顔だ。代わりに殴ってもいいのかしら。
こんな時にエルダー様がやって来る。
「オズバーン将軍。いい加減にしてくれ。私の罪悪感が頂点になる」
「エルダー様」
「ステラ、君を巻き添えにして悪かった。君を利用して悪かった。君の気持ちも考えないで、君の承諾も得ないで。唆して悪かった」
抱き締めて謝罪する。
「エルダー様。止めて、止めて下さい。謝罪なんか欲しくないの。私、わたし──」
私は首を横に振ってエルダー様にしがみ付いた。
「このままエルダー様に捨てられたらどうしようと、それが怖くて……、私、誰の事も心配していなくて、ただそれだけが心配で──、最低なのに、やっぱし心配で」
こんなにしがみ付いて申し訳ないと思うけれど、縋ったこの手を離せない。
「何も出来ないよりはいいの。それが殺戮の兵器でも、悪人でも悪女でも何でもいいの。それで裁判にかけられて処刑されても、神の為なら本望なの──」
神はただ私の頭を背中を撫でるだけだ。
「でも、私は生きてエルダー様に保護されているでしょう?」
私は突き放されないことに安堵する。
「裏切られている訳ではないでしょう?」
返事はないけれどそれは問題ではない。
「だから、私はとても幸せなんだわ」
ダリルの父親の将軍と喧嘩をしている内に気持ちが落ち着いて来た。ダリルやエルダー様に状況を聞く。
ヘレスコット王国は内乱状態、カルデナス帝国は四部五裂。
なるようになるのだろうか。
祈るしかない。
私は森に居る。朽ちかけた小屋に居て森の安寧を願う。
◇◇
すべてが落ち着いたわけではないけれど、どこも問題を孕んで揺れているけれど、今私は、ギルモアの領地に居る。
領地にあるギルモア公爵のカントリーハウスはお城のような館だ。
領地の西の方に広大な湖がある。
「ここに大昔、星が落ちたんだ」
今は草原が広がっていて、牛や羊が草を食んでいる長閑な光景だ。
「湖がある場所がクレーター、遠くに連なる外縁山。生き物は全て死に絶えた」
風が吹き渡る草原で。
「昔の言い伝えだ」
「国王はこの地を欲した。豊かだし山から鉱石が採れる」
お父様が王宮の玉座の間で披露した剣は、魅入られそうな怪しい炎が揺らめいて見えた。
「希少な鉱石だ。隕鉄という。その武器を振るえば、刀身が星のように熱を孕んで舞い散るようだという」
国王は剣に、あの炎に魅入られたのだろうか。
神とダリルとお父様と、風に吹かれる草原に居る。
「ステラ、お前は公爵家を継ぐがいい。私は約束したのだ、君の母親と結婚する時に」
私は首を横に振る。
「いいえ、ここはお父様にお譲りします」
「ふっ、私を甘く見てもらっては困る」
ちょっと悪人顔で笑うお父様。
「まあ、あと二年か三年で片付くだろう」
この人は何処に行く気かしら。まさか国王になりたいのだろうか。
私たちはサイアーズの森に帰る。
「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」
相変わらずアンとコケちゃんとネムちゃんとリリちゃんが迎えてくれる。
「やあ、ここは手狭だから向かいに家を建てた」
どういう訳かダリルの父の将軍がいて、ぽつんと朽ちそうな小屋のお向かいに、もう一つぽつんと小屋が建っていた。
「きゃああ、私の桃の木は!」
「そこにあるぞ、日当たりを考えて貰った」
私の悲鳴にリリちゃんが大丈夫と答えてくれる。
「ああ、良かった」
「おい、桃の木の方が大事だとは」
将軍は不満げに文句を言う。
「父上は何がしたいのか」
「もちろん孫が見たいに決まっておろう。式はいつだ」
「まだプロポーズもしていません」
「そうか、なら俺が──」
ダリルと父親の不穏な会話をぶった切る。
「そんな話は聞いてません!」
そんな風にゴタゴタしていると、私の神が現れた。
「まだ君に何もしてあげていない、可愛いステラ。パパがたーーーくさん、甘やかして溺愛してあげよう」
「溺愛……」そこには乙女のあこがれが詰まっているけれど「でも、何か違うような気がする」
「俺はダリルの父親だ。ということはお前の父でもある。グレダン教授は何の繋がりもない。父の俺が可愛がってやる」
余計な者も連れて来る。
「この人の可愛がるは、ちょっと違うような気がする。例えば訓練でしごき倒すような。例えば悪い奴が一般人を甚振るような……」
私に用事があったのか、お父様も一緒に来た。
「君たちは何を言っているのだ。ステラの父親は私だ。さあステラ、お父様と一緒に領地に帰ろう」
「いや、お義母様とかメラニーとか、面倒なのは御免なのですけれど──」
メラニーにはもれなくアーネスト殿下がついて来るのだろう。それは別にどうでもいいけれど、あいつの顔は見たくない。
イケメン三人が父親だと言って憚らない。何なら奪い合いまでしそう。でも、なんか違うと、思うのは私だけではない筈。
「アタシは何処までもついて行きまーす」
「俺はずっと護衛をする」
「ご予定の把握から領地管理に魔法の勉強まで幅広くお役に立てます」
「ステラ様の食事は私にお任せください」
「一緒に花を咲かせ収穫するのです」
後ろに可愛い侍女とイケメン護衛と執事とコックと庭師がいる。
私は多分幸せなのだろう。でも、不憫だと思うのは何故かしら──。
でもまあ、神の側に居られるのなら、今はそれでいいわ。
終
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