パンパカパーン! で始まった私の異世界ライフ

拓海のり

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16 新居でひとりぽっち

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「ではメイ、我々はネシェル・ラム辺境伯に報告をしてくる」
「この屋敷で寛いで待っていてくれ」
「はい」
「何かあったら家令のベラールに言ってくれ」
 一緒に見送りに来ている50年配の男を紹介する。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」

 エドモンとジョゼフを見送って応接室に戻ると、屋敷の使用人の私を見る目付きが冷たいものに変わった。

 おお、これは意に添わぬ結婚をしたご主人様を気遣って、私を冷たく蔑ろにする冷遇コースかな。これに本館追い出されとか、食事で冷遇コースとか漏れなく付いてくるのだろうか。

「奥様、お部屋に案内いたします」
 そう声をかけて来たのは家令のベラールだ。きちっと黒っぽいスーツを着た50歳年配の男性で、この家の総元締めとなる人物だ。

 彼は私を案内して冷たい召使の間を抜け、広い階段を上がって一番奥のドアを開けた。広いリビングリームがある。
「あちらの奥のドアが奥様のお部屋になっております」
 さらに奥の部屋に案内された。広い私室と奥にベッドルームがあるようだ。綺麗に整えられている。

「旦那様方は辺境伯家にてお仕事や打ち合わせがございますのでお帰りはいつになるか分かりません。奥様のお食事はこちらに運びますがよろしいでしょうか」
 別に文句もないので頷いた。
「はい」
「それでは失礼いたします」
 家令のベラールが出て行って、広い部屋にぽつんとひとりになった。これは、屋敷の奥深くに軟禁コースだろうか。屋根裏部屋とどっちがましだろう。

 手に持った籠の中の人形が私の不安な心に寄り添ってくれる。
『ぽ、ぺ、ぴ』
「え」
 一人足りない。どうして、いつから?
『ぽた』『ぺん』『ぴさ』
「えっと、たんさ……、探索かしら」
 いないのはふわちゃんだ。ふわふわと飛べるからエドモンとジョゼフを追いかけて行ったのだろうか。
「大丈夫なの? 魔力切れにならないかしら」
『ぽ、ぺ、ぴ』
 大丈夫そうに手を上げる土人形たち。ここに着く前に充填しておいてよかったわ。しかし、合体の練習ができない。

 とりあえずここで食事をするってことは、外に出ちゃいけないのかしら。それで、奥の部屋は私の部屋なのね。
「じゃあ、奥の部屋を探検してみようか」
『ぽ、ぺ、ぴ』

 奥の部屋のドアを開ける。きれいに掃除の行き届いた部屋には白い香りのよい花が生けてある。ここが私の部屋になるのかな。もうふたつドアがある。

 ひとつはカギがかかっていて開かない。もうひとつはベッドルームだった。セミダブルくらいのベッドが真ん中に置いてある。ベッドの壁の向こう側はドレッシングルームになっていて、くたびれた自分の姿が映っていた。
 ヤバイ。こんな格好でここに来たのか。顔も髪もぐしゃぐしゃで、よれよれのTシャツを着てジーンズをはいて、ちびでチンクシャの上にコレはひどい。そりゃあ、従業員一同が冷たい顔をするわけだわ。

 ドレッシングルームに繋がって洗面所とトイレとお風呂があった。反対側にはクローゼットがある。
 よし、お風呂に入ろう。

「ぼんちゃん、ぬいちゃん、ぶいちゃん、お風呂入る?」
 土人形は首を横に振る。
「そう、じゃあお風呂に入ってくるわね」
 土人形だしなあ、今のところ水でも火でも大丈夫そうなんだけど、お湯に入ってドロドロに溶けたら嫌だし、泣くし。

 クローゼットに服があるようだけどとりあえず放置で、身の内の倉庫から下着とパジャマを取り出して、浴室のドアを開けた。中は結構広くて浴槽は丸くてお湯がもう入っていた。お風呂に入ってシャンプーをして体中洗ったらさっぱりした。
 お水を飲んで寛いでいたら眠くなったので、人形の布製のかごを寝室に持ち込んでベッドに潜り込んだ。


 そのまま眠ってしまったらしい。目が覚めたら朝だった。朝になると土人形は4人に戻っていた。布袋を取り上げて魔力を充填する。
「ふわちゃんはどこに行っていたの?」
『ぴへ』
「ああ、辺境伯のお屋敷ね」
『ぴ』

 今、何時頃だろう。食事って来るのかしら。さすがにお腹が空いたけれど、誰か何か持ってきてくれるのかしら。

 ちなみに身の内の倉庫にはペットボトルの水のほかにお茶もあるし野菜ジュースもある。買い置きの食パンにパックご飯、レトルト食品、カップ麺、その他もろもろの食品が入っている。

 それにしてもどうしよう。ここを出て行ってもいいのかな。魔力を充填するような仕事は軟禁コースじゃないと思うが、だとすると一直線に生け贄コースだろうか。


 色々と考えていると本格的にお腹が空いてきた。どうしよう。そっとドアを開けると、外から中を窺っている侍女さんと目が合った。慌てて仰け反る侍女の後ろに、テンプレの幼馴染とか妹とか婚約者みたいなオレンジっぽい赤毛のお嬢様が立っていたのだ。

「ちょっとあなた、いつまで寝ている気」
 お嬢様は語気荒く詰め寄った。美しく髪を結い上げ豪華なドレスを纏った気位の高そうな女性が睨みつけて私に詰め寄る。
「大体何、その変な格好はなに。女性らしくなさいよ」
「はあ」
 こういう手合いにどう対応していいか分からない。
「何とか仰い!」
「何と言えばいいんでしょう」

『ぽ、ぺ、ぷ、ぴ』
 頬に手を当て首を傾げて見る私の足元から、土人形が文句を言い出した。
「なにこれ」
 お嬢様は土人形を見て戸惑う。
「ゴーレムですけど」
「何であんたみたいなぽっと出の異世界人が、ゴーレムなんか作れるのよ、ゴーレムを出すのはレベルが高くないとできないのよ」
「そうなんですか」
 私は今一自分の魔法がどの程度か分かっていない。レベルが高いと言われて単純に嬉しくなる私。
『ぽ、ぺ、ぷ、ぴ』
「しかも喋れるなんて!」
 私が土人形を抱き上げると、
「な、何をする気!」と身構えるお嬢様。
「何もしません、可愛いんですよ。踊れますし、縫物もできますし、飛ぶこともできますし、力持ちなんです」
 4人の土人形が私の手の上で踊り出す。
「んまあ」
「合体もしますよ」

『『『『ぴぷぺぽ、ゴーーー!!』』』』

「凄い凄いわ、あなた」
 凄いのは私ではなくて土人形の方だと思う。それより私のお腹がもう持たない。
「ぎゅるぎゅるるるる~~~!」
「どうなさったの」
「いや、お腹が空いて」
「んまあ、ちょっとそこのあなた、何をしているの食事の用意を」
「は、はいただいま!」
 侍女さんが慌ててどこかに行く。

「あなたって夫に冷遇されていたのね、許せないわ」
 いやそういう話は読んだけれど、ちょっと違うというか、でも白い結婚っぽいし……。
 でもここで食事が出るのにもう食べましたとか言うのも角が立つわけで色々忖度したらこうなったのだけど。
 それにしても、このご令嬢はどこのどなただろう。ちょっとアガット教官に似ていなくもないような。

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