パンパカパーン! で始まった私の異世界ライフ

拓海のり

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20 結婚式の夜

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 アガット教官とエドモンの従兄ヴァランタンの結婚式は、それから一か月後に辺境ネシェル・ラムラの領都バーレイドの大聖堂で行われた。普段はネシェル・ラムラ辺境伯領の各地に散らばっている一族郎党が集まって、とても賑やかだった。

 バーレイドの大聖堂で厳かに結婚式が挙げられる。白いドレスを纏ったアガット教官は非常に美しく、騎士服を着たエドモンの従兄ヴァランタンは凛々しくて、二人は大層お似合いだった。

 私もエドモンとジョゼフが見立てたピンクベージュの花柄レースのドレスを着て参列した。少しおとなし目かと思ったけれど、レースが派手でボレロのように羽織ったデザインが可愛くて案外似合っている。

「さすがメイだ。俺たちが選んだドレスがよく似合っている」
「とても可愛いぞメイ」
 旦那様方が手放しで褒めてくれる。そういうエドモンは赤い騎士服だし、ジョゼフは黒い魔導騎士の服でとてもかっこいい。

 土人形たちは私の部屋でお留守番である。私の能力に関してはまだ公にしないという。エドモンの妹のアニエス様と一緒になって、土人形たちの服を縫ったり遊んだりしたのも内緒なのかな。

 おひとり様で何の恋愛経験もなかった私は、結婚式とか夢のまた夢だったけれど、こちらではお式を挙げられるのかな。旦那様が二人いるけれどそこはどうするんだろう。


 夜の晩餐会は辺境伯の城館で開催された。パーティの前に辺境一族に紹介された。
「おお、君がエドモンの嫁か」
「まあこんなに可愛い子なのね、大丈夫かしら」
 辺境伯夫妻は大柄夫婦だ。この辺境の地の頂点に立つ彼らは気さくで陽気だ。どちらも武闘派でエドモンの火の魔法は母親から受け継いだものだという。

「いやあ、若い者はよいの」
「か弱そうねえ、大事にするのよジョゼフ」
 辺境の地の重鎮である先代辺境伯は六十半ばの若々しい偉丈夫で、ジョゼフの叔母はジョゼフと同じダークブラウンの髪に蒼い瞳の美女でとてもお似合いだ。

 パーティはずっとおひとり様だった私にはとても疲れるものだった。たくさんの人の間を挨拶して回るが、会場にいるたくさんの招待者は知らない人ばかりだし、辺境やその近くに住まうお貴族様なので、貴族の勉強が一夜漬けの私は気を遣う。
 二人にお花摘みに行くと断って会場から抜け出した。トイレから出て会場に戻ろうとしたが、光輝くシャンデリアや、そこここに飾られた美しい絵画と彫刻に気を取られていたら、廊下を間違えたのか知らない場所に出た。

 戻る場所を探していると話声が聞こえてそちらに向かう。
「それにしても、今の時期に聖女が来るとは」
 聖女という言葉に足を止めた。そっとできるだけ足音がしないように近付く。サロンで何人かの人々が煙草をふかしながら話している。紹介された人は居ないようだ。どうしようと思ったが部屋の中の話は続いている。

「何かあるのでしょうか」
「この最近はタブーンの森が騒がしいからのう」
「邪龍が現れるやもしれぬ」
「邪龍ですか」
「まだ分からぬ。見張りを強化しておるが」
「もしかして贄とか──」
「しっ、めったなことを言うでない」
「でも、聖女様というのはもっとお奇麗でたおやかで色っぽくて女性の鏡のような方を想像しておりましたのに、挨拶もしきたりも何もご存知ないようなぽっと出の平民なのでしょう?」
「それでしたら諦めることもないですわね」
「とても引き下がれませんしねえ」
「そうだのう、ウチの娘も大したことはないと言っておったし」
「まあ、果報は寝て待てというからのう──」
「ふふふ」
「おほほ」

 その部屋からそっと離れて歩き出す。
 ああ、そうなのか。一般人の私がこの世界に召喚された意味がやっと分かった。きっと私は生け贄なんだ。二人の旦那様は私の見張り役なんだ。
 妙に納得してしまった。

 しばらく歩いていると大柄の男が二人私を探しに来た。
「迷ったんだな」
「はい」
「どうしたんだ、疲れたのか」
「はい」
「負ぶってやろう」
「ドレスですから」
「そうだな」
 二人は優しい。でもそれは。
「メイ、私たちはお前を愛している」
「大事な嫁だ。誰にもやらん」
 でもそれは…………。

 どうしたんだろう。立ち直れない。


  ◇◇

 そして、私に追い打ちをかけるような出来事が起こったのだ。それは宴もたけなわになった頃。

 この結婚式に王太子オーギュスト殿下が乗り込んできたのだ。
「おい、アニエス。父上に言われてお前を迎えに来てやったぞ」
 国王陛下に命ぜられたにしては、ずいぶん横柄な態度である。
「それにこちらにも聖女がいると聞いて」
 王太子と一緒にいる美女がにっこりと微笑む。金髪に青い目で顔だけで負けている。その上胸の大きさでも負けてスタイルの良さでも負けている。
「聖女はただひとりに決まっている。きっとそいつは偽の聖女だ」
 王太子が決めつけた。

 ああ、やっぱり私はただの生け贄なんだわ。

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