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21 聖女の独壇場
しおりを挟む辺境伯家の城館大ホールに佇む私。目の前にキンキラキンの王太子オーギュスト殿下と王都の美しい聖女がいる。
その私の前に出て、王太子たちと対峙したのは私の新婚の夫たちだ。
「何を言われているのか存じませんが」
「我々の妻のメイを侮辱するのは止めていただきたい」
エドモンとジョゼフが、私を庇って王太子一行の前に立ち塞がる。私の前に二人の高い壁ができる。でもいいのだろうか。私を庇って公務執行妨害とか、侮辱罪とか、不敬罪とかになったらいけない。私はおろおろと二人を引き留めようとした。
そしたら、エドモンとジョゼフの横にアニエス様が並んだのだ。
「何言ってんのよオーギュスト殿下。大体、何の御用でのこのこ辺境くんだりまで来たの?」
王都から来た王太子に対してアニエス様は徹底抗戦の構えだ。
「何だアニエス、居たなら出て来ぬか。私が許してやると言っているのだ、心を入れ替えて真面目に政務に取り組めば、許してやらんこともないぞ」
「心を入れ替えるのはわたくしではございませんわ」
アニエス様は扇を開いてツンと横を向く。
「さっさと婚約破棄の慰謝料を払ってくださいましね。それ以外で殿下に御用などございませんわ」
「貴様、アニエス」
凄い、アニエス様って王太子に対して対等に立ち向かっているわ。カッコいい。それにしても、移住してくる前に読んだあちらの世界の王子様って圧倒的におバカで浮気で移り気な人が多かったけれど、この世界の王子もそうなのだろうか。
そこに辺境伯の父親である前辺境伯が、
「まあまあ、今宵は我が孫の結婚式だ。無粋な真似はお止めになって楽しんではいかがか」と、中に割って入る。辺境の重鎮である前辺境伯に逆らえる者はいない。
「我らも今宵ばかりは無下に追い返したりは致しませぬぞ」
辺境伯も凄みと圧を効かせる。
「そ、それはめでたい」
現役の辺境伯と、前辺境伯の圧に、さすがの傍若無人な王太子もこれ以上言い募ることができなかった。
しかし空気を読まない、読めない者が若干名いたのだ。
「わたくしたちは親切で来ておりますのよ。無礼にもほどがあるというものですわ。大体、偽の聖女というのはどうなったのでございましょう。その様な紛い物を立てて何となさるおつもりでしょう。まさかご謀反……むぐ──」
王太子は慌てて彼女の口をふさいだ。
辺境の者たちは普段はそれぞれ好きに暮らしている。だが一朝事あれば一枚岩になるという。剣呑な空気が場を支配して流石に王都の聖女と言われる人物も大人しくなった。
「疲れただろうメイ」
「そろそろ私たちも引き上げようか」
私の疲れた顔を見てエドモンとジョゼフが心配する。
「あら、まだいいでしょ。メイ、今日はあの子たちは来ていないの?」
そう言って引き留めるのはアニエス様だ。彼女は本当に土人形たちがお好きだ。ぽぺぷぴたちもアニエス様にすごく懐いていて、時に嫉妬するほどだ。
「はい。何かあってもいけないのでお屋敷に置いてきました」
「あら、何かあった時に主人を守るのがゴーレムじゃないの」
「そうなのですか」
「コ゚ーレムは主人に忠実なのよ。主人の危機には真っ先に駆け付けるものだわ」
アニエス様がそう言った途端、
『ぽぺぷぴーーー!』
にょきにょきと土人形が私の頭から生えるように現れた。
「まあ、ぼんちゃん、ぬいちゃん、ふわちゃん、ぶいちゃん」
『ぽま』『ぺも』『ぷる』『ぴるるるーーー』
突然出現した可愛いゴーレムたちは、私とアニエス様と屋敷の侍女さん方が楽しく丹精込めて作ったドレスを着ている。リボンとフリルが一杯で、レースもあしらって、空中でひらひら飛んで踊るととっても可愛い。
「みんな来たわね、そう来なくっちゃあ」
アニエス様は喜んでいる。
踊る土人形たちは宴に出席していたご婦人方の注目を浴びた。
「まあ可愛い」
「ゴーレムですの?」
「土魔法がお出来になるのですね」
「あのようなゴーレムは初めて見ましたわ」
「あれだけ動けて話すなんて、よほどの使い手でなければ」
半ば呆然とそれを見ていた王太子がそれを聞いて立ち直る。
「貴様、そのゴーレムは何だ。王家を謀ったな、隠蔽罪だ」
えええ、そんな罪あるの?
そして今度は聖女が立ち直って土人形を貶す。
「まあ主人に似て、みっともないチンケなお人形ですこと」
私は可愛い人形たちを貶す聖女の嫌味にムキになった。
「チンケじゃないわ、ほらこんなにとっても可愛いくて、歌って踊れて合体もできるのよ。凄いんだから」
しかし本場の聖女様は違う。その言葉にすっくと立ち、私を見据えて、すらすらと用意されたようにセリフを喋り出す。
「ゴーレムというものに何を求めているの? ゴーレムは大きくて強くて壁のように立ち塞がって、侵入者を寄せ付けないモノよ。あなたは考えからして根本的に間違っている」
彼女の懇々と言い聞かせるその美しい声、何もかも計算されつくしたような優雅な動きで観客を魅了する。
彼女にはスポットライトが当たっている。場の中心に立ち、人々の心を捉え惹き付けて離さない。名演技であった。
私はまるで駄々をこねている子供。愚かな無知の民。聖女様に間違いを指摘され、己の愚かさに涙を流して、跪き詫び許しを請う存在なのだ。聖女様は慈悲深くにっこりと笑って、私の前に手を差し出した。
私の作った土人形は小さい。合体して鎧になっても私の充填した魔力が無くなると、ばらばらと剥がれて落ちてしまう。
そんなか弱いものでどうするというのだ。何ができるというのだ。打ちひしがれた私の前に聖女様の白い美しい手がある。
私は無意識にその手に縋ろうとした。
だがその寸前、ふわふわと踊っていた土人形たちが私のところに戻ってきて『ぽぺぷぴ?』と問いかけるのだ。
「ぼんちゃん、ぬいちゃん、ふわちゃん、ぶいちゃん」
強ければどうだというのだ。か弱ければなんだというのだ。彼らはその存在こそが尊い。私にとって。
辺境伯家城館のホール全体を覆っていた聖女の気配が、金糸の網のような魔力の網がさぁーー……と、解け崩れ去って行く。
聖女の舞台も場もスポットライトも跡形もなく消え失せた。
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