パンパカパーン! で始まった私の異世界ライフ

拓海のり

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25 王都からの出頭命令

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 二人の夫と三人で新居に戻って、穏やかな日々が続いた。龍王様はいつの時代にもいるという訳ではないという。
「龍王様がいなかったらどうなるのですか」
「統治する者がいなければ荒ぶる龍も現れる。里や町に降りれば災害を招く。魔物の出現も多く、海も山も荒れる」
「実際、この度の代替わりで、かの龍王様が現れるまで、万人の認める龍王が現れず、魔の森タブーンもミスリヤ山脈の山々の影響を受け、魔物は荒ぶり荒れ狂い、大きな魔物の侵攻を受けた」
「それだけではない、人を召喚しても落ち着かず、却って世の乱れの元になった」

「龍王は番いを得て、この世界を導く光となる」
「次の世代へと繋げることが肝要なのだ」
「龍王様の付き人に教えを乞わなければ、分からなかったことも知らなかったことも多い」
「我らが知らぬのだ、王都の者らは分かりもすまい」

 長く生きる龍と短く儚い人とでは、時間の流れも物の捉え方も、考え方も違うだろう。大体私はこの世界の人間ではないのに、どうして龍王様の番なのだろう。

「それは仕方がない。メイは何らかの力を持ち、辺境に行くべくこの世界に来た。我らはメイを保護し守る者として選ばれ、我らが嫁として守ることにしたのだ」
「こちらでは三人で夫婦とかはよくあることだ。そこは気にしなくて良い」

 そうなんだろうか。あっちよりこっちの方がいいとかになったらどうするんだろう。私は二人が勿体なさ過ぎて、申し訳ない気持ちで一杯なのだけれど。


 そんなある日、王都から手紙が来た。王家の印が押してある。二人の旦那様が見守る中手紙を開くと出頭命令だった。
『辺境に聖女がいるであろう。直ちに王家に出頭するよう申し伝えよ。隠し立てすると容赦はせぬからそのつもりで』
 脅し文句付きであった。

 私が龍に攫われた後、王都に戻った王太子は国王と協議して罪人扱いにするつもりのようだ。
「バカヤロウ、誰が出頭させるかよ」
「メイは渡さん」
 二人の夫はカンカンに怒って手紙を破る勢いで断った。

「お断りになるならこの命令書は逮捕命令に切り替えられますぞ」
 手紙を持ってきたのは王国軍の将校で、軍隊をこの辺境まで引き連れて来ていた。辺境領の外にも続々軍隊が集結しているという。

「帰れ帰れ」取り付く島もない二人を引き留めて「ちょっと待って。私、出頭します」と返答すれば
「「メイ!」」とハモる旦那様方。
「だって戦争になったらいけないわ。他国も狙っているんでしょう?」
「だから尚更外には出せん」

「大丈夫、私を見たらがっかりすると思うわ」
「メイは可愛い」
「メイほど素晴らしい女性はいない」
「ありがとう」
「メイが行くのなら我々も行く」
「俺たちメイの夫だからな」

「エドモン、ジョゼフありがとう。とても頼もしいわ。でも私は争いを望んではいない」
 どうせ彼らは私を見た途端、見下し追い払うだろう。それが王宮の外だったからこの辺境まで来たのだけれど、牢に入れたり軟禁されたら嫌だな。

 私がそう言った時だった。
 どこからともなく、ザッザッザッザッ…………、と大勢の者の行進する足音がする。
 私たちと王都の使者との間に割って入ったのは、私のぼんちゃん、ぬいちゃん、ふわちゃん、ぶいちゃんを先頭にずらりと並んだ土人形たちだった。一体どこでこんなにたくさんの土人形を作ったのか。
「どうしたの、こんなに」
『ぽが』『ぺっ』『ぷた』『ぴい』
 そして、合図の言葉を叫んだ。
『『『『ぴぷぺぽ、ゴーーー!!』』』』
 たくさんの土人形たちが次々に合体して行く。そして頭にぴぷぺぽが合体すると大きなゴーレムになった。
「すごい!」
 私はぴぷぺぽに惜しみない拍手を送る。
「カッコいいわ! パチパチパチ……!」

「なんの、ただの土くれではないか。こんなもの一太刀で屠ってやる」
 王都の使者の中で腕自慢の者が出てきて剣をふるう。
 しかし、ぽぺぷぴたちは合体したり離れたりしながら攪乱した。
「くそう、こんな子供だましは止めろ。この国の聖女なら王都に行くべきだ」
 業を煮やした使者が喚く。
「でも……」

 私は潔く王都に出頭するつもりだった。でも、旦那様たちは私を引き留めて離さないし、ぽぺぷぴたちは兵士を攪乱している。私は旦那様や彼らをおいて行くべきなのか。

 私が聖女として、あるいは魔法が使えるようになったのは、移民局の手紙の所為かもしれないけれど、初めて魔力を感じたのも、魔法を使えるようになったのも、エドモンとジョーゼフ、そしてアガット教官と一緒に辺境を目指してからだ。

 それをただ聖女だからと横取りするような所に行っていいのだろうか。大体不安だし、王都に戻れば私の力、私を導いてきたもの、全てが失われるような気がする。無くなってしまう気がする。何の力も持たない、ただの一般人の私を国王が必要とするだろうか。

「メイ、俺たちにはメイが必要だ」
「メイは私たちの妻だ」
 エドモンとジョゼフが力強く宣言する。
 だってそれは…………。
「お前は考え方が後ろ向きすぎる」
「だから私たちが側にいるべきなんだ」
 そして合体したゴーレムが叫ぶ。

『『『『ぴぷぺぽ、ゴーーー!!』』』』


 すると土人形たちが呼んだように、俄かに空に黒雲が湧き、稲光が輝き、雷鳴が轟く。ごうごうと風が唸り広間のドアがバーンと開いた。
 そこに緑の地に金糸銀糸の刺繍も眩い装束を着けた、金髪やや面長のイケメンが現れた。

「我が妻に何の用か」
 非常に低い声で威厳のある言葉を紡がれる。
「聖女様はこの国の王都にいらっしゃるべきです」
 震えながらも国王軍の将官が答える。
「知らぬのか、この地の中心地は我が棲まう聖地ミスリヤの山々である。我妻メイは、必定その麓にある町を住処と定めるべし」
「そ、そのようなことが……」
「守らねば昨今のように国々が乱れる」
 龍王様はとても怖い顔で国王軍の将官たちを睨みつけた。
「王都に帰って左様伝えよ」
 国王軍は驚き慌てて辺境領を後にした。

  ◇◇

 王都に帰った国王軍は国王に報告した。それを聞いた王太子はいきり立って討伐軍を編成した。
「たかが龍ではないか」
 だが辺境に行く前に、国内の貴族諸侯による反乱軍によって、あっけなく命を落とした。反乱軍はそのまま王都を制圧し、国王は反乱軍の軍議にかけられ死刑を宣告された。ここにこの国の王政は滅び、貴族、平民からなる議会によって運営される共和国となった。

 ここ辺境の地ネシェル・ラムラは王国から独立してネシェル・ラムラ辺境国となった。共和国となった王国とも、周辺諸国とも友好条約を結び、存在感を示した。
 アニエス様は辺境の隣国の王太子殿下と結婚され、友好条約に一役買った。私は二人の夫と共に結婚式に呼ばれ、お祝いにぽぺぷぴが歌って踊った。

「龍王の番である聖女を攫おうとする者は龍の加護を失う」
 滅びた王国と共に、その言葉は深くこの地に浸透し、わざわざ私を攫おうとする者もいなくなった。


 そんなある日、ひょっこり移民局の事務員さんがこの辺境の屋敷まで訪ねて来られた。
「こんにちは、ヤスダ様。この世界を楽しんでおられますか」
 相変わらず夢で見た時と変わらない黒縁眼鏡に腕抜き姿だ。
「その節は大変お世話になりました。お陰様で楽しく暮らしております」

 結婚して一年とちょっとで妊娠して子供が生まれた。なんと三つ子で三人とも男の子だった。おまけに、一人はエドモンに、一人はジョゼフに、そしてもうひとりは龍王様に似ている。出来過ぎである。今は三歳になってわんぱく盛りである。
 そして、私は今また妊娠している。今度は女の子の三つ子だろうか、なんて思っている。寂しいとか、一人ぼっちだとか思う暇もない。

「お幸せそうで何よりです。今度こちらのネシェル・ラムラにも事務所を開設いたしました。今後ともよろしくお願いします」
「まあ、こちらこそよろしくお願いします」
 移民局の事務員はにっこり笑って帰って行った。

 私は辺境伯の一族で、公爵家の一族で、聖女様とか言われているけれど、本質は変わらない。
 自分のできる仕事をしながら、モフモフでゴロゴロでのんびりと過ごしている。
 夫は優しく子供は元気で毎日賑やかだ。

 年に七日の逢瀬のはずの龍王様は、暇を見つけてはエドモンとジョゼフと私の屋敷に遊びに来る。大きな長い龍では入らないし、人型になると威厳が溢れてしまうので、小さな龍の姿で子供たちやぽぺぷぴたちと遊んだりする。その様子を見ていて、ふと移民局の手紙にあった聖獣って、もしかして……、と思った。でも、いくらなんでもねえ。首を横に振ってみんなを迎えに行く。


  おしまい


 読んでくださってありがとうございます♪
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