パンパカパーン! で始まった私の異世界ライフ

拓海のり

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02 お仕事が決まりました

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「現在そちらの世界では、異常気象や戦災等による難民の受け入れ先を探しておられまして、こちらの世界でも受け入れを開始しております」

 建物の三階の難民局に案内され、夢で見た人物と似たような丸眼鏡の事務員が、手慣れた様子で説明してくれた。受け入れ開始しているから、あっさりここに連れて来られたのだろう。

「お名前をうかがえますか?」
「安田芽衣です」
「ヤスダ・メイさんですか」
「はい、芽衣が名前です」
「おお、メイ・ヤスダさんですね」
 男は手元のファイルを漁って書類を取り出した。

「あちらで魔力検査と適性検査、血液検査を受けていただけますか」
「はい」

 奥にある部屋で魔力検査と適性検査、血液検査を受けた後、事務所で腕抜きをした丸眼鏡の事務の男性が丁寧に説明してくれる。

「こちらでの生活を希望される場合、お仕事、生活等保障いたします。希望されない場合は元のお住まいにお戻りいただきます。お帰りになった場合二度とこちらには来れません。またお帰りになる場合は今すぐにお返事をいただきます。あまり時間が経つと事故などの恐れがございます」

 私は中肉中背、取り立てて美人でもない普通の顔、現在二十二歳恋人無し。父はいなくて母親は私が高校生の時に亡くなった。
 今現在、私は何も持っていない。肩に掛けていたショルダーバッグもない。こんな身一つで、何も知らないこの世界で生きていけるのだろうか。ひとりぽっちなのはどちらも変わらないけれど。

 ぼんやりと考えていると事務員は悪魔の囁きをしたのだ。
「ヤスダ様のお荷物ですが、こちらに移住されるのでしたら後ほどになりますが転送いたします」
「できるんですか!?」
「はい。こちらの世界に無いものは換金いたしますが」
「ああ、仕方ないですね」
 パソコンやスマホだろうか。どちらにしても家財道具を一から買い揃えるのは大変だ。思い入れのある物もあるし。

「それではこちらでのお仕事等、説明いたします」
 丸眼鏡の事務員は次の説明を始めだした。
「早速ですがあなたの魔力は素晴らしい。たくさんあります。しかし属性魔法が何もありません」
「はあ」
「そういう方は大抵、公務員として、国や地方貴族の領地で魔力充填係として働いてもらいます」
「まあ」
 公務員として雇ってもらえるのなら、路頭に迷うことはないだろうか。
「現在、王都の魔力充填係は満員です。人気職業なのです」
「はあ」
 持っているモノを差し出すだけでお給料が貰えるのだから、人気職業というのは分かるような気がする。

「申し訳ございませんが、現在空いている部署は辺境ネシェル・ラムラしかございませんので、そちらに行ってもらうしかありません。もちろん王都でお仕事を探されてもよろしいのですが、ヤスダ様にはスキルが何もございませんので、王都で仕事を探すのは難しいかと思われます」

 王都よりは辺境の方が一般人の私に合っていると思うのは異世界小説の読み過ぎだろうか。元々住んでいたところも地方都市だし、本人も一般人だし、スキルもないようだし。

「辺境でいいです」
「そうですか、それではこの応募用紙にサインをして、こちらが雇用契約書、仕事に問題があればいつでも申し出てください」
 事務員に書類を出され、私はサインをした。

「王都中央市場より辺境行きの駅馬車が出ておりますが、折角ですから王都を見学されてから出発されてはいかがでしょうか」
 そして事務員はお金の入った袋を机の上に置く。
「こちらは支度金になります」
 至れり尽くせりであった。

「それから魔力充填係は、一週間程度王都で研修を行います。宿舎もございますので今から行きましょう。案内いたします」

「あの、私と同じようにしてこちらに来た方は他にもこの国にいらっしゃいますか?」
 見たところ、この部屋に難民らしき人間は私一人だ。もし同郷の人がいれば話が聞きたいといった軽い気持ちで聞いてみた。

「あなたの居られた世界から来た方は、現在この国にはいらっしゃいませんし、皆さんそれぞれバラバラの国や地域に暮らしています。来られた方も、民族も生活圏も年齢もバラバラですし」
「それは仕方がないですね」

 どうも全地球的なというよりも、もっと大きな規模で移住が行われているようだ。違う世界の人間、例えばタコみたいなエイリアンとか、昆虫みたいな人類とか、半魚人みたいな…………、段々怖い方向に想像が行って、考えるのを止めた。


  ◇◇

 事務員に伴われて王都の官舎に行った。ここは公務員の宿舎で、独身の女性官舎は三階建てで一階が玄関、管理人事務所と応接室、談話室、会議室がある。二階は平民の宿舎で三階は貴族の宿舎で、隣の棟に大食堂と売店があると教えられた。

 手続きはすべて事務員の男がしてくれた。
「それではヤスダ様のご活躍を祈っております」
「何から何まで大変お世話になりました。ありがとうございました」
 私が頭を下げると事務員の男はにっこり笑って帰った。

 私の部屋はもちろん平民の部屋だ。部屋は一間で、机と椅子、ベッドと作り付けのワードローブがあり、浴室トイレ洗面所と、小さなキッチンが付いている。キッチンには魔道コンロと小さな保冷用のボックスまである。水もお湯も魔道具で出てくるし、この異世界はかなり便利にできている。

 多分、王都だから好待遇なのだろう。私の勤務地は辺境だからここと同じというわけにはいかないと気を引き締める。

 私はこちらに来た時、バッグもなくなって着の身着のままだ。一階に降りて隣の建物の売店で下着と普段着と夜着を買おうと服を見た。だが、すべて古着で値段が高い。

 通勤にはパーカーにTシャツにジーンズ、スニーカーを履いていたので靴は買わずに、部屋着兼夜着として、一番安い濃いグレーのダボンとしたズボンとチュニックと洗い替えの下着とタオルを買ったが、これだけで小金貨二枚が消えた。
 ついでに夕飯の時間は過ぎているので夕飯代わりのパンと果実水を買って部屋に戻る。こちらは銅貨四枚だった。

 事務員から研修の日程を渡されていたので、パンを食べながら読んだ。少し固めのパンなので一緒に買った果実水で流し込む。

 ・起床 日の出
 ・準備体操、鍛錬
 ・朝食
 ・仕事(研修)
 ・昼食(弁当)
 ・仕事(研修)
 ・夕食
 ・日没まで鍛錬
 ・帰宅後、勉強をして就寝

 ん? 何だろう、この鍛錬というのは。

 私は異世界というのは、もっとこう中世の古い遅れた感じの文明を思い描いていた。この世界は割と進んでいるというか、中世に近世とか近代くらいの文明が混在して、そこに異世界要素までが混ざりこんでいる。

 ということはモニターで最初に見た魔物も実在するんだろうな。それで鍛錬が必要なのか。一般人でも、いや一般人だからこそ誰も守ってくれないのだし、自分で自分の身は守れっていうことか。大変な世界に来てしまったと、今更ながらに思う。

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