パンパカパーン! で始まった私の異世界ライフ

拓海のり

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04 充填ができません

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 魔力充填装置は大きいのから小さいのまである。公共の設備で街灯なんかの魔力を補充するのは何か所かに別れて充填機が設置されており、ボックスの鍵は自分の魔力で開くように登録してある。そして中にある魔石に魔力を充填するのだ。

 しかし研修では街に出ることはなく、研修室でまず魔力の動かし方を習う。自分の体内にある魔力を自由に動かせるようになって初めて仕事ができるのだ。

 この研修に来ているのは、充填係を希望する下位貴族や平民の学校を卒業したばかりの子女が多い。私と同じ宿舎にいる人はいないようだ。
 この世界に生まれ、魔力というものを知っている彼女らは、当然のことながら私より先にさっさと覚えて研修を終える。


  ◇◇

 宿舎に帰ると体中が痛くてクタクタだったが鍛錬は毎日朝晩ある。またあの大男がいるのだろうか。夕飯の後、恐る恐る夜の部に出たが、彼らはいなかった。食堂にもいなかったので勤務時間が違うのだろう。
 鍛錬の教官も男性で教え方も何となく違うが、みんなの後を必死で付いていくことに変わりはない。3日もすると身体が少し慣れた。


「そんなに小さいのによく頑張っているな」
 オレンジ茶髪のエドモンが声をかけてきた。彼は人懐こくニコリと笑う。
「小さいは余計だ」
 ぼそりと後ろからつぶやくダークブラウンの髪のジョゼフ。私の頭の上で睨み合うのを横目に逃げ出す。逃げ足は速くなった。だがすぐに追いつかれる。足の長さはどうしようもない。忍び足を習得したいところだ。

「メイの黒いつぶらな瞳が可愛い。胸にズキューンと来た」
「メイの抱き心地は最高だ。ふわふわで柔らくてそのくせ弾力があって」
「きさま」
 この二人、何で私に構ってくるのだろう。ペットか? ペット枠なのか?

 彼らと会うのは朝の鍛錬と朝食の時だけだ。3人で賑やかに食べるのは楽しいけれど気を使う。お貴族様のご令嬢の厳しい視線が飛んでくるのだ。

 二人はイケメンで良いところの出であるらしい。二人とも婚約者がいなくて、候補としてチェックを入れている令嬢は多いという。恐ろしいことである。私は一般人なのだ。近付かないで欲しい。幸いなことに朝の鍛錬以外は時間が合わないのか会うこともない。


 だが、私は異世界に来て最初のところで躓いてしまった。研修で上手くいかないで、どんどん置いてけぼりを食らう。後から来た人たちが苦も無く乗り越えて、先に巣立ってゆくのを見送るのは辛い。

 私は魔力充填係としてこの国で仕事をして生きてゆく。そう思っていたのに充填ができなければ仕事ができない。根本的な所で壁にぶつかって身動きが取れない。

 私はこの世界のことを何も知らない。安易に勧誘に乗って、こんな世界に来てしまったおバカな人間はこの先どうすればいいのだろう。すぐに帰らなかったら事故が起きやすいと聞いた。このまま頑張るしかないのだけれど、前の世界に無かったモノをどうすればいいのだろう。
 マイナスの感情ばかりが増えて、来なければよかったという思いで一杯になりそうだ。
 この世界に来たのは間違いだったのか。


「よう、どうした」
「お兄さんに相談しなさい」
 暗い顔で俯いた私に構ってくるのはジョゼフとエドモンだ。
「私より年上なの?」
「私は24歳」
「俺は22歳」
「エドモンは私と同じじゃない」
「メイの方がガキっぽい」

「いいから相談してみな」
「う」
 エドモンとジョゼフが落ち込んだ私の前で真顔で聞いてくる。
「魔力循環ができなくて……」
 つい喋ってしまった。二人にとって魔力循環なんて、できて当たり前のことだろうし、嗤われると思っていた。しかし彼らは親身になってくれたのだ。

「魔力は血液と同じように身体を巡っているんだ」
「ほらここで脈を診てトクントクンてなっているだろう」
 ジョゼフが私の手を取って言う。
「同じように、ちゃんと身体を巡っているんだ」
「下腹に力を入れて感じるんだ」
 エドモンがお腹に触れる。
「熱が集まるだろう?」

 彼らの指を触れたところがポインターで押したみたいに熱を持つ。それが移動するのだ。トクントクンと。
「お腹で息をするんだ」
「息を吸って吐いて」
 動いている。トクントクンと。
「感じたら捕まえろ」
「心で捕まえるんだ」
 心で感じて心で捕まえる。トクントクンと動いている熱を。
 ああ、何となく分かったような、できるような気がする。

「ホイ」
「流してみ」
 二人が手を差し出す。私が躊躇するとエドモンは早く早くという風に手を動かし、ジョゼフは私の手を掴んで自分の手に乗せる。それを見てエドモンも手を掴んで乗せた。

「う……」
 恥ずかしい。しかし彼らと会うのはこの時間しかないのだ。
 私は下を向いて目を閉じた。動いている熱を感じる。トクントクンと動いている。感じて、掴んで、動かす。指先へ。動いた。どっちにも届けと指先に持ってゆく。私は二人に同時に熱を届けた。
「くっ、可愛い」
「確かに受け取った」
 私はちゃんとできてホッとした。折角の仕事を失いたくなくて、この世界に居られる拠り所を失いたくなくて必死だった。


 その日の研修室で、初めて魔石に魔力充填ができた。
「ハイ、細く緩やかに切れ目なく流し込んでー」
 言われるままに、細く緩やかに切れ目なく流れるように制御して、魔石に充填する。白っぽくなっていた魔石が水が満ちるように輝くと魔力が流れなくなって充填終了だ。
「ハイ、綺麗にできました。ヤスダさん研修終了です」
「ありがとうございました」


 二人のお陰で研修を修了することができた。お礼を言おうと思ったけれど、次の日の朝の鍛錬に彼らはいなかった。エドモンもジョゼフも、どっちもいなくて、膨らんだ気持ちが萎んだ。アガット教官までいない。なんだか急に体の周りが寒くなったような気までしてきた。
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