パンパカパーン! で始まった私の異世界ライフ

拓海のり

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05 2度目のパンパカパーン

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 朝の鍛錬が終わって、ひとりで食堂に行けば今まで壁になっていた大男がいなくなって、私の悪口がもろに聞こえてきた。

「一般人で平民のくせに」
「ちびでブスでチンケな女のくせに図々しいのよね」
「身分違いも甚だしいですわ、辺境伯と公爵閣下が何と仰るか」
「エドモン様とジョゼフ様のお為にもなりませんわ」
「この国の若手でトップクラスの実力を誇る方々でございますのに、少しは遠慮なさればよろしいんじゃございませんの」

 うわ、あの二人は辺境伯家と公爵家のご子息だったのだ。だからか、こちらを睨む視線もなかなか恐ろしいものがあった。何か言われているような気はしたけれど、二人の大男に遮られていたようだ。
 彼らが守っていてくれたとか、気にかけてくれていたとか、この私に対して、そんな大層なことではないと思うけれど、感謝したい。
 食事を早々に終えて逃げるように食堂を出た。人を見下して嘲笑う声が後ろから追いかけてきて息を吐く。


  ◇◇

 食堂を出て隣の宿舎に向かっていると、入り口にいた兵士に呼び止められた。
「メイ・ヤスダというのはお前か」
「はい」
「国王陛下が引見される。このまま王宮に出頭せよ」
「ふええ」

 そのまま兵士に引きずられて、外に待っていた(黒塗りの護送馬車?)と脳内変換した馬車に乗せられ王宮に行く。いいのだろうか、この汗まみれの夜着上下で。ドレスなんかひっくり返しても無いけれど。

 大体、召喚した聖女じゃあるまいし、国王陛下とか雲の上の人だろうに一般人は会えないんじゃないか? 何かの間違いではないのか。間違いだったと言ってあっさり帰してくれるんだろうか。

 頭の中に不安と懸念の黒雲がむくむくと湧いてくる。しかし私は護送馬車に乗せられ、鍵を掛けられ逃れようもない。


 連れて行かれたのは王宮に入ってすぐの大広間で、呼び出されて下座に跪かされた。まるで罪人みたいに両脇に兵士がいる。はるか遠くに玉座があり、周りに王の側近らしき人や高位の貴族聖職者などがずらりと並び、きらびやかな近衛兵がその周りを警備している。

 国王陛下は私を見るなり宣った。
「何じゃ、そのちびのチンクシャは。男ではないのか」
「男ではございません」
 国王陛下の後ろに侍る側近らしい男が言う。

 そこに着飾った若い男があらわれた。国王陛下の側に並び立つ。彼は、豪華な意匠のドレスを着た美しい女性と一緒だ。
「陛下。聖女と申す者はどちらに?」
 国王は顎をしゃくって、遥か下座にいる私を指し示した。
「小汚い男のように見えますが?」
「おなごだそうじゃ」

 国王の隣に立つ金髪碧眼の若い男は、腕を組んで発言する。彼の腕に手を絡めた若く美しい女性が「まあ、殿下ったら」と、くすくすと笑う。殿下とは、王子だろうか。その隣の美女が婚約者か。まるで珍獣でも見に来たみたいだ。

「何かの間違いでしょう。聖女はこのオレリアです」
「そのようじゃ、確認のため呼んだが、魔力ばかりで魔法も使えぬ。どうやら偽物であるらしい。本来なら極刑をもって対処するところだが、もうよい。そいつをつまみ出せ」
「ハハーッ!」
 その一言で私は王宮から追い払われた。文字通り突き飛ばされるようにして正門横の小さい出入り口から追い出された。


 無事に出られたのはありがたい。しかしここは何処? 私は馬車に乗せられて王宮に来たので帰り道を知らない。何より、私のいた宿舎は国の施設だ。まだ居てもいいのだろうか。

 荷物ぐらいは取りに行ってもいいだろうか。部屋に移民局からもらった支度金がある。あれでさっさと辺境に行く駅馬車に乗ろう。考えが纏まったので宿舎を探して歩き始める。すると前方から見知った顔がやって来た。

「ヤスダ様ではありませんか!」
 丸眼鏡をかけて腕抜きをした移民局の事務員風の男だった。
「どうしました、こんな所で」
 地獄に仏とはこのことか、彼の顔が神にも仏にも見える。伏して拝みたい気持ちになった。

「道に迷ったんです。宿舎に帰って支度をして出発したいのですが」
 先程、王宮に拉致られたことを穏当に意訳して話して、王都に長居するつもりがないことを告げる。
「ああ、急ぐことはございませんよ。移民局は独立組織ですのでヤスダ様は移民局に守られています。国に口出しはできません」
「そうなのですか」
 それで王宮から追い出されたのだろうか。何にしても無事に出られるに越したことはないが。

「ヤスダ様はすでに辺境に就職することが決まっておりますので、安心して任地に赴いてください」
「はい、ありがとうございます」
 彼の言葉に少し安心した。

「ついでに少し道順を説明いたしましょう。ここが王都の広場になります」
 言われて見回すと、どこをどう歩いたのか石畳の広場に着いている。広場を囲むように商店が建ち並び、馬車を停める所もある。

「駅馬車はあちらから出ております」
 事務員の指す方を見ると、馬車の上に山盛りの荷物を載せて、四頭立ての馬車が出発するところだった。

「宿舎はそこの道を右に曲がって、まっすぐ行けばあります」
「何から何までありがとうございます」
「いえいえ」
 事務員さんはわざわざ宿舎まで送ってくれて、最後に私に封筒を渡して「それでは」と帰って行った。

 とても親切な方だ。でも何だか近寄りがたい感じ。人間ではない感じ。そつがなくて与えられた任務を無駄なく完璧に遂行する姿に「おありがとうごぜえます」と土下座して伏し拝みたくなる。


  ◇◇

 研修が終わったので、先ほど見た広場にあったお店で買い物をして、次の日出発しようかと考える。そういえばなんか封筒を貰ったんだった。
 封筒の差出人はやはり移民局からだ。何だろう。封蝋がしてあって魔力充填装置と似たような魔力を流す魔法陣がある。部屋に戻って、魔力を流して手紙を開いた。


 手紙を開けた途端に鳴り響く、パンパカパーン!

『メイ・ヤスダ様。この一週間、よく頑張りました。
 辺境就任のお祝いに異世界転移三点セットを贈呈します。異世界生活に役立ててください。これからの益々のご活躍をお祈りいたします。

 目録。
 一つ。身の内の倉庫初級。
 一つ。生活魔法初級。
 一つ。前の世界の持ち物を身の内の倉庫に収納。こちらにない品及び倉庫に収納できない品は換算して硬貨にて倉庫に収容』


 これすごい。何が嬉しいって着る服だ。こちらの服はものすごく高い。今着ているリネンの上下も古着なのに高かった。小金貨が二枚も飛んで行ったのだ。衣服や小物など生活に必要な物を購入しなくていいのは大きい。
 私は先程別れたばかりの移民局の事務員に、手を合わせて感謝したのだった。

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