パンパカパーン! で始まった私の異世界ライフ

拓海のり

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06 身の内の倉庫

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 早速ステータスオープンよろしく、倉庫オープンと呼び出してみた。目の前に倉庫と書かれた横並びに十個の四角い枠が浮かび上がった。まるでゲームのアイテムボックスのようだ。十個の枠はすでに塞がっている。満杯のようだ。ただ、枠の下にグレーアウト部分がある。レベルが上がったら二十枠になるのだろうか。

 そう思っていると、最初に倉庫の説明文が浮かび上がる。

【身の内の倉庫】
(時間経過なし。生きているモノは収納不可。枠のカテゴリ書き換えは自由。レベル制)

 やはり、レベルが上がったら枠が増えるらしい。しかし、どうやってレベルを上げるのだろう。
 や、やっぱり、戦うのだろうか?
 あの最初に見た魔獣を思い出すと、自然と気後れがして、へっぴり腰になる。

 とりあえず、枠を見る。衣類、靴、鞄、医薬、食品、食器、書籍文具、衛生、寝具、硬貨。何だろう、十枠全てが埋まっているのだが、衣類枠には下着からコート類まで入っているようだ。纏めて詰め込んである。
 誰が入れたのだろうか、何となく項目で分けて魔法で詰め込んだみたいな感じだ。

 出発前に支度金で、バッグや下着や靴下なんかを買おうと思っていたので、買わなくて済んでありがたい。

 早速、衣類枠の中身を見る。ごちゃごちゃに入っているので枠を押さえてソートというと、下着から順にプルダウンメニューみたいに並ぶ。その中からまたショーツを選べば常用のショーツ、補正ショーツ、可愛いショーツ、その他が選べるようになっている。
 この機能は凄い。異世界転移転生の人気アイテムは伊達じゃないなあと感心した。

 この世界に来た時に無くしたと思っていたバッグも、鞄枠の中に入っていた。しかしバッグの中身は空っぽだった。ハンカチや財布はあちこちに入っていたがスマホはなかった。そういえばパソコンもない、ベッドもないけれど布団は寝具に入っている。徹底している。

 そして要らない物は販売できるらしい。廃棄じゃなくて売るという項目があるのだ。試しに着ないで放置していた派手な花柄のブラウス(通販でセット売りの中に入っていた)を売ってみた。ブラウスが無くなってチャリンと音がして最後の枠の硬貨が増えた。ちょっと得した気分になったのは根っからの小市民だからだ。

 それにしても移民局ってすごいな。こんな三点セットを異世界人にくれるなんて。こんなの神様がくれる物じゃないのかな?
 そもそも転移とか転生って神の領域だろう。ということは、移民局って神の御使いとかそんな感じ? そんな偉いもんに道案内をしてもらって良かったのかしら。怒ってないだろうか。散々お世話になった後で思うのも今更なのだが。


  ◇◇

 出発の日、朝靄の中を宿舎の売店で買ったリネンのゴワゴワ上下にパーカーを引っ掛け、リュックとバッグと帽子、靴下にスニーカー姿で王都の市場発着の長距離移動の駅馬車乗り場に向かった。

 私は宿舎の食堂で、お貴族様の令嬢たちの嫌味口撃を食らいたくなくて、朝食を抜いて広場に行った。しかし、移民局の事務員さんと見た馬車乗り場には、まだ馬車がいなかった。
 しまった。発着時間をちゃんと調べておけばよかった。異世界に来て平常心をどこかに置き忘れてしまったようだ。こんなことでこの先この世界で生きていけるのだろうか。

 馬車の出発時間を聞こうと乗り場に向かっていると、
「よう、兄ちゃん。どこに行くんだ」と声を掛けられた。
 やっぱり男に見えるんだなと思いつつ振り向くと、ガラの悪そうな男の二人連れである。私の顔を見てニヤリと笑った。ものすごく嫌な笑い方だ。これは不味いかもしれない。

「へえ、兄ちゃんかと思ったら姉ちゃんじゃねえか」
「どこに行くんだ。俺たちと一緒に行かねえか」
 前に回り込んで手を掴みかねない様相だ。
 この世界の王都はそんなに安全な所ではないようだ。移民局の事務員さんも宿舎まで送ってくれていたし、まだ薄暗いような時間に女性の一人歩きは危険だったかもしれない。

 男たちを振り切って逃げようとしたが、一週間の鍛錬ではそんなに力も敏捷性も付いていない。腕を掴まれて引き摺られてどこかに連れて行かれそうになる。

 そこにのんびり声をかけてきた救世主がいた。
「あら、メイじゃないの。今から出発するの?」
 何と赤毛美女のアガット教官が駅馬車の乗り場に現れたのだ。
「助けて、アガット教官!」
 私は必死になって叫んだ。

「あら」
 少し小首を傾げた教官はにっこり笑った。美女の笑顔に男たちの手が緩む。彼女はいつもの鍛錬のようにタンと地を蹴って飛んだ。そして人相の悪いお兄さんの顔に蹴りを入れて着地した。まるで昔のアニメのシーンを見ているように美しい。

「ぐえっ」
 男はカエルの潰れたような声を上げて、石畳の上に転がった。私の手を掴んでいた男はそれを見て怯んで逃げようとする。しかし、アガット教官は容赦なく、その男にも顔面パンチと腹部ボディブロー、足蹴りを食らわせた。二人の男は石畳の上に伸びた。

 過剰防衛じゃないかしら。大丈夫だろうかと男たちが心配になるほどだ。振り向いたアガット教官は軽く手をはたいて聞く。
「メイは辺境に行くんだったな」
「あ、はい」
「私も一緒だ、こっちだ」

 アガット教官の指し示した方に四頭立ての馬車が停まっていた。屋根の上にたくさんの荷物が載っている。彼女もこの馬車に乗るようだ。男に襲われて心細くなったので、教官が一緒なのは心強い。彼女が辺境に行くとは何も聞いていないけれど、そんなに親しく話をする間もなかった。

「さあ乗ろう」
「あの人たちは?」
 やっと起き上がって、よろよろと逃げようとしている男たちを振り返る。
「ほっとけばいい」

 いいのだろうか。男たちは足を引き摺りながら逃げていく。アガット教官の攻撃は、結構ものすごいと思ったけれど、相手はチンピラみたいだし手加減したのかもしれない。

「そういえば、私まだ切符を買っていなくて」
「そんなもの後でいい」
「そうなんですか」
 どうもこの世界の基準がいま一つ飲み込めていない。

 馬車の側まで来たが御者が二人いて馬の世話をしているだけだ。アガット教官が近付くと御者のひとりがステップを出してくれた。
 馬車の内部は広くて座席は向かい合わせに二つだ。まだ普通の馬車に乗ったことはなかったのでこういうものかと思った。
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