パンパカパーン! で始まった私の異世界ライフ

拓海のり

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07 辺境に向けて出発しました

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 座席に座ってホッとしたのもつかの間、見覚えのあるオレンジ茶髪の大男と、ダークブラウンの髪の大男が馬車に乗り込んできた。

「アガット先輩、何でいるんですかー」
 エドモンが天敵にでも出会ったみたいに文句を言う。
「煩いわね。私が一緒にいた方がいいでしょうが。今だってあんたらが遅いから、危うくメイが攫われるところだったんだ」

「何だって? メイ、ひとりで辺境に行くなど危険だ」
 後から馬車に乗って来たジョゼフが、私の側にどっかと腰を下ろし、上から見下ろして説教を始める。

「朝の鍛錬にも来ないで、探してみればもう出発しているし」
 ええと、どういうことだろう。だが横からエドモンが口を出す。
「お前、狭いのにそこに座んな、メイが潰れる」
 そう言いながら彼も私の横に座ろうとする。
「あんたらねー」
 アガット教官が堪りかねて、私の腕を引っ掴んで向かいの席に移動した。二人の大男は向かいの席で睨み合う。

 睨み合う二人の大男と、訳が分からなくて呆然とする私をほっぽらかして馬車は動き始めた。


「どうしてエドモンとジョゼフが?」
 睨み合っている男たちを横目にアガット教官に聞くと、
「俺は辺境に戻るんだ」
「私は辺境勤務になった」
「「別に問題ない」」

 エドモンとジョゼフは当たり前のように答える。アガット教官が声を揃える二人の男をちらりと見て問題発言をする。

「これは駅馬車ではないんだ」
「え、うそ」
「俺んちの馬車だ」とエドモンが胸を張る。
「エドモンはネシェル・ラム辺境伯の次男で、ジョゼフはデュルフォール公爵の三男だ」

 宿舎の食堂でお貴族様の令嬢たちがそんなことを言っていた。彼らの貴族家がどういう力関係であるか知らないけれど、辺境伯とか公爵とかが有力貴族であることに間違いはないだろう。

 前の世界で読んだスマホの中の小説には、お貴族様の出てくる話がこれでもかと多くて、辺境伯は人気が高かったし、公爵令息も人気が高い。そんなものが実物として一般人の私と一緒に馬車の中にいる。逃げたい。逃げ出したいが馬車はすでに走り出している。

「申し訳ありません、すぐ降ります。降ろしてください」
「馬鹿を言うな」
「俺たち駅馬車乗り場にメイを迎えに行ったんだぞ」
「えーーー⁉」

 こんな一般人の私を、高位お貴族様のご子息が行く方向が同じだけで迎えに来てくれるなんて、親切にもほどがあるだろう。
「大丈夫だ、心配しなくてもこいつらがいるから、無事に辺境に着くと思う」
 アガット教官は最後は肩をすくめて言った。
 私の心はちょっと不安で、ちょっと嬉しくて、ちょっと訳が分からない状態だ。

  ◇◇

 春のうららかな街道を馬車はひたすら走る。沿道には麦畑が広がったり、放牧地があって牛や羊が牧草を食んでいたり、果樹園があって果物やジュース、お酒などを売っていたりする。長閑な旅だった。馬車は快適に走っているし街道は整備されている。

「辺境ネシェル・ラムの領都バーレイドまで10日程で着く」
 アガット教官が地図を広げて見せてくれた。
「辺境の地ネシェル・ラムは王都から北東の方角に、古くからある山沿いの国境の街バーレイドを中心に開けた」

 地図を見るに、辺境ネシェル・ラムはかなり広いような気がする。大きな都市が4つあり、たくさんの町、村が辺境領に広がっていて、中央の山沿いの台地に領都がある。

 辺境伯子息のエドモンが地図の説明をする。
「この森が魔の森タブーンだ。ミスリヤ山脈から流れてくるマロム川の本流が流れ、豊かで深い森を形成していて、魔素が色濃く流れ種々様々な生物や魔物が生息する」
「ミスリヤ山脈にある高い山々には龍が棲まうという。龍は辺境の地の守り神として信仰されている」
 ジョゼフが連なる山脈を指して説明する。
 魔の森とか龍とか、三人の説明を聞いて、ここが異世界なのだという思いを深くする私。

「深く考えることはない」
「魔物は俺たちが倒す」
「メイには指一本触れさせん」

 三人が口々に言ってくれるので私も「頑張ります」と答えたが、彼らの為に何をどう頑張ればいいのだろう。私にできるのは魔力充填だからきっとそれだろう。辺境だから魔力がたくさん必要なんだ、と考えた。


 その日は街道沿いにある大きな街に泊まった。大きな宿の広い部屋で寝室が二つあるのを男女に分かれて使う。ということはアガット教官と同室である。

 お風呂に入ると肩やお腹の辺りが赤くなっていた。馬車の揺れでごわごわのリネンが擦れて赤くなったらしい。夜着は倉庫からパジャマを引っ張り出して着て、リネンのごわごわは仕舞うことにした。洗っておきたいが生活魔法のやり方が分からない。

 王都の図書館に行けばよかった。でも、宿舎にいるのが申し訳ないというか、早く任地に行きたいというか、行かなければという使命感みたいなものもあったりして馬車に乗ったのだ。
 それに王宮に連行されて思った。王宮怖いと。一般人の私は警察とか軍隊とか怖い。まして、兵士なんて以ての外だ。王宮には二度と行きたくないと思っているが不敬に当たるだろうか。


 お風呂から出ると、部屋には色っぽい部屋着で寛いでいるアガット教官がいる。
「広い部屋ですね、ここ宿泊費高いんでしょうね」
 ポロッと出た小市民の私の感想に、アガット教官が答える。
「旅費はすべてネシェル・ラム辺境伯家とデュルフォール公爵家で折半だ。心配することはない」
「え、いや、なんで??」
 どうして移住枠の一般市民の私に、そこまでしてくれるのか。
「でも、それじゃあ申し訳ないというか、どうして──」
 私の口からはどうしてという言葉しか出ない。

「今回の召喚は辺境が深く関わっている。召喚だと王家が出てくるので、メイには移民枠で来てもらった」
 確かに私は移民枠で来た一般人である。

「王家は移民枠でしか異世界人が来なかったことが不満で、メイがどのような娘なのか探った」
 王宮に拉致られた時のことか。一般人の私を名指しして引っ張られたので、とても怖くて緊張した。

「だが、国王が関心を示さなかった。それで当初の予定通りメイは我々辺境の者が頂く」
 確かに王様は私を見て、手を振って追い出した。男か女か分からないような格好で、髪も短く黒髪だし、顔だって、王宮の広間にいた目鼻立ちのはっきりしたドレスの似合う美女たちと、比べ物にならないへちゃむくれなわけで──、思い出したらなんか悔しい。

「そういうわけで色々ややこしいが、まあ、なるようになるさ」

 アガット教官は最後は端折って説明を終えた。そもそも、私は移民枠で来た筈なのに召喚だと言われても──。
 私はただの一般人だし。

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