15 / 25
15 領都バーレイド
しおりを挟む辺境と言っても古くからある山沿いの国境の街だ。辺境伯領に入ると街道は整備され馬を替えたり宿や店のある駅逓がある。辺境伯軍の迎えもあって、何かに襲われることもなく領都バーレイドに着いた。
「辺境には魔物が出ないのでしょうか」
「出るぞ」
「魔の森もあるし」
「そうですか」
何だか一番安全だったような気がする。お陰でぱぴぷぺぽ戦隊合体ができなかった。もっと練習をしたいところだ。
『ぽぺぷぴー!』
土人形たちにも異存はないようだ。
辺境領に入ってから、エドモンとジョゼフは元気に馬車の外に出て騎馬で走り回っているので、私は人形たちを入れる袋を縫い始めた。側で見ていたぬいちゃんが手伝ってくれる。
チクチクチク。
マチを作って、底を作って、浅くして、フリルとリボンで可愛くして、持ち手は綿を入れて三つ編みにして、可愛い布製のかごが出来上がった。
「さあ、入ってみて」
土人形たちが籠の中に並んで座る。
『ぽ、ぺ、ぷ、ぴ』
可愛い。喋らなければ、動かなければ本物の人形みたいだけれど、喋って遊んで動いていてくれた方がいい。忘れないように魔力の充填をしておかなければ、この世界はいきなりが多いからね。
領都バーレイドの街は小高い丘の上にあり、その真ん中に頑健な城塞がある。街の周りはぐるりと城壁が取り囲んでおり背後は山で南にマロム川が流れている。中心にある辺境伯の城館の周りもぐるりと城壁が取り囲んでいて、マロム川の支流が城館を囲むように流れ頑丈な橋がいくつか架かっている。
領都バーレイドは王都と違って質実剛健な気風で華やかさはないけれど、広く賑わっている。
官舎や家臣団の館が中心にある辺境伯の城館を囲むように建っていて、真ん中に威容を誇る城館が広々と建っている。馬車はそのまま城館の奥の一族が住む立派な屋敷が建ち並ぶ一角の一つに入ってゆく。
「ここが我々の新居だ」
エドモンが広い敷地に建つ立派な屋敷を指す。何ということだ。もう新居があるとは。まだ返事もしていない筈だけど。
駄々広い屋敷に大勢の召使が出迎える。
「彼女が俺たちの妻のメイだ。皆よく仕えるよう」
うわあ、もう妻になっている。
「「「ははーーー‼」」」
一斉に頭を下げられると、どうしていいか分からない。
「よろしくお願いします」と在り来たりな言葉をかけた。
応接室に通されてお茶になった。何となく落ち着かないのは赤毛の美女アガット教官がいない所為だ。何か助言が欲しい。
「アガット姉さんの結婚式の時に、一族と引き合わせる」
アガット教官は迎えに来たエドモンの従兄ヴァランと結婚する。女性だが背が高くて筋肉もあり、とても強そうなアガット教官とお似合いの男性だと思えた。
「私の叔母が先代辺境伯の嫁なので、その時に引き合わせよう」
「エドモンとジョゼフは親戚なの?」
「叔母は後添いなので血は繋がっていないぞ」
ジョゼフの言葉に納得する。二人とも大柄だが似てはいない。エドモンは鍛え抜かれた筋肉がある。ジョゼフも筋肉はあるけれど細マッチョというか、どことなくシュッとした感じだ。
「先に婚姻の書類手続きをして、準備ができ次第、式と披露宴を行うことになる」
「そういうわけでメイ、ここにサインをして」
ジョゼフが丸めてある羊皮紙を広げた。見ると婚姻届けで、すでにジョゼフとエドモンのサインがしてある。いや、本当に三人で結婚できるんだな。本妻とか側女とかそういう区別はないし平等で対等だ。
「私と結婚なんかできるんですか? 私は正真正銘一般人ですよ」
「辺境の者はみんな俺たちがメイと結婚することを望んでいるし、俺たちも大事にする」
「ええと二人はお貴族様なんですよね。エドモンは辺境伯の次男でジョゼフは公爵家の三男で――」
「メイは召喚で来た異界人だ。何の問題もない」
問題ありありのような気がする。後で侍女らに寄ってたかっていびられたり、屋根裏か離れに放り込まれたり、彼らの女性問題が発覚したり、実は私はお飾りの妻として来たのだったり、とかになったりしないのかな。小説の読み過ぎだろうか。
しかし、私の目の前に羊皮紙を広げて、手にペンを持たされてじっと見守られると圧が凄くて、一般人の私にはもう抵抗も及びもつかないわけで言われるままにサインをした。
私がサインをするとジョゼフとエドモンが確認して頷く。ジョゼフが書類を丸めて筒状の入れ物に入れ、魔法でどこかに送った。
私が首を傾げて二人を見ると「「移民局だ」」と二人が答える。
移民局って……、そういえば王都を出る前の日に来たパンパカパーンの手紙も移民局からだった。あの親切な移民局の事務員さんが言っていたな。
『移民局は独立組織ですのでヤスダ様は移民局に守られています。国に口出しはできません』
そりゃあ移民局には報告した方がいいだろうけれど、国に報告しなくてもいいのだろうか。そこまで考えて王都を出る前に、王宮にいきなり拉致られて、まるでゴミのように、ポイと捨てられた仕打ちを思い出した。
アレに比べれば百万倍もマシだ。比べるべくもないけれど。
28
あなたにおすすめの小説
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果
下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。
一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。
純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。
小説家になろう様でも投稿しています。
想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…
宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。
いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。
しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。
だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。
不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。
差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、
彼女は“自分のための人生”を選び初める。
これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
おばあちゃんの秘密
蝋梅
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。
小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる