黄昏一番星

更科二八

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3章 バーンデッドディザスター

495話 剣闘士の夢

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シャンデール王国ヴァロア領のダルトワという都市は剣闘の興行を経済の中心とした都市だ。
シャンデール王都から南へ馬車で2日、船なら1日かからない距離にあり年間通して多くの人が訪れる。
そんなダルトワでも特に多くの人で賑わうのが年末年始の時期だ。
この時期ダルトワの複数あるコロシアムでは人気の高い剣闘士との試合が多く組まれたり、各地の有名な傭兵や冒険者を呼んだ試合が行われたりなど、注目度の高い催しが数多く行われてお祭りムードとなる。

そんな町中人でごった返し大賑わいなダルトワの某所で誰に見られることもなく2人の剣闘士が激しく技を交わし合っていた。
1人は短い金髪で長く尖った耳が特徴のエルフ族の女性。女性といっても背はかなり高く体も大きく筋骨隆々。両手にナックルダスターをはめ、右手首には長く細い鎖のついた腕輪もはめている。
もう1人はこれまた体が大きく逞しい狼獣人の青年で身の丈程ある鉄の棒を軽々と振り回している。

女性のほうはダルトワの町の剣闘士の頂点、強さのランキング1位であるイリーナ。狼獣人の青年はランキング5位のシリウス。
ランキングとしては差のある2人だが、攻防は拮抗していて既に3時間はお互い本気で戦い続けていた。

イリーナのバトルスタイルはかなり好戦的で長年の鍛錬で培われた鋼よりも硬い体で相手の攻撃をものともせずに突っ込み肉弾戦を仕掛けつつもたくみに鎖の鞭を操りあらゆる角度からも攻撃をする。シリウスはそんなイリーナの攻撃をなんとか全て捌きながらも、隙をついて、あるいは作り出しイリーナでさえ無視できない強力な一撃を差し込み、さらに自分のペースに持ち込もうと根気強く試し続ける。
そんなやりとりを3時間。根を上げたのはシリウスの方だった。

「もう!・・・無理!!」

叫びながらイリーナの体に雑に叩きつけた鉄の棒はガキンという音と共に弾かれへし曲がった。

「好き!!」
「俺と戦うのが、だろ!!もう勘弁してくれ。俺じゃあんたを倒せない」
「そんなことないさ!シリウスとの戦いが一番ヒリヒリするもの!あと1、2年頑張ってみない?」
「俺に得がない」
「私と戦える」

満面の笑みで答えるイリーナをみてシリウスは大きくため息をついた。
イリーナはダルトワ1の実力者というだけでなくかなりのバトルジャンキーな事でも有名だ。
普通なら上位ランクの剣闘士の試合はどれも注目度が高くなるように興行主が色々工夫して試合を組むため、誰もが簡単に戦えるような相手ではないのだが、イリーナはその実力で手に入れた特権を使い希望するものとは誰とでも戦えるようにしているほどの戦闘狂だ。
そんなイリーナだが疲れ果てた表情のシリウスを見て、凄く惜しい、もっと戦いたいという気持ちを抑えて「冗談よ」と返した。

剣闘士は基本的には奴隷身分であるのだが、ランキング上位勢にはスカウトされてきたものも多く、イリーナの様に自らが戦いたいがために志願してきた者も多数いる中で、シリウスは珍しく奴隷の剣闘士の中から頭角を表したものだ。
何故だかシリウスは実力者の目につくようで、剣闘士としてコロシアムに放り込まれた頃すぐからイリーナを含め多数の剣闘士から筋がいいと見込まれて戦い方を仕込まれてきた結果、ダルトワの剣闘士の中で5番目という位置に立っている。
しかし5番目という位置はシリウスを鍛えてきた他の剣闘士たちからの入れ知恵であえてそこに止まっているだけで、本来ならば1位のイリーナには勝てなくとも2位には勝てるだろうとというほどの実力をもっている。

シリウスには目的がある。
それは剣闘士という身分から脱し、散り散りになってしまっている家族を探すこと。
現在25歳のシリウスは11歳の頃までは母と共にいた。王都の娼館に買われていた母は娼妓の仕事をさせられつつもシリウスを育ててくれていて、シリウスも物心ついた頃から娼館の手伝いをしていた。
そんな母は常に生き別れになってしまったシリウスの父や双子の弟の事を心配しいつか家族揃って暮らせる事を夢見ていた。
シリウスも子供ながらに母のその夢を大事にしたいと思っていたのだが、11の頃に母に突然身請けの話が決まり、更には母が娼館を出る前にシリウス自身が娼館から奴隷商に売られてしまい強制的に母と別れさせられてしまったのだった。
それからコロシアムに放り込まれたシリウスは様々な剣闘士たちとの出会いと助言もあり上述した目的の遂行を目指して実力を伸ばし行動してきたのだった。

「昨日俺はこれまで貯めた金で自分を買った。あとは今年の試合を消化したら終わりだ。あんたに紹介してもらった役人にはよくしてもらったよ」
「シリウスのファンの子でしょ。あんたが積み上げてきた事の賜物よ。今のあんたには案外味方も多い事を覚えておくといいわ。最後はその人たちの期待を裏切らない戦いをしてきなさい」
「ああ!」

自身の夢の実現のため、世話になった者たちへ報いるための決意を込めた返事をしたシリウスはイリーナのもとから去っていった。
イリーナはそれを最後まで名残惜しそうに眺めた。
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