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花岡はるか4
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数年後。
相変わらず忙しい日々が続いていたが、今日は体調が悪く、早退してきた。
数日前から違和感はあったのだけど、今日はいつにも増して体が重い。
早く、帰ろう……。
ハナの作ったご飯を食べて、一晩寝ればすぐに快復するわよ……。
ズルズルと足を引きずるように、帰路についた。
「ただいま……」
「おかえり。どうしたの? 顔色悪いじゃない!」
「うん……。早退してきた……。悪いけど、お水もらえる?」
ハナはすぐに水を持ってきてくれた。
乾いた喉が潤っていく。
「熱は? 何か食べる?」
「熱はないんだけどね……。体が重くて。ちょっと横になるから、夕飯になったら起こしてくれる?」
「うん、大丈夫……?」
「大丈夫だよ。ハナの作ったご飯食べて寝たら良くなるって」
なるべく心配させないよう、笑顔を作った。
横になったら少し楽になり、私はそのまま眠ってしまった。
・
・
・
「……ねぇ、おきて! 起きて…………!」
……ん? ハナ……?
どうしたの、そんな慌てて……。
「起きて、〝ハナ〟!!」
……あれ? ハナ……は、私か……。
ゆっくりと目を開けると、見慣れた姿があった。
「ハナ、今日はぐっすり眠ってたね! 朝ごはん食べてる時間ないから、もう行くね!」
「……えっ? …………えっ?」
待って、待って待って。
「どこに行くの、〝はるか〟?」
「どこって、会社よ、仕事! どうしたの? 寝ぼけてる?」
ああ、そうか。
今日は平日だもんね。
「体調は、もう大丈夫なの?」
「大丈夫よ。言ったでしょ、ハナの作ったご飯食べて、寝たら良くなるって!」
「そう……。ごめんね、寝過ごしちゃって」
「たまには、そういう日もあるわよ。
じゃあ、〝ハナ〟行ってきます」
そう言って、〝はるか〟は仕事に行った。
……なにか、おかしい気がする。気のせいかな……?
体調が悪かったのは、はるか。うん、はるかだった。
でも、私は……?
私も昨日、体調が悪かったような……?
そう思いながら、玄関先を掃除しようとした時、私の中で鮮明に記憶が蘇った。
〝ハナ〟の靴がない。
なぜ、ないのか? 決まっている。
たった今、履いていったからだ。
私は、大急ぎで彼女を追いかけた。
「待って!!」
私が叫ぶと、彼女はゆっくりと振り向いた。
「どうしたの? 〝ハナ〟?」
彼女は微笑む。
その微笑みが、とてつもなく不気味に感じた。
「どうして……どうしてその靴を履いていったの?」
「あら? いやだ、間違えちゃった。もう戻る時間もないし、今日はこれ、貸しておいて?」
「……間違えたんじゃないよね? それが、自分の靴だから、だよね……?
…………ハナ!!」
「え……? 何を言っているの……? 〝ハナ〟は、あなたでしょ?」
「…………私は!!」
私……私は…………!
はっきりと、自分の名前が理解できる。
「私は花岡はるかよ!! 誤魔化さないで、ハナ!!」
ハナから、笑顔がすうっと消えた。
「……なんで。思い出したの……? 完璧な計画だったのに…………」
「ハナに買ってあげた靴が……。おかしいでしょ? はるかがハナの靴を履いていくなんて」
「そんなの、急いでたから間違えただけじゃない……!」
「違うよ、ハナ。急いでたから、いつも履き慣れている靴を履いていったんだよ」
人間、焦っている時は、いつもの習慣を無意識に行なってしまうものだ。
「ねえ、ハナ。あなた、自分で言ったよね? 入れ替わりは無理だって。なのに、どうして……? それに、どうやって私をハナだと思い込ませたの……?」
「そ、それは……」
「はい、そこまで」
いきなり現れたのは、ハナの種をくれた着物姿のご婦人だった。
「あ、あなたは……!」
相変わらず忙しい日々が続いていたが、今日は体調が悪く、早退してきた。
数日前から違和感はあったのだけど、今日はいつにも増して体が重い。
早く、帰ろう……。
ハナの作ったご飯を食べて、一晩寝ればすぐに快復するわよ……。
ズルズルと足を引きずるように、帰路についた。
「ただいま……」
「おかえり。どうしたの? 顔色悪いじゃない!」
「うん……。早退してきた……。悪いけど、お水もらえる?」
ハナはすぐに水を持ってきてくれた。
乾いた喉が潤っていく。
「熱は? 何か食べる?」
「熱はないんだけどね……。体が重くて。ちょっと横になるから、夕飯になったら起こしてくれる?」
「うん、大丈夫……?」
「大丈夫だよ。ハナの作ったご飯食べて寝たら良くなるって」
なるべく心配させないよう、笑顔を作った。
横になったら少し楽になり、私はそのまま眠ってしまった。
・
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「……ねぇ、おきて! 起きて…………!」
……ん? ハナ……?
どうしたの、そんな慌てて……。
「起きて、〝ハナ〟!!」
……あれ? ハナ……は、私か……。
ゆっくりと目を開けると、見慣れた姿があった。
「ハナ、今日はぐっすり眠ってたね! 朝ごはん食べてる時間ないから、もう行くね!」
「……えっ? …………えっ?」
待って、待って待って。
「どこに行くの、〝はるか〟?」
「どこって、会社よ、仕事! どうしたの? 寝ぼけてる?」
ああ、そうか。
今日は平日だもんね。
「体調は、もう大丈夫なの?」
「大丈夫よ。言ったでしょ、ハナの作ったご飯食べて、寝たら良くなるって!」
「そう……。ごめんね、寝過ごしちゃって」
「たまには、そういう日もあるわよ。
じゃあ、〝ハナ〟行ってきます」
そう言って、〝はるか〟は仕事に行った。
……なにか、おかしい気がする。気のせいかな……?
体調が悪かったのは、はるか。うん、はるかだった。
でも、私は……?
私も昨日、体調が悪かったような……?
そう思いながら、玄関先を掃除しようとした時、私の中で鮮明に記憶が蘇った。
〝ハナ〟の靴がない。
なぜ、ないのか? 決まっている。
たった今、履いていったからだ。
私は、大急ぎで彼女を追いかけた。
「待って!!」
私が叫ぶと、彼女はゆっくりと振り向いた。
「どうしたの? 〝ハナ〟?」
彼女は微笑む。
その微笑みが、とてつもなく不気味に感じた。
「どうして……どうしてその靴を履いていったの?」
「あら? いやだ、間違えちゃった。もう戻る時間もないし、今日はこれ、貸しておいて?」
「……間違えたんじゃないよね? それが、自分の靴だから、だよね……?
…………ハナ!!」
「え……? 何を言っているの……? 〝ハナ〟は、あなたでしょ?」
「…………私は!!」
私……私は…………!
はっきりと、自分の名前が理解できる。
「私は花岡はるかよ!! 誤魔化さないで、ハナ!!」
ハナから、笑顔がすうっと消えた。
「……なんで。思い出したの……? 完璧な計画だったのに…………」
「ハナに買ってあげた靴が……。おかしいでしょ? はるかがハナの靴を履いていくなんて」
「そんなの、急いでたから間違えただけじゃない……!」
「違うよ、ハナ。急いでたから、いつも履き慣れている靴を履いていったんだよ」
人間、焦っている時は、いつもの習慣を無意識に行なってしまうものだ。
「ねえ、ハナ。あなた、自分で言ったよね? 入れ替わりは無理だって。なのに、どうして……? それに、どうやって私をハナだと思い込ませたの……?」
「そ、それは……」
「はい、そこまで」
いきなり現れたのは、ハナの種をくれた着物姿のご婦人だった。
「あ、あなたは……!」
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