オヤジ栽培〜癒しのオヤジを咲かせましょう〜

草加奈呼

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Case D:土屋美雨1 雨はきらい

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 雨は嫌い。傘を、すぐ忘れるから。

 雨は嫌い。お父さんが、出て行った日だから。

 雨は嫌い。雨が降るのは、私のせいだから────。





 私の名前は、土屋美雨つちやみう
 近所の高校に通う17歳の受験生だ。
 今日も雨に降られ、テナントビルの軒下で雨宿りしていた。
 コンビニで傘を買えばいいって?

 私は昔から、根っからの雨女で、雨に降られるたびにコンビニ傘。
 よって、家にはコンビニ傘が売るほどあるのだ。
 母からコンビニ傘禁止令が出てから、折りたたみ傘を持ち歩くようにしていたのだけれど、今日は絶対晴れ! 降水確率0パーセント! 天気予報を信じて学校に行ったら、突然のゲリラ豪雨。天気予報より、私の呪いが勝ってしまった。

 この体質のせいで、昔は同級生に名前をからかわれたりした。

『名前に“雨”が入ってるから、おまえのせいで雨が降ったんだ』

 ……なんて、根拠のない責められ方もしたけれど、あながち間違いでもないので、何も言い返せなかった。
 さあ、このゲリラ豪雨は、どれくらいで過ぎ去るでしょうか?
 スマホを取り出して雨雲レーダーを見ようとした、その時────。

 雨の中、こちらに向かって走ってくる着物姿の女性。
 せっかくの綺麗な着物が、雨で台無しだ……。
 私は、なんだか申し訳なくなった。

 女性は、小さく肩で息をして呼吸を整え、ハンカチで着物を拭いていた。
 しかし、この雨量では着物だけでなく、全身もうベトベト。ハンカチではとても拭けそうになかった。

「……どうぞ」


 私はカバンから、たまたま持ち合わせていたタオルを取り出し、女性に差し出した。

「あらぁ、いいわよ。あなたも濡れているわ」

「私は、そんなに濡れなかったから大丈夫です」

 運良くすぐに軒下に入れたから、本当にそんなに濡れていない。

「じゃあ、お借りするわね。ありがとう」

 女性は物腰柔らかで、優雅な雰囲気だった。
 見ると、花の籠を持っていた。花の籠は、丁寧にビニールで包まれていた。

「この子たちが無事で良かったわ」

 女性は、自分よりも花を心配しているようだった。
 ビニールに包んで、花を守っていたのだ。
 とりわけ会話することもなく、ただ黙って女性の隣で雨が上がるのを待っていると、女性は何かを取り出した。

「そうだわ。これ、タオルのお礼。花の種なんだけど、良かったら育ててみない? 植物は、癒しの効果もあるのよ」

 特に断る理由もなく、私は「はぁ」と気のない相槌をして受け取った。
 袋は真っ白で、何の花かは書かれていなかった。

「これ、何の花ですか?」

「うふふ、それは、育ててみてのお楽しみよ」

「何の花かわからないと、育て方がわからないんですが」

「それもそうね。種を植えて、1日1回、霧吹きで水をあげるのよ。あとは、花が咲いたら教えてくれると思うわ」

「教えてくれる……って、誰が?」

「あら、雨が上がったみたいね。では、私はこれで」

「えっ? あの……!?」

 その時、一瞬だけ雨上がり特有の強い風が吹いた。
 乱れた髪を直している間に、女性の姿は見えなくなっていた。

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