19 / 40
Case D:土屋美雨1 雨はきらい
しおりを挟む
雨は嫌い。傘を、すぐ忘れるから。
雨は嫌い。お父さんが、出て行った日だから。
雨は嫌い。雨が降るのは、私のせいだから────。
私の名前は、土屋美雨。
近所の高校に通う17歳の受験生だ。
今日も雨に降られ、テナントビルの軒下で雨宿りしていた。
コンビニで傘を買えばいいって?
私は昔から、根っからの雨女で、雨に降られるたびにコンビニ傘。
よって、家にはコンビニ傘が売るほどあるのだ。
母からコンビニ傘禁止令が出てから、折りたたみ傘を持ち歩くようにしていたのだけれど、今日は絶対晴れ! 降水確率0パーセント! 天気予報を信じて学校に行ったら、突然のゲリラ豪雨。天気予報より、私の呪いが勝ってしまった。
この体質のせいで、昔は同級生に名前をからかわれたりした。
『名前に“雨”が入ってるから、おまえのせいで雨が降ったんだ』
……なんて、根拠のない責められ方もしたけれど、あながち間違いでもないので、何も言い返せなかった。
さあ、このゲリラ豪雨は、どれくらいで過ぎ去るでしょうか?
スマホを取り出して雨雲レーダーを見ようとした、その時────。
雨の中、こちらに向かって走ってくる着物姿の女性。
せっかくの綺麗な着物が、雨で台無しだ……。
私は、なんだか申し訳なくなった。
女性は、小さく肩で息をして呼吸を整え、ハンカチで着物を拭いていた。
しかし、この雨量では着物だけでなく、全身もうベトベト。ハンカチではとても拭けそうになかった。
「……どうぞ」
私はカバンから、たまたま持ち合わせていたタオルを取り出し、女性に差し出した。
「あらぁ、いいわよ。あなたも濡れているわ」
「私は、そんなに濡れなかったから大丈夫です」
運良くすぐに軒下に入れたから、本当にそんなに濡れていない。
「じゃあ、お借りするわね。ありがとう」
女性は物腰柔らかで、優雅な雰囲気だった。
見ると、花の籠を持っていた。花の籠は、丁寧にビニールで包まれていた。
「この子たちが無事で良かったわ」
女性は、自分よりも花を心配しているようだった。
ビニールに包んで、花を守っていたのだ。
とりわけ会話することもなく、ただ黙って女性の隣で雨が上がるのを待っていると、女性は何かを取り出した。
「そうだわ。これ、タオルのお礼。花の種なんだけど、良かったら育ててみない? 植物は、癒しの効果もあるのよ」
特に断る理由もなく、私は「はぁ」と気のない相槌をして受け取った。
袋は真っ白で、何の花かは書かれていなかった。
「これ、何の花ですか?」
「うふふ、それは、育ててみてのお楽しみよ」
「何の花かわからないと、育て方がわからないんですが」
「それもそうね。種を植えて、1日1回、霧吹きで水をあげるのよ。あとは、花が咲いたら教えてくれると思うわ」
「教えてくれる……って、誰が?」
「あら、雨が上がったみたいね。では、私はこれで」
「えっ? あの……!?」
その時、一瞬だけ雨上がり特有の強い風が吹いた。
乱れた髪を直している間に、女性の姿は見えなくなっていた。
雨は嫌い。お父さんが、出て行った日だから。
雨は嫌い。雨が降るのは、私のせいだから────。
私の名前は、土屋美雨。
近所の高校に通う17歳の受験生だ。
今日も雨に降られ、テナントビルの軒下で雨宿りしていた。
コンビニで傘を買えばいいって?
私は昔から、根っからの雨女で、雨に降られるたびにコンビニ傘。
よって、家にはコンビニ傘が売るほどあるのだ。
母からコンビニ傘禁止令が出てから、折りたたみ傘を持ち歩くようにしていたのだけれど、今日は絶対晴れ! 降水確率0パーセント! 天気予報を信じて学校に行ったら、突然のゲリラ豪雨。天気予報より、私の呪いが勝ってしまった。
この体質のせいで、昔は同級生に名前をからかわれたりした。
『名前に“雨”が入ってるから、おまえのせいで雨が降ったんだ』
……なんて、根拠のない責められ方もしたけれど、あながち間違いでもないので、何も言い返せなかった。
さあ、このゲリラ豪雨は、どれくらいで過ぎ去るでしょうか?
スマホを取り出して雨雲レーダーを見ようとした、その時────。
雨の中、こちらに向かって走ってくる着物姿の女性。
せっかくの綺麗な着物が、雨で台無しだ……。
私は、なんだか申し訳なくなった。
女性は、小さく肩で息をして呼吸を整え、ハンカチで着物を拭いていた。
しかし、この雨量では着物だけでなく、全身もうベトベト。ハンカチではとても拭けそうになかった。
「……どうぞ」
私はカバンから、たまたま持ち合わせていたタオルを取り出し、女性に差し出した。
「あらぁ、いいわよ。あなたも濡れているわ」
「私は、そんなに濡れなかったから大丈夫です」
運良くすぐに軒下に入れたから、本当にそんなに濡れていない。
「じゃあ、お借りするわね。ありがとう」
女性は物腰柔らかで、優雅な雰囲気だった。
見ると、花の籠を持っていた。花の籠は、丁寧にビニールで包まれていた。
「この子たちが無事で良かったわ」
女性は、自分よりも花を心配しているようだった。
ビニールに包んで、花を守っていたのだ。
とりわけ会話することもなく、ただ黙って女性の隣で雨が上がるのを待っていると、女性は何かを取り出した。
「そうだわ。これ、タオルのお礼。花の種なんだけど、良かったら育ててみない? 植物は、癒しの効果もあるのよ」
特に断る理由もなく、私は「はぁ」と気のない相槌をして受け取った。
袋は真っ白で、何の花かは書かれていなかった。
「これ、何の花ですか?」
「うふふ、それは、育ててみてのお楽しみよ」
「何の花かわからないと、育て方がわからないんですが」
「それもそうね。種を植えて、1日1回、霧吹きで水をあげるのよ。あとは、花が咲いたら教えてくれると思うわ」
「教えてくれる……って、誰が?」
「あら、雨が上がったみたいね。では、私はこれで」
「えっ? あの……!?」
その時、一瞬だけ雨上がり特有の強い風が吹いた。
乱れた髪を直している間に、女性の姿は見えなくなっていた。
30
あなたにおすすめの小説
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる