九鬼妖乱 『鬼』

冬真

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13、月に照らされて

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「雅也さん? 」
「今さら鬼なんて時代錯誤も甚だしい。」

冷たく言い捨てて雅也は、二人に向き直った。

「この話は、帰ってからにしましょうね」
「そ、そうですね」
「はぁ~疲れた。ここの浄化は誰か他の人に任せたいな」
「もちろんです。香坂、」
「手配済みです。そろそろ浄化担当が来る頃だと思います」
「さすがですね~! ありがとうございます」

妖し退治が終わってもそれで終わりではない。
瘴気が残っていれば、それを餌にまた怪異が集まってしまう。
骸を片付け、場を清める「浄化」も大切な仕事だ。全て請け負うときもあるが今回は、場が広いので香坂が先に浄化専門の術者を手配していたらしい。
その手際の良さに雅也も安心したように頷く。

「まあ、雅也さんがやる仕事でもないですよ。」

次期当主である雅也自らが疲弊してまでやる仕事ではなかった。

「早く帰りましょう! 」
「ですね」 

ようやく肩の荷が下りたのか軽く腕を伸ばしていつもの明るい笑顔を浮かべる。
鬼が陰の気なら雅也は陽の気が強い。
見る者に惜しみなく当然というように光を与えてくれる。
伊坂は無邪気な笑顔を見る度、まだ年若いこの子を支えていこうと思うのだった 。 

ふと、香坂と目が合う。
顔を見合わせた二人も雅也につられて微笑んだ。

「帰りは寝てても良いですよ」
「わ~、ありがとうございます! 伊坂さんも疲れてるのにすみません」
「いいんですよ、それも俺の仕事ですから」
「安全運転で頼むよ、兄貴」
「もちろん。」

任せろと頷く伊坂の表情は、柔らかい。

ようやく玄関先まで戻ると先に外に出ていた上尾一行が出迎えてくれる。
望、湊は無傷とはいかないものの大きな怪我はなさそうで雅也を安心させた。
京子は、預かっていたブレザーを渡すと折り目正しい礼で見送ってくれた。

派遣組は集まっていた低級の妖しを祓い庭掃除にいそしんでいる。
鈴木に軽く挨拶して門前まで戻ってきたところで香坂が姿勢を正す。

「じゃあ俺は浄化班の到着を待ってから帰りますからここで。お疲れ様でした雅也さん」
「香坂さんもお疲れ様です。後は、お願いしますね」
「頼んだぞ香坂」
「はいはい。」

申し訳なさそうに微笑む雅也に香坂は、笑顔で手を振った。
なぜか伊坂が微妙な顔をしたが雅也の手前、何も言わずに背を向ける。

二人を見送って香坂は「さて、もう一仕事するか」と大きく伸びをした。

香坂と分かれた後、車を回してきた伊坂は雅也を乗せて速やかに帰路についた。

「ここの浄化と後処理は香坂に任せれば問題ないでしょう」
「そうですね」
「依頼主にはあとで結果をお伝えしないと」
「ですねぇ」
「あとは警察と協会ですが」
「……はい……はい、」

「雅也さん? 」と声をかけようとして伊坂は口をつぐむ。
信号待ちでバックミラー越しに後部座席の雅也を見やった伊坂は、小さく笑った。

「疲れた」と言っていたのは本心だったようだ。
雅也は、すでにコクコクと船を漕いでいる。

(無理もない。昼間は学校で今日は休む暇も無かったんだからな。お疲れ様です雅也さん。……なるべく安全運転で帰ろう) 

とっくに街は夜の装いだ。
閑静な住宅街を出て交通量の少なくなった大通り。伊坂は、少しゆっくり帰っても良いだろうと思った。
できれば雅也を起こしたくない。

(ほんの少し。戦士の休息、かな。それくらい許されてもいいでしょう)

あどけない寝顔に伊坂は「おやすみなさい、雅也くん」と小さく声をかける。

信号は青、静かにアクセルを踏み込む。
路面を滑るように再び走り出した車。



大きな月がその行く先を優しく照らし出していた。


End.


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