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第2章
18、庶民枠
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「トミ先め、私が庶民だからって雑用押しつけやがって」
憤慨しつつ少女は段ボール2箱分の教材を抱えてやたらピカピカの廊下をよろよろと歩いていた。
トミ先こと富沢先生は庶民に厳しいと有名だ。軽く「片づけておいてください」と言うが社会科準備室は遠かった。
この伝統と格式で有名な「聖鳳学園」にも庶民はいる。
ほとんどの生徒が付属中学からのエスカレーター組だが、なんだか分からない決まりで一般枠が用意されている。
通称、庶民枠。
うれしくない呼称だが致し方ない。庶民枠も更に三つに分かれる。
スポーツ推薦組、奨学金特待生組。この二つはまだいい。一芸があるし優秀なら学費が免除される場合もある。
問題なのは、最後に残った一つ。
「無理して入学したただの庶民組」だ。一般入試に合格しただけで特に一芸もなくお金持ちでもない。
入るのは良いが「無理」しているというのが悲しい。
少女の父は、不動産業を営んでいる。
地元ではそこそこの経営者だが大金持ちというほどでもないし「聖鳳学園」に娘を通わせているというステータスのためにかなり無理をしている。
親戚や果てはお客さんにまで自慢しているらしい。
(恥ずかしいからやめてよね~! たまたま受かっちゃっただけなんだからぁ)
酔っぱらうと「いいお婿さんを見つけてお父さんを楽させてくれよな~」などと冗談とも本気ともつかないことを言い始める。
(無理だって!! 現実見て?! 絶世の美女ならともかく私って自分で言うのもなんだけど顔もスタイルも超普通だよっ)
思い出しただけで泣けてきた。
「すいませーん、ごめんなさい」と謝りながら同級生たちを避ける。
きょとん、としている彼、彼女たちは一様にいい家の子たちだ。
(見れば分かる。オーラが違う。なんかそうだ。絶対お金持ち。)
少女、吉田洋子は肩を竦める。
(てっきり場違いすぎていじめられたりするかと思ったら…)
思いの他なにも起こらない。入学する前はかなり身構えていたのだが拍子抜けするほどに平和だった。
漫画でよく見るロッカーにゴミを入れられることも、机に落書きされることも、あまつさえ靴を隠されるなんてことも一切なかった。
それどころか、ほとんどの生徒が激しい受験戦争もなくエスカレーター式で見知った顔ばかりという状況。
(育ちの良さっていうの? なんていうか、・・・うん、そう。ほのぼのしちゃってるのよね。)
ここで得た教訓。
――そもそもお金持ちは、庶民に構わないのであった。
わざわざつっかかる必要もない。
(いいような、悪いような。お父さん、お金持ちの友達はお金持ちです。結婚するのもお金持ち同士だよ…)
廊下に向かって深い深いため息をつく。それがいけなかったのだろう。
ドンッ
「ひゃっ」
完全な前方不注意だ。何かにぶつかった。
あわてて後ろに下がろうとすれば段ボールが大きく揺れた。
崩れる、そう思った次の瞬間、段ボールをしっかりつかまれた。
「大丈夫? 」と頭上で声がする。
「ご、ごめんなさい」
「吉田さん」
上から覗き込むようにして顔をのぞかせたのは、優しそうな面差しの同級生であった。
思ったより背が高い。小柄な洋子とは頭一つ分ほど違う。
「段ボールが歩いてるのかと思った」
不思議そうな顔をする彼。
知っている。
よく知っている同級生だ。
「あ、上尾くん!!!! 」
するとさっきぶつかったのは…
青ざめて更に仰け反る洋子。
「す、すみませんぶつかってぶつかって、え!? 」
「う、うん? 」
首を傾げるのは、上尾雅也であった。
その辺を見渡せばキラキラした王子様が何人でも見つかるこの学園。その中でも甘い顔立ちと優しそうな笑顔が素敵な…要するに洋子のお気に入りランキング№1王子様だ。
「ああああああ…なんてことを」
その雅也が「大丈夫? 」と優しくほほ笑んでくれる。おそらく幻想だ。
王子様にぶつかってしまった。
(他の女子に怒られない?!! )
常に学年カースト上位のトップ・オブ・トップ。よく知らないが実家はものすごいお金持ちらしい。自分から目立つ行動をするタイプではないけれど、そこにいるだけで何となく華がある。
とりあえず庶民には眩しすぎる存在だ。
「い、生きてる!! 」
「え…はい」
勢いに押されて思わず頷く雅也。一緒にいた男の子たちが驚いたように一歩引いた。
(私はバカなのか? )
憤慨しつつ少女は段ボール2箱分の教材を抱えてやたらピカピカの廊下をよろよろと歩いていた。
トミ先こと富沢先生は庶民に厳しいと有名だ。軽く「片づけておいてください」と言うが社会科準備室は遠かった。
この伝統と格式で有名な「聖鳳学園」にも庶民はいる。
ほとんどの生徒が付属中学からのエスカレーター組だが、なんだか分からない決まりで一般枠が用意されている。
通称、庶民枠。
うれしくない呼称だが致し方ない。庶民枠も更に三つに分かれる。
スポーツ推薦組、奨学金特待生組。この二つはまだいい。一芸があるし優秀なら学費が免除される場合もある。
問題なのは、最後に残った一つ。
「無理して入学したただの庶民組」だ。一般入試に合格しただけで特に一芸もなくお金持ちでもない。
入るのは良いが「無理」しているというのが悲しい。
少女の父は、不動産業を営んでいる。
地元ではそこそこの経営者だが大金持ちというほどでもないし「聖鳳学園」に娘を通わせているというステータスのためにかなり無理をしている。
親戚や果てはお客さんにまで自慢しているらしい。
(恥ずかしいからやめてよね~! たまたま受かっちゃっただけなんだからぁ)
酔っぱらうと「いいお婿さんを見つけてお父さんを楽させてくれよな~」などと冗談とも本気ともつかないことを言い始める。
(無理だって!! 現実見て?! 絶世の美女ならともかく私って自分で言うのもなんだけど顔もスタイルも超普通だよっ)
思い出しただけで泣けてきた。
「すいませーん、ごめんなさい」と謝りながら同級生たちを避ける。
きょとん、としている彼、彼女たちは一様にいい家の子たちだ。
(見れば分かる。オーラが違う。なんかそうだ。絶対お金持ち。)
少女、吉田洋子は肩を竦める。
(てっきり場違いすぎていじめられたりするかと思ったら…)
思いの他なにも起こらない。入学する前はかなり身構えていたのだが拍子抜けするほどに平和だった。
漫画でよく見るロッカーにゴミを入れられることも、机に落書きされることも、あまつさえ靴を隠されるなんてことも一切なかった。
それどころか、ほとんどの生徒が激しい受験戦争もなくエスカレーター式で見知った顔ばかりという状況。
(育ちの良さっていうの? なんていうか、・・・うん、そう。ほのぼのしちゃってるのよね。)
ここで得た教訓。
――そもそもお金持ちは、庶民に構わないのであった。
わざわざつっかかる必要もない。
(いいような、悪いような。お父さん、お金持ちの友達はお金持ちです。結婚するのもお金持ち同士だよ…)
廊下に向かって深い深いため息をつく。それがいけなかったのだろう。
ドンッ
「ひゃっ」
完全な前方不注意だ。何かにぶつかった。
あわてて後ろに下がろうとすれば段ボールが大きく揺れた。
崩れる、そう思った次の瞬間、段ボールをしっかりつかまれた。
「大丈夫? 」と頭上で声がする。
「ご、ごめんなさい」
「吉田さん」
上から覗き込むようにして顔をのぞかせたのは、優しそうな面差しの同級生であった。
思ったより背が高い。小柄な洋子とは頭一つ分ほど違う。
「段ボールが歩いてるのかと思った」
不思議そうな顔をする彼。
知っている。
よく知っている同級生だ。
「あ、上尾くん!!!! 」
するとさっきぶつかったのは…
青ざめて更に仰け反る洋子。
「す、すみませんぶつかってぶつかって、え!? 」
「う、うん? 」
首を傾げるのは、上尾雅也であった。
その辺を見渡せばキラキラした王子様が何人でも見つかるこの学園。その中でも甘い顔立ちと優しそうな笑顔が素敵な…要するに洋子のお気に入りランキング№1王子様だ。
「ああああああ…なんてことを」
その雅也が「大丈夫? 」と優しくほほ笑んでくれる。おそらく幻想だ。
王子様にぶつかってしまった。
(他の女子に怒られない?!! )
常に学年カースト上位のトップ・オブ・トップ。よく知らないが実家はものすごいお金持ちらしい。自分から目立つ行動をするタイプではないけれど、そこにいるだけで何となく華がある。
とりあえず庶民には眩しすぎる存在だ。
「い、生きてる!! 」
「え…はい」
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