九鬼妖乱 『鬼』

冬真

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第2章

20、「屋上」

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『屋上』

佐藤勝利は、学園一の不良などと噂されている。
が、なんてことはない。タバコを吸ったこともない。酒も飲まない。現に制服だって着崩していない。
 
先ほども席を立っただけなのに同級生たちを驚かせてしまった。椅子を引いたら意外に大きな音が出て自分でも驚いたくらいだ。
なにも言えずそそくさとクラスを後にした。

(不良って、なんもしてないのにな…)

ただ単に昔から人付き合いが苦手なだけだった。
ほとんどの生徒がエスカレーター式に進級するこの学園。
高校入試組の勝利は、なかなか友達が作れなかった。生来の口下手で、おまけに目つきが悪いのが良くなかった。なんて言おうか考えている間に勝手に相手が怖がってしまうのだ。

流れる雲を見上げて瞼を閉じた。
勝利は、屋上にいた。休み時間が終わってもなんとなく教室に戻る気になれずいつの間にか昼休みになってしまったのだ。

セレブが多いこの学校でわざわざランチを屋上で過ごそうなどという奇特な生徒は少ない。
意外と静かで居心地が良い。
昼休みが終わるまではここにいよう。そう思った矢先、屋上の扉がゆっくり開く。隙間から誰かが顔を出した。

思わず凝視してしまう。向こうも誰も居ないだろうと思っていたのだろう。
勝利に気がつくと小さく「おっ」と驚きの声を漏らす。

(「お」ってなんだ)

 ふわふわした髪。色素の薄い鳶色の瞳。見覚えのある顔だ。

(上尾、雅也…? なんでこんなところに)
 
同じクラスの上尾雅也くん。
なんだ。と、安心して肩の力を抜く。先客が学校一の不良などと噂されている勝利だと知れば、だいたいの生徒はへらへら笑って引き返す。
どう見ても柔弱そうな雅也なら、そのまま帰るものだろう。そう思いもう一度瞼を閉じかけた瞬間、扉の開閉音がする。
勝利の視線など気にもせず屋上に出てきた雅也。

「いや、なんで来るんだよ? 」
「え? 」 
 
きょとんとして首を傾げた。 
ふわふわした髪が少し揺れる。女子たちが好きそうな甘い顔立ち。目つきが悪いと言われる佐藤とは真逆のような存在だ。
舌打ちしかけてやめる。人に舌打ちするのは良くないことだ。

「屋上ってもしかして誰かの許可がいるの? 」
「いや…いらないけども。そういうことじゃないだろ。なんでこんなとこに? 」
「あー、ここなら誰も居ないかなって。佐藤くんはなにしてるのかな? 」
「見たら分かるだろ。俺はサボりだよ、サボり! 」

大人しそうな顔してこのお坊ちゃんもサボりというわけでもないだろう。
いぶかしむ佐藤に雅也は「ふうん」と頷いただけだった。

(え、反応薄いな。なんかもっとあるよな普通? )
 
勝利のとげとげしい言葉もそよ風程度にしか感じていないらしい。
涼しい顔で屋上を見渡す雅也。

「静かだよね。ここなら昼寝するのにちょうどいいかも」
「昼寝? 」

聞き間違いかな? と、首を傾げる。
そんな勝利の困惑をよそに雅也は、給水塔の壁がお気に召したのかしゃがみ込むと背中を預けて寝る体勢に入ってしまった。

「いやいや寝るなよ。あのさ、俺って学校一の不良とか言われてるんだけど」
「へぇ~そうなんだ」
「バイトしてるから昼間は眠いんだよねー」
「大変だね」
「ほ、他のところの方がいいんじゃないのか? 」
「んーここでいいよ。」

怖がるわけでもなく話を聞きたいわけでも無く。もはや迷惑そうですらある。
膝を抱えた雅也は眠たそうだ。

「あんた変わってるって言われないか」
「…言われないよ。」
 
うとうとしつつ一応律儀に返してくれる。

(どういう状況だよ??? )

いつも無駄に怖がられることが多い勝利としては、雅也の反応は予想外すぎた。
いろいろな意味で会話に困る。

(ものすごくマイペースなんだな…知らなかった)

いつも穏やかで上品そうな雅也。屋上で一人惰眠を貪るようなタイプには見えない。
放っておけばいいのだが何故か気になる。勝利はもぞもぞと膝を抱える。もう一つだけ聞きたいことがあった。

意を決して口を開く。

「あのさ、…もしかして、あんたもおかしなものが見えるタイプ? 」

 唇を尖らせて言う。 
 少しだけ顔を上げた雅也が瞬く。
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