召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸

文字の大きさ
1 / 13

プロローグ ─勇者の召喚─

しおりを挟む


 王都の中心、王宮の大広間の特設祭壇。


 この国の聖女ミリア・アステールは、その身を清め、魔法陣を前に跪いていた。


 魔王の勢力が強まりつつある現状、魔境から溢れる瘴気は森を毒々しい紫色に染め上げている。その強大な魔力の影響は王都にまで及びはじめていた。
 それを打開すべく立ち上がったのが聖女ミリアだった。

「皆さま、どうかご安心下さい。私が、古の聖女に伝わる秘術を用い、魔王を打ち倒す力を持つ『勇者』をこの王宮へ召喚します」

 聖女ミリアがそう宣言し、王宮の大広間に巨大な魔法陣を描き始めた。その姿は、静謐で神々しい聖女そのもの。誰もが彼女はこの国の希望だと涙ながらに感謝した。

 王家は「魔王を討伐する力を持つ勇者となる者を王都へ召喚する」という厳かなお触れを出していた。
 国民の誰もが、その勇者が誰なのか、自分かもしれない、と固唾を飲んで見守っている。 

 ミリアが祈り始めてすでに丸一日が経過していた。


「ああ……ミリア様の美しきこと」

 宰相は、恍惚とした表情でミリアを見つめた。隣に立つ騎士団長も深く頷く。

「この世の神々しさを形にしたお姿だ。透き通る雪のような肌に、アメジストの瞳。滑らかなプラチナブロンドの髪……我らがミリア様こそ、この世界で最も愛でられるべき『美』そのものだ」

 ミリアは、豪華な祭祀服をまといながらも、長時間にわたる魔力集中と祈りで、額に汗を滲ませていた。その柔らかな肢体が、疲労でわずかに揺らぐ。居並ぶ人々は、その一挙手一投足に息をのんだ。

 ミリアはただひたすらに、魔王討伐という大義名分のもと、最高の成果を出すことに集中していた。何度も召喚できるような力は残されていない。今回の召喚が、唯一にして最後の一回になるだろう。

 祈祷は頂点に達し、ミリアの全魔力が解放された。
それまで淡く輝いていた魔法陣が、視界を焼き尽くすほどの強烈な光を放ち始めた。

「来るわ……」

 ミリアは目を見開き、その光の先に現れるただ一人の影を待った。

 閃光が収束し、大広間の中心に、一人の男が立ち尽くしていた。
 そこに現れた男の姿は、周囲の全ての者にとって、異様で、醜悪で、そして恐ろしいものだった。男は周囲を見渡す。

「ここは王城か?」
 
 男はミリアに目を向け、次に周囲の人々を冷徹な視線で滑らせ、足元の魔法陣を見た。

「ふむ。俺は辺境伯のゼインだ。これは、王家から通達が来ていた、魔王を倒すために勇者を呼び出すという『勇者の器』ってやつか」

 彼の視線が広間を滑るたびに、周囲の貴族たちは、まるで蛇に睨まれた蛙のようにビクッと震え、顔を青ざめさせた。

「ひぃっ!  な、なんだあの恐ろしい顔は! 見ていられないほどの酷さだ!」
「あの、凹凸の激しい顔……まるで化物ではないか!」
「こんな化物みたいな男に頼らなければならないとは……この国はもう終わりではないか!」

 男たちの蔑みの声。女性たちは恐怖のあまり、その場にへたり込んでいる。その中で、ミリアだけはゼインから目を離さなかった。

 ミリアは瞳を潤ませ、肩を震わせていた。

「あぁ、ミリア様が、彼の恐ろしすぎる容貌に、美しき聖女様までもが怯えていらっしゃる」
「無理もない。あの獣のような顔立ち。普通の人間なら卒倒する」

 ゼインは、瞳を潤ませ肩を震わせる目の前の女に目を向けた。

「お前がこの国の聖女ミリアか。魔王討伐の件、協力してやる。だが、面倒ごとはごめんだ。さっさと話を進めろ」

 ゼインが苛立ちを隠さずに腕を組み、冷たい声でそう言い放つ。ミリアは、ふらふらとゼインに近づいた。彼女は涙を拭いもせず、ゼインの目を真正面から見つめ、一歩、さらに彼の元へ近づいた。

「ゼイン様。お越しいただき、心より感謝申し上げます。どうか、お力を貸してくださいませ。貴方様のその強靭なお力と、気高きお姿が、このわた……いえ、この国を救う鍵となるでしょう」

 ゼインは、ミリアの気丈さに不快感を示した。
(この女、 なぜ俺の顔を直視できる?)

 聞こえてくる周囲の反応には慣れていた。否、慣れるしかなかった。幼少の頃より、その「醜悪な容貌」ゆえに人々から忌み嫌われ、恐れられてきた。男は蔑みの目で、女は失神寸前の恐怖の目で、彼を見てきた。彼の人生で、自分の容姿を前にして、これほど真っ直ぐな、誠実さに満ちた視線を向けられたのは初めてだった。

 ゼインは、面白そうに、冷たい笑みをわずかに浮かべた。その表情の変化に、周囲の人々は「ああ、醜悪な化物の嘲笑だ!」とさらに怯え、恐怖に震え上がった。 
 そんな中、目の前の聖女ミリアもふるふると震えだし、今にも叫びそうになったのであろう口を両手で抑えている。

 ゼインは、もっと脅してやろうと、一歩ミリアに近づき、その白い頬に指を触れた。

「そんな汚らわしい手でミリア様に触れるな!」と周囲から怒号が上がる。

 聖女はぴくりと反応したかと思うと、次の瞬間

「はぁぁぁんっっっ!!!」

 と、何とも言いようのない悶絶の声を上げ、糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。

「ミ、ミリア様が倒れられた!」
「ああ、やはりあの異形の男の容貌と威圧感に耐えきれなかったのだ!」
「恐怖のあまり、聖女様まで卒倒なさった!」

 周囲の人々はパニックに陥った。


 ミリアは、召喚の疲労と、目の前で起きた事態への感情で、静かに夢の中へと落ちていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界推し生活のすすめ

八尋
恋愛
 現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。  この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。  身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。  異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。​​​​​​​​​​​​​​​​ 完結済み、定期的にアップしていく予定です。 完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。 作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。 誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。 なろうにもアップ予定です。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【完結】異世界で勇者になりましたが引きこもります

樹結理(きゆり)
恋愛
突然異世界に召還された平々凡々な女子大生。 勇者になれと言われましたが、嫌なので引きこもらせていただきます。 平凡な女子大生で毎日無気力に過ごしていたけど、バイトの帰り道に突然異世界に召還されちゃった!召還された世界は魔法にドラゴンに、漫画やアニメの世界じゃあるまいし! 影のあるイケメンに助けられ、もふもふ銀狼は超絶イケメンで甘々だし、イケメン王子たちにはからかわれるし。 色んなイケメンに囲まれながら頑張って魔法覚えて戦う、無気力女子大生の成長記録。守りたい大事な人たちが出来るまでのお話。 前半恋愛面少なめです。後半糖度高めになっていきます。 ※この作品は小説家になろうで完結済みです

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

鳥花風星
恋愛
聖女の力を酷使しすぎるせいで会議に寝坊でいつも遅れてしまう聖女エリシアは、貴族たちの間から「ぐうたら聖女」と呼ばれていた。 そんなエリシアを毎朝護衛騎士のゼインは優しく、だが微妙な距離感で起こしてくれる。今までは護衛騎士として適切な距離を保ってくれていたのに、なぜか最近やたらと距離が近く、まるでエリシアをからかっているかのようなゼインに、エリシアの心は揺れ動いて仕方がない。 そんなある日、エリシアはゼインに縁談が来ていること、ゼインが頑なにそれを拒否していることを知る。貴族たちに、ゼインが縁談を断るのは聖女の護衛騎士をしているからだと言われ、ゼインを解放してやれと言われてしまう。 ゼインに幸せになってほしいと願うエリシアは、ゼインを護衛騎士から解任しようとするが……。 「俺を手放そうとするなんて二度と思わせませんよ」 聖女への思いが激重すぎる護衛騎士と、そんな護衛騎士を本当はずっと好きだった聖女の、じれじれ両片思いのラブストーリー。

【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶
恋愛
なんちゃって聖女認定試験で、まさかの「勇者認定」を受けてしまったリン。 実は戦う気ゼロ、しかも金なし・仲間なしの超ポンコツ。 そんな彼女に下されたのは、魔王復活の危機を理由に街の外へ放り出されるという無茶な命令! 途方に暮れながら魔王城のあるダンジョンを目指すも、道中で遭難。 絶体絶命のピンチを救ってくれたのは――なんと、あの魔王だった!? 帰る場所もなく、頼み込んで魔王城に居候することになったリン。 戦えない勇者(?)と、戦いを嫌うツンデレ魔王。 この不器用で奇妙な共同生活が、今、始まる――!

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

処理中です...