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2 未来の旦那さまにご挨拶
しおりを挟む目を覚ますと、そこは自分の寝室の天蓋付きのベッドの上だった。微かに残る熱と、興奮の余韻。
まどろみから目を覚ましたミリアは、ハッとして起き上がった。
(えっ、召喚はどうなったの!?)
すると、ミリア専属の侍女ルナが、涙目で駆け寄ってきた。
「ミリア様! お目覚めになりましたか! 良かったです……」と、心底嬉しそうにしている。
「ねぇルナ、召喚はどうなったの?」
ルナは一瞬、寂しげな表情になったが、すぐに頷いた。
「無事に勇者様が召喚されました」
その言葉に、ミリアはホッと胸を撫で下ろす。
(良かったぁ! 夢じゃなかったのね。あの超絶イケメンはここにいるのね)
しかし、ルナの表情はすぐに陰鬱なものになった。
「ですが、その、あの男……。ミリア様が召喚の儀を終え倒れられたあと、あ、あの男がミリア様を……」
「え? どうしたの?」
ミリアが先を促すと、ルナは言葉を選びながら、いまいましげに話し始めた。
「倒れたミリア様を、あの男が抱き上げたのです。皆がミリア様に触れるなと止めに入ったのですが、あの男は『俺が原因のようだ。俺が運ぶ』と、臆することなく。そのままミリア様を抱きかかえて、ここまで運んだのです。わ、私も止めようとしましたが、恐ろしくて何もできずに……本当に、申し訳ございません……」
ルナはそう言って、深く頭を下げた。その話を聞いたミリアは、ベッドに倒れこみ震え始める。それを見たルナが顔を青ざめさせた。
「恐ろしい事ですよね! ミリア様にあんな醜悪な男が触れるなんて、申し訳ございません。あの野蛮な容貌の男が、ミリア様の純粋なお体に……」
ルナは自分の非を責め続け、懺悔するように謝り続けている。だが、ミリアはルナの心配とは全く違う理由で震えていた。
(何よそれ!? なんでそんな、イケメンに抱っこされる胸キュンシチュエーションで、私は倒れてたわけ!? あの、筋肉のついた腕に抱かれたなんて、なんで覚えてないのよ私の脳みそー!! 私の至福の記憶を返して! なんでブッ倒れたのよ私のばかぁ!)
あまりの悔しさに、ミリアは身もだえする。
「そ、それなら、わたくしは助けてもらったお礼を言いに行かねばなりませんね」
ミリアはゆっくりと立ち上がった。顔には、先ほどまでの悔しさなど微塵も感じさせない、聖女らしい穏やかな表情を張り付けている。
「おやめください、ミリア様! 危険ですわ! あの醜悪な顔を見るだけでも恐ろしいというのに!」
ルナはすがりついて止めようとするが、ミリアはそれを優しく振り払った。
「彼は今、どこにいるの? 教えて」
ミリアは有無を言わせぬ聖女の威厳を纏い、ゼインの居場所を聞き出した。廊下を進めば、多くの王宮の人物にすれ違うたび、「あの男には近づかれないほうが……」「ミリア様はまだ休まれるべきだ」と止められたが、ミリアは一切耳を貸さない。
「行かねばなりません。国を救ってくださる勇者様に、一刻も早く感謝の意を伝えるのが、聖女の務めですから」
(止められるわけないでしょ! 私の旦那さま候補に挨拶に行くのよ!)
ミリアは気品溢れる言葉を返し、早足でゼインに割り当てられた部屋へと向かった。彼の部屋の扉をノックする。
「入れ」
中から聞こえた低い声に、ミリアの胸が高鳴った。部屋に入ると、ゼインはベッドの端に座り、無骨な剣を取り出して手入れをしているところだった。研ぎ澄まされた刃をクールな表情で見つめる姿が、また様になっていてかっこいい。
(うわぁ! 無駄のない仕草。プロだわ。 そして、この部屋にかすかに漂う彼の匂い……ときめくわぁ)
彼は顔を上げ、ミリアが来たことにわずかに驚いたような表情を見せた。
「ゼイン様。倒れたわたくしを部屋まで運んでいただいたと伺いました。心よりお礼申し上げます」
ミリアは最大限の聖女スマイルで、深々とお辞儀をした。ゼインは剣を鞘に戻すと、ミリアを冷徹な瞳で見据えた。
「礼はいい。それよりも、そんな軟弱な身体で魔王討伐に行けるのか?」
挑発的なその言葉に、ミリアの闘志が燃え上がる。
「えぇ、今すぐにでもいけますわ」と、力強く返す。
(あなたとならばどこまでも行けそう。魔王なんて、ゼイン様との仲を深めつつ、ついでに倒してあげるわ!)
ふっと、ゼインが口の端を上げて笑った。クールな表情が一瞬崩れ、ニヒルに笑う。
(くうぅぅ、その表情も素敵!)
ミリアの背後のドアから覗いていた従者や侍女たちは、その「醜悪な化物の笑み」を見た途端悲鳴を上げ、何人かが卒倒した。
ゼインは倒れた人間には目もくれず、腕を組み直した。
「そうか。ならば、明日にでも出立したい。俺も領地はそんなに空けてはおけん。行けるか?」
「行けますわ!」
ミリアは即答した。
(やった、明日出発決定! 今すぐ部屋に帰って魔王討伐の準備をしなくては!)
ミリアの顔は聖女として凛々しく、その瞳はイケメンへの愛と、旅への歓喜で爛々と輝いていた。
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