召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸

文字の大きさ
10 / 13

9 王都への召喚(ゼインside)

しおりを挟む



 ──まったく、くだらん。


 王都から届いた封書を開いた瞬間、俺は呆れた。

 王家は「魔王を討伐する力を持つ勇者となる者を、王都へ召喚する」とのお触れを発した。
 その話は国中に広まり、誰もが固唾を飲んで見守っているという。

 勇者が誰なのか。
 もしかしたら自分かもしれない、と浮き足立つ者もいるらしい。

「……馬鹿げているな」

 書簡を手に、俺は深いため息をついた。

「ゼイン様、また難しい顔を……」

 侍従のアルフが控えめに近づく。アルフは小柄で平坦な愛嬌のある顔立ちで、女性にモテるタイプだ。俺と違って。

「王家は、また面倒事を押しつけてきたのですか?」
「面倒どころか……」

 俺は書簡を机に叩きつける。

「魔王討伐を“勇者召喚”に頼るとはな。自分たちでどうにかできんのか。そんな力も知恵もないのか」

 アルフが苦笑した。

「まあ……魔王軍の勢力は日増しに強まっておりますから。藁にもすがりたいのでしょう」
「藁にもすがるなら、まず自分たちの腰を上げるべきだ」

 そんな話をしていると、突然部屋の空気が震えた。

 光が差し込んだわけではない。“降ってきた”のだ。天井も壁も関係なく、圧倒的な光が俺を包む。

「っ……ゼイン様!? 魔力反応です、これは……!」

 アルフの声がかすれる。

(まさか……)

 胸の奥に嫌な予感が走る。書簡に書かれていた文面。
 “勇者となる者を召喚する”。まさか、とは思ったが。


「おい、待て。まさか俺が──」

 言い終わる前に光は俺の足元へと収束し、魔法陣を描きながら体を絡め取った。アルフの顔を目の端に捉えた。

「……アルフ、しばらく公務は任せる。俺が戻るまで、頼むぞ」

 そう言い残すと、光に包まれる感覚が強まり、意識が逆巻く。

(……ありえん。よりによって何故“俺”なのだ。こんなにも忌み嫌われる、“醜い男”を? 王家も神も、何を間違えた?)

 疑念と皮肉を抱えたまま、俺は光に飲み込まれ、王城の大広間へと引きずり出された。



 まぶしい光の中で視界が徐々に落ち着くと、目の前には聖女と思わしき人物──この国の希望と称される女がいた。
 静まり返る大広間。そして、次の瞬間、ざわめきが恐怖に変わる。

 ……なるほど。

 周囲の男たちは、魔法陣から現れた俺を見て、心底恐ろしそうに顔を歪め、目を逸らした。
 女性陣に至っては、恐怖に耐えかねて数名が卒倒した。だが、ただ一人だけ。俺を召喚したと思われる女だけは、俺を真っ直ぐに見つめていた。

 その視線は恐怖ではなく、何故か熱と期待に満ちているように見えた。人々が悲鳴を漏らす中、俺から目を逸らさず、むしろ吸い寄せられるように見つめている。

 美しい女だった。
 金糸の髪、白磁の肌、繊細な骨格。この国では完璧な美と称される聖女──名はミリアだったはず。

「ふむ。俺は辺境伯のゼインだ。これは、王家から通達が来ていた、魔王を倒すために勇者を呼び出すという『勇者の器』ってやつか」

 周囲の反応に慣れている俺は、苛立ちを隠さずに腕を組み、冷たい声でそう言い放つ。

 俺は幼い頃から、人々から向けられる視線は、ほとんどが冷たく、恐怖や嫌悪、全てが拒絶に満ちていた。
 その経験から、俺は自ら望んだわけではないが、周囲の視線や感情の機微を察知することに長けてしまった。

 だが、何だ? この女の熱っぽい眼差しは。頬が赤い? 瞳が潤んでいる?
 普通、この世界の女は、俺の顔を直視しただけで青ざめる。時には倒れるほどだ。鼻筋が高く、目鼻立ちも奇妙なバランスで配置されてしまった俺は“異形”とされ、婚姻市場では最下層だ。いや、その層にも入れてはいない。

 なのに。

「ゼイン様。わたくしはこの国の聖女ミリアと申します。お越しいただき、心より感謝申し上げます……」

 ミリアの声は震えていた。目には涙が浮かぶ。だが、その震えは恐怖ではないように思える。
 俺は思わず眉をひそめた。

(……本気で言っているのか?)

 周りの貴族どもは俺を見て怯え、「聖女様まで震えておられる!」と騒いでいる。
 だが当の聖女の目は、真っ直ぐに俺を見ていた。熱い。溶けそうなほどの視線だった。

(この女は、他の連中とは違う。さすがは聖女と呼ばれるだけのことはあるな。俺の醜貌を前にしても、恐怖を理性でねじ伏せているのか。その心意気は褒めてやろう──)

 だが、その異常なまでの熱意が、どうにも気に食わない。

(少し脅して、その仮面を剥がしてやるか)

 ゼインは冷たい笑みを浮かべ、ミリアに近づいた。俺がミリアに一歩一歩近づくたび、彼女は息をのむ。

 そして、その美しい頬に触れた瞬間──

「はぁぁぁんっっっ!!」

 彼女からとんでもない声が出て、俺は思わず手を離した。

(……は?)

 周囲は大混乱だ。

「ミリア様が倒れられた!」
「ああ、あの男の容貌に耐えられなかったのだ!」

 ──そうなのか?

 俺には、彼女が倒れた理由が“恐怖”ではないように見えた。
 俺の触れた頬は、熱いほどに紅潮していた。倒れる瞬間の表情は……陶然としていたように見えた。

(まさか、俺みたいな“醜い男”を、怖がっていないのか?)

 そんな馬鹿な、と自嘲しながらも、胸の奥に小さな違和感が残った。だが、倒れたというとは俺が原因だろう。
 周囲が大騒ぎする中、俺は無言で歩み寄った。倒れた彼女をそっと抱き上げ、軽く腕で支える。

「俺が原因のようだ。俺が運ぶ」

 周囲の貴族たちは目を剥き、口々に制止を試みる。

「ミリア様に触れるな!」
「聖女様にそのような醜い手を──」

 そんな静止など構う事なく、視線だけで止めろと示し、「聖女の自室はどこだ?」と冷たく訊く。

 従者や侍女たちは半ば恐怖で目を丸くしていた。唯一、ミリアの侍女と思わしき人物が、自分が案内すると言い出し共に歩き出すと、耳に届いたのは貴族たちの声だ。

「ミリア様は丸一日もかけて召喚に挑まれたのに、あんな醜悪な男に触れさせるなんて……!」

 周囲から憤慨する声が聞こえる。俺は驚きを抑えた。そんな極限状態の中で、この女は気丈に振る舞っていたのか。

 抱き上げたミリアの顔を見下ろす。額に柔らかく光が差し込み、整った顔、淡い紅に染まった頬。

 ──美しい。

 ただそれだけが、俺の率直な感想だった。




 翌日。彼女が俺の部屋に現れた。

 扉をノックするかすかな音。
 低い声で「入れ」と応えると、そこに現れたのはミリアだった。彼女は静かに部屋に入ってきた。

 ベッドの端で剣の手入れをしていた俺の視線が、自然と彼女に向く。いつも通り、冷徹な瞳で。

「ゼイン様。倒れたわたくしを部屋まで運んでいただいたと伺いました。心よりお礼申し上げます」

 彼女は深く頭を下げ、礼を述べる。声は穏やかだが、芯の強さがにじみ出ていた。目を逸らすことなく、しっかりと俺を見ている。

(……やはり、目をしっかり合わせて話ができる女なのか)

 内心、驚きと少しの興味を覚えながらも、俺は剣を鞘に戻し腕を組む。

「礼はいい。それより、そんな軟弱な身体で魔王討伐に行けるのか?」

 挑発的に告げると、ミリアは一瞬も怯まず、力強く答えた。

「えぇ、今すぐにでも行けますわ」

 その声、揺るがぬ瞳。立ち姿も容姿も、全てが美しく圧倒的だ。

(……面白い女だ)

 思わず口元が緩んだ。ミリアの背後のドアから覗いていた従者や侍女たちは、俺の「醜悪な化物の笑み」を見た途端悲鳴を上げ、何人かが卒倒したようだ。

 そんな中真っ直ぐに俺を見つめる彼女を、無言で見つめる。
 召喚されたことに煩わしさを感じていた。長期間、辺境を空けることへの懸念も当然あった。

 だが、俺はこの時思った──


 この聖女となら、魔王討伐も面白いのかもしれない、と。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界推し生活のすすめ

八尋
恋愛
 現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。  この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。  身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。  異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。​​​​​​​​​​​​​​​​ 完結済み、定期的にアップしていく予定です。 完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。 作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。 誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。 なろうにもアップ予定です。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【完結】異世界で勇者になりましたが引きこもります

樹結理(きゆり)
恋愛
突然異世界に召還された平々凡々な女子大生。 勇者になれと言われましたが、嫌なので引きこもらせていただきます。 平凡な女子大生で毎日無気力に過ごしていたけど、バイトの帰り道に突然異世界に召還されちゃった!召還された世界は魔法にドラゴンに、漫画やアニメの世界じゃあるまいし! 影のあるイケメンに助けられ、もふもふ銀狼は超絶イケメンで甘々だし、イケメン王子たちにはからかわれるし。 色んなイケメンに囲まれながら頑張って魔法覚えて戦う、無気力女子大生の成長記録。守りたい大事な人たちが出来るまでのお話。 前半恋愛面少なめです。後半糖度高めになっていきます。 ※この作品は小説家になろうで完結済みです

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

鳥花風星
恋愛
聖女の力を酷使しすぎるせいで会議に寝坊でいつも遅れてしまう聖女エリシアは、貴族たちの間から「ぐうたら聖女」と呼ばれていた。 そんなエリシアを毎朝護衛騎士のゼインは優しく、だが微妙な距離感で起こしてくれる。今までは護衛騎士として適切な距離を保ってくれていたのに、なぜか最近やたらと距離が近く、まるでエリシアをからかっているかのようなゼインに、エリシアの心は揺れ動いて仕方がない。 そんなある日、エリシアはゼインに縁談が来ていること、ゼインが頑なにそれを拒否していることを知る。貴族たちに、ゼインが縁談を断るのは聖女の護衛騎士をしているからだと言われ、ゼインを解放してやれと言われてしまう。 ゼインに幸せになってほしいと願うエリシアは、ゼインを護衛騎士から解任しようとするが……。 「俺を手放そうとするなんて二度と思わせませんよ」 聖女への思いが激重すぎる護衛騎士と、そんな護衛騎士を本当はずっと好きだった聖女の、じれじれ両片思いのラブストーリー。

【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶
恋愛
なんちゃって聖女認定試験で、まさかの「勇者認定」を受けてしまったリン。 実は戦う気ゼロ、しかも金なし・仲間なしの超ポンコツ。 そんな彼女に下されたのは、魔王復活の危機を理由に街の外へ放り出されるという無茶な命令! 途方に暮れながら魔王城のあるダンジョンを目指すも、道中で遭難。 絶体絶命のピンチを救ってくれたのは――なんと、あの魔王だった!? 帰る場所もなく、頼み込んで魔王城に居候することになったリン。 戦えない勇者(?)と、戦いを嫌うツンデレ魔王。 この不器用で奇妙な共同生活が、今、始まる――!

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

処理中です...