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6.出発
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早朝、僕はカバンに荷物と、錬金術の本『世界の理』を詰め込んだ。旅支度をすませると足を忍ばせて母上の部屋を訪ねた。
ドアノブを回してみると、動いた。そっとドアを開け、するりと母上の部屋に入り込んでドアを静かに閉めた。
ベッドに近づき、眠っている母上の耳元に話しかける。
「母上、起きて下さい。母上」
「……んんぅ? ……!! メルヴィン!?」
母上はハッとした顔できょろきょろと部屋の中を見回し、押し殺したような声で僕に言った。
「どうしたの? こんな時間に、こんな場所で!? ……貴方は部屋にいるよう、お父様に言われていたでしょう? こんなところを見られたら……」
母上は眉間にしわを寄せてドアを見つめている。
「母上、僕は家を出ることにしました。一刻も早く一人前になって、母上を迎えに来ます。それまでお元気でいてください。本当は母上をこの家に残して行きたくはないのですが……」
「メルヴィン? 何を言っているの?」
母上が僕の目を覗き込んだ。心の中を探ろうとしているようだ。
「父上が起きたら大変です。もう僕は家を出ます」
僕は母上に頭を下げると、彼女に背を向けた。
「まちなさい、メルヴィン。せめて、これを持っていきなさい」
母上はベッドから起き上がり、僕の手をつかんだ。そして、僕の手に何かを握らせた。手を開くとそこには二枚の金貨があった。
「母上、これは僕が母上にあげたものではないですか!?」
母上は悲しそうな顔で首を横に振った。
「貴方を止めることができないのなら、せめてお金くらい持っていきなさい」
「でも……このお金があれば母上も楽になるでしょう?」
「そんなことよりも、貴方のことの方が大事なの。……メルヴィン、立派になって戻ってくる日を待っているわ」
「……はい」
母上は僕の額にキスをすると、両手を祈るように組み、その場に立ち続けた。
僕は母上を残し、ドアを静かに開け部屋を出る。
階段をきしませないようにそっと降り、玄関ではなく裏口から家を出た。
まだ辺りは暗い。
闇に紛れて庭を抜け出したが、敷地を出たころには空の端が薄青く明るくなり始めていた。
「まずは街に行かないと……」
僕は街に向かう街道の端をゆっくりと歩き出した。
***
「もう一時間くらい歩いたかな? 今どのあたりなんだろう?」
僕は街に向かう道をただただ歩いていた。
時々走り抜ける馬車を見てはため息をつく。
「馬車に乗れれば楽なんだけどなあ」
走っていく馬車をうらやましく思いながら見つめている僕は、きっと情けない顔をしているんだろう。
ドアノブを回してみると、動いた。そっとドアを開け、するりと母上の部屋に入り込んでドアを静かに閉めた。
ベッドに近づき、眠っている母上の耳元に話しかける。
「母上、起きて下さい。母上」
「……んんぅ? ……!! メルヴィン!?」
母上はハッとした顔できょろきょろと部屋の中を見回し、押し殺したような声で僕に言った。
「どうしたの? こんな時間に、こんな場所で!? ……貴方は部屋にいるよう、お父様に言われていたでしょう? こんなところを見られたら……」
母上は眉間にしわを寄せてドアを見つめている。
「母上、僕は家を出ることにしました。一刻も早く一人前になって、母上を迎えに来ます。それまでお元気でいてください。本当は母上をこの家に残して行きたくはないのですが……」
「メルヴィン? 何を言っているの?」
母上が僕の目を覗き込んだ。心の中を探ろうとしているようだ。
「父上が起きたら大変です。もう僕は家を出ます」
僕は母上に頭を下げると、彼女に背を向けた。
「まちなさい、メルヴィン。せめて、これを持っていきなさい」
母上はベッドから起き上がり、僕の手をつかんだ。そして、僕の手に何かを握らせた。手を開くとそこには二枚の金貨があった。
「母上、これは僕が母上にあげたものではないですか!?」
母上は悲しそうな顔で首を横に振った。
「貴方を止めることができないのなら、せめてお金くらい持っていきなさい」
「でも……このお金があれば母上も楽になるでしょう?」
「そんなことよりも、貴方のことの方が大事なの。……メルヴィン、立派になって戻ってくる日を待っているわ」
「……はい」
母上は僕の額にキスをすると、両手を祈るように組み、その場に立ち続けた。
僕は母上を残し、ドアを静かに開け部屋を出る。
階段をきしませないようにそっと降り、玄関ではなく裏口から家を出た。
まだ辺りは暗い。
闇に紛れて庭を抜け出したが、敷地を出たころには空の端が薄青く明るくなり始めていた。
「まずは街に行かないと……」
僕は街に向かう街道の端をゆっくりと歩き出した。
***
「もう一時間くらい歩いたかな? 今どのあたりなんだろう?」
僕は街に向かう道をただただ歩いていた。
時々走り抜ける馬車を見てはため息をつく。
「馬車に乗れれば楽なんだけどなあ」
走っていく馬車をうらやましく思いながら見つめている僕は、きっと情けない顔をしているんだろう。
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