【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵

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バンス子爵家に引き取られた私は、久し振りに叔母様と従兄弟のカイルとランスに会った。

「エリミヤ。あぁ可哀想に…こんなにやつれて手も肌もボロボロになってしまって…」

叔母様は、私を抱き締めて泣いていた。

「本当は、もっと早く訪ねて行きたかったのだが、義姉上からエリミヤの誕生日と言われていたんだ。ハリスに聞けば、君は母親を亡くしたショックから塞ぎ込み部屋から出ないと聞いて励ましに会いに訪ねたいと言っても断られていてね。今日も言えば断わられると分かっていたから先触れも出さずに行ったのさ。モーリス家の使用人は、義姉から話を聞いていたから止める事もなく君に会わせてくれた。」

殆んど屋敷に帰らないお父様よりもお母様を慕っていた使用人達。

執務もお父様の代わりにお母様が行っていた。
数年前に領地の農作物が不作に見舞われた上に、事業が不振に陥り、バンス子爵家が支援を申し出てくれた。
その時の借金は、まだ返済されていない。

その後も事業の方には援助金を出していたが、やっと上向きになり始めた時に、お母様が流行り病に掛かってしまった。
今は、お父様が執務をしているが、当然の様に、また下向きになったとか…。
そしてバンス子爵家からの援助金の打ち切り。
このままではモーリス伯爵家は没落するだろう。
約束の期日までに借金も返済されないと領地での支払い。
そうなれば完全に没落する。

「それでだ、エリミヤ。君の婚約者にランスはどうかな?」

モーリス伯爵家の事を考えていたら、突然叔父様にランスとの婚約を打診された。

「えっ!?ランスと私がですか?」

「カイルは、バンス子爵家の跡取りだし、もう婚約者も居るからね。ランスは、まだ婚約者は決めていない。ランスは、カイルと共に当主としての経営学も学んでいるし、1年あれば伯爵家の当主補佐としての執務も大丈夫だ。」

伯爵家の?
私は伯爵家を追い出された身。
次期当主はアンナがなるのだろう。

「モーリス伯爵家の次期当主はエリミヤだよ。あの女の娘じゃない。明日から、エリミヤとランスには、ダイル伯爵家に行って学んで貰うから、そのつもりでいてね。」

叔父様は、お父様に頼んで元々ランスと私を婚約させるつもりだったらしい。
私が、モーリス伯爵家に残ると言っても、お父様では執務を私に教える事は不可能とダイル伯爵に頼んでいたとの事。

お父様よりもモーリス伯爵家の事を考えてくれていた。

叔父様の言った通り、半年もするとモーリス伯爵家は没落寸前になってしまった。

使用人達にも給料が支払えない様だ。

叔父様と私とランスは、モーリス伯爵家を訪ねていた。

「やあ、ハリス。元気…じゃなさそうだ。おや、そういえば君の新しい奥方とご令嬢の姿が見えないね?」

「……私にざまぁみろと嫌味を言いに来たのか?あの2人なら、私に見切りを付けて出ていったよ。新しいパトロンを見付けたそうだ。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったもんだなっ。去り際にマリアナからアンナは私の子ではないと言われたよ。すっかり私は騙された。こうなったのも自業自得だな。リーシャを…彼女を不幸にした罰が下ったのさ…」

お父様は、すっかりやつれて叔父様と同い年にはとても見えない。

「義姉上の手紙を読んだんだな。やっと大馬鹿者な事に気付いたか?お前達は想い合っていたのに。……ハリス。エリミヤに当主の座を譲れ。そうすればバンス子爵家はモーリス伯爵家を助ける。お前には領地で暮らして貰うが、義姉上の墓も有る。ゆっくり余生を向こうで暮らせ。」

お父様は、目を見開き驚いたが、私の顔を見詰め「エリミヤ。モーリス伯爵家を頼んでも良いのか?お前に大変な思いをさせてしまうが、私はリーシャの思い出と共に暮らして良いか?エリミヤ、本当にすまなかった。こんな駄目な父で申し訳なかった。私はリーシャとお前を心から愛していたのに…愚かな父ですまない…」と泣いていた。

お父様を許す事は簡単ではない。
今まで父親らしい事などして貰った事もない。

お母様は、お父様と結婚して幸せだったと言っていた。
屋敷にも帰って来ないのに?
他に好きな人がいるのに?
それでもお母様は、お父様が好きだと言っていた。

お父様もお母様が大好きなのだと叔父様が教えてくれた。
あの2人は、すれ違ってしまっただけなのだと。
愛し合っているのに、言葉に出来ずに、素直になれずに、すれ違ってしまったのだと…。

今は、まだお父様を許す事は出来ない。
でも、いつか許す事が出来たのなら、ランスと共にお母様の墓参りをしながら会いに行っても良いかも知れない。

「ランス。私達は伝えたい事は、良い事でも悪い事でも口に出して言っていこうね!」

「そうだなっ。愛し合っているのに口に出さずにすれ違うなんて悲しすぎる。俺達は、何でも話をしよう。愛してるよ、エリミヤ。」

「ラ、ランス。な、何を急に。」

「ちゃんと口に出して言わないとなっ。エリミヤは?」

「わ、私も、す、好きよ。」

赤面する私に「良く出来ました!」と言ってランスは、頬に口付けをした。



End


*****

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