【完結】傷心(?)旅行で出逢ったのは…。

山葵

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「いくら政略結婚だとしても酷いじゃない!?と正直思ったわよ。だって私は婚約者の顔も知らないのよっ!せめて顔合わせぐらいしてから出発しても良いでしょう?まあ大方、親の決めた政略結婚に反発しての行動よ、間違いないわっ!ねぇーちゃんと聞いてるのっ?」

「聞いてる、聞いてるよぉー。…全くえらい女と関わってしまったなぁー。同国の者が狙われているから助けてやったのに…可愛い顔して、こんなに酒癖が悪いとは…隙だらけで放って置けないし…けど顔が俺のもろタイプなんだよなぁー…」

「何をブツブツ言ってるのよっ!貴方も呑みなさいよぉー!店主、おかわり2つ持ってきてぇー!!」

男の制止を聞き入れず、私はエールを飲み干す。

***

今から3年前に私は家同士の関係でバントム伯爵家のラウル様と婚約した。

しかぁーし、婚約する為の家族顔合わせの場に、私の婚約者になるはずの当のラウル様が居ない。

バントム伯爵によると、留学先の手続きに不備があり、予定より早く出国しなければならなくなったと言う。

婚約には何の問題ないからと、ラウル様抜きでの両家顔合わせが行われ、私とラウル様は婚約した。

留学期間は3年間。
ラウル様が帰国すれば、1年後には結婚する予定だった。

けれど無事に卒業式が終わったはずのラウル様が1ヶ月を過ぎても帰国しない。

何かあったのかと心配している所にバントム伯爵宛に1通の手紙が届いた。

『無事に学園を卒業した事を報告致します。このまま勉強を兼ねて各国の商会を見て回わり帰国したいと考えております。事前に相談もせず勝手をし申し訳御座いません。父上の御叱りは、帰国してから受けますので、どうか今暫く私の我が儘をお許し下さいます様、よろしくお願い致します』

婚約者の私にも、コナー伯爵家にも謝罪の手紙は届かなかった。

激怒したお父様は、私とラウル様の婚約を白紙に戻した。
バントム伯爵も了承し、白紙の場合は、発生しない慰謝料を私とコナー家に払ってくれた。

そのお金で私は傷心旅行という名の旅に出る事にしたのだ。

***

「ハッキリ言って傷心などしていないわよ。
だって相手の顔も知らないのよ。
どんな性格で、どんな声で、どんな…はぁー。
ああ、もう、ただ、ただ腹が立つのよ!
女性の10代の3年間は、とても貴重なの。
その大事な3年間を顔も知らない婚約者に無駄にされて、今から婚約者探しを始めろと?もう優良物件は売り切れて要るわよっ!!私の3年間を返せぇー!!」と、誰かに当たり散らしていた様な気がする…。

目が覚めて1番にそう思った。

んっ?ここは…そうか、ベルシアナ国に来ていたんだった。

ベッドから起き上がろうとして気が付いた。

あれ?何で裸なの?

「あっ、起きた?身体は大丈夫?」

浴室から見知らぬ男がシャワーを浴びて出てきた。

頭がガンガンして考えが回らない。

昨日、スリに合いそうになって、確か助けてくれた人。
お礼をしたいと言ったら、食事を一緒にと誘われて…街の食堂に行ったんだ。
それから、食事をしながらエールを呑んで、話しているうちに意気投合して、傷心旅行なのだと話をしたっけ。

彼も、親の決めた婚約者が居るが、政略結婚が嫌で旅をしていると話していたから、その婚約者が自分と重なって、彼にお説教をしたのだ。

う~ん、そこまでは覚えている。
けれど、そこから後の記憶がない。

どうして彼は私の部屋に居るのだろう?
なぜ私は裸でベッドに寝ているのだろう?

「アリア、大丈夫か?」

「…名前」

「君が教えてくれたんだよ、アリア・コナーだと。もしかして昨日の記憶がない?まったく君は飲み過ぎだよ。これからはお酒は禁止だからね。どうしても飲みたくなったら、僕の前だけなら許すよ」

何で知り合ったばかりの名も知らぬ男に禁酒命令をされないと行けないのだ。

酔った勢いで身体の関係を持ってしまった様だが、別に責任を取って貰おうなんて思っていない。

酔って覚えていないが、きっと私も同意したのだろう。

「貴方に責任を取って貰おうなんて思っていないから。悪いんだけれど、着替えたら帰ってくれる?」

「分かってるよ。僕も1度ホテルに荷物を取りに戻ってくる。昼には戻れるから、君も荷物を纏めて置いて…腰は大丈夫?ああ、二日酔いもかな?長時間の馬車はキツいか…もう1泊して出発は明日にしよう!」

彼の言っている事が理解出来ない。
そもそも話が噛み合っていない。
これは二日酔いのせいだけでは無いわよね?

「貴方は、一体何を言っているの?どうして私が貴方と出掛けないと行けないのよ!」

「僕達が結婚する為にはリビナス国に帰らないといけないからだ」

「だから責任を取る必要は無いとさっき言ったでしょう?大体、名も知らぬ人と一夜を共にしてしまうなんて酔った私も悪いのよ。お願いだから、昨日の事は綺麗さっぱり忘れて帰って頂戴」

「ラウル・バントム」

「私、彼の名前も教えたの?お願い。それも忘れて…」

「僕の名前は、ラウル・バントム。君の婚約者だ」

頭がクラクラして目眩がした。

傷心?旅行の原因と偶然出逢い、一夜を共にしてしまったなんて。

「そ、そう貴方が私の元婚約者なのね。悪いけれど昨日、話したでしょう?ラウル様と私は婚約を白紙に戻したと。ラウル樣は、私の婚約者ではもうないわ」

「君に酷い事をしたと思っている。親の言いなりになるのが嫌だとはいえ、君を蔑ろにしてしまった。すまない。まさか君が僕の婚約者でベルシアナ国に来ているなんて思わなかった。2人が出逢ったのは奇跡、運命だと思うんだ。それに君は僕の子を妊娠しているかも知れない。悪いけれど、もう君を手放すつもりはないよ」

「何て勝手な人なの!?」

そう言ってみたけれど、昨日の私は彼に引かれていた。

いくら恩人とはいえ、初めて会った見知らぬ人と食事に行くなどしない。

彼が言った様に、運命なのだろうか?

それを信じてみるのも悪くないかも知れない。

次の日、私はラウルと共にリビナス国に戻る事にした。

両家の親は、私とラウルが一緒に帰国した事に驚いたが、直ぐに喜び、再度婚約が結ばれた。

残念な事に、あの一夜では子は授からなかった。

まあ結婚前だったから、良かったのかも知れないけれど…。

今日、私はラウルと結婚する。

顔も知らない元婚約者と異国の地で偶然出逢えたのは本当に奇跡なのだろう。

私はラウルの腕に手を回し、神父様の元へ歩みを進めた。


End

最後まで読んで頂き ありがとうございます。

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