【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵

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副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。

目が覚めた時には、私との結婚生活は全て忘れていた。
幼馴染みで以前付き合っていたリターナさんを愛しているのに私と結婚する筈が無いと旦那さまに言われてしまった。


◈◈◈


私シャロンと旦那さまのグランド・ライナブル次期侯爵は、親が決めた政略結婚だ。

グランドは、私と婚約する前に幼馴染みのハムル子爵令嬢リターナさんと付き合っていた。

子爵という家格にライナブル侯爵は、難色を示し婚約を認めなかったと聞く。

そんな中、リターナさんは隣国の旅先で伯爵令息と真実の愛に巡りあったと言って早々に嫁いで行ってしまった。

愛する人に裏切られ傷心している所に、私との婚約をライナブル侯爵は告げた。

私もグランドとリターナ様の事は噂で聞いて知っていたので婚約の話に驚き狼狽えたのを覚えている。

それでも婚約してからはお互いに歩み寄る様にし、夫婦となった今では愛を育んでいると思っていた。
私はグランドを愛していたから、彼も今はリターナさんを忘れ私を愛してくれているのだと…。

けれどそれは私の勘違いで、今でもグランドはリターナさんを愛しているのだと思い知らされた。

私との事は全て忘れて、彼はリターナさんとまだ付き合っていると思っている。
そう2年前まで戻ってしまったのだ。

「はっ!?私がリターナと別れて君と結婚?有り得ない!私は今でもリターナを愛しているのだ。父上の差し金か?君とは愛のない結婚をしたのか?ならば私の看護は使用人に任せる。君は部屋から出て行ってくれ!」

余りにも冷たい言葉に私も使用人も言葉を失くす。

結婚式の日取りが決まった時に「シャロン、君が好きだ。私と結婚して欲しい。必ず幸せにすると誓う」と言ってくれたのに、あの言葉は嘘だったの?

医師より記憶喪失は刺激を与えない様にと言われ、拒絶されている私はグランドに近付けなかった。

そんな時、リターナさんが離縁されハムル子爵家に戻って来たと知らせが入る。

怪我をしたと聞いたリターナさんはグランドの御見舞いに来たいと手紙が届く。

「ああやっぱりリターナも今でも私を愛しているのだ。きっとリターナが結婚したのも政略結婚だったのだろう?離縁されたなんて。リターナはきっと傷付いている。私が慰めてあげなければ」

グランドが返信を出すと、直ぐにリターナさんはやって来た。

私は、2人の姿を見たくなくて街に出た。

夕刻になり、屋敷に戻れば旦那様が呼んでいると執事は告げた。
その顔は、私を哀れむ様で悲しかった。

応接室に入れば、グランドの横にはリターナさんが座り寄り添っている。

「シャロン、君とは離縁する。私は愛するリターナと結婚するよ。君は、リターナが子爵令嬢だから私に相応しくないと父と結託して私を奪い取り、リターナを隣国に嫁がせたらしいね?酷い女だ。即刻、離婚届にサインして出て行ってくれっ!!」

「グランド、私はそんな事はしていないわ。貴方との縁談はお義父様が父に申し入れた事。それに婚約はリターナさんが嫁がれた後に決まったのよ」

「嘘を付くなっ!!リターナは、私と君の婚約が決まり傷心して親の決めた隣国の相手に嫁いだと言っている。さあ、さっさとサインして出て行け!!」

リターナさんの肩を抱き愛おしそうに見つめるグランドを見た時に心は決まった。

私はサインをすると部屋に戻り侍女と一緒に荷造りを始める。

全ての荷物を馬車に積み、私は使用人達に別れを告げると屋敷を後にした。

一度実家であるカイヤ伯爵家に戻り、東の国に嫁いだ元王女ナターシャ様に手紙を書く。

お父様は、憤慨し領地に戻ったライナブル侯爵に手紙を出していたが、私としてはもうどうでも良い。

半月が過ぎた頃に、ナターシャ様から返事が届いた。

私は、家族に東の国で暮らすと告げた。
それを誰にも教えないで欲しいと頼んだ。


東の国に移り住んでから半年が過ぎた。
離縁した私はナターシャ様を頼り、この国で新しい生活を始めた。

「おめでとうございます!元気な男の子ですよ」

顔を赤くして泣く我が子に涙が出た。

「アーロン、産まれて来てくれて、ありがとう」

グランドは忘れてしまっていたけれど、私はあの時妊娠4ヶ月だったのだ。

彼は記憶が戻った時に、自分に子供が居るかも知れないと思うのだろうか?
侯爵家の跡継ぎと探すのだろうか?
アーロンと私を引き離すかもしれない。
何としても私達の居場所は知られてはならない。
ああでも、リターナさんが居れば、私達の事などどうでも良い事だと思うのかな?

元気に育ったアーロンが2歳になる前に私は病気で奥様を失くしたプラム伯爵と再婚した。
私のお腹にはもう直ぐ産まれる彼との子が居る。
彼は、私もアーロンも、とても愛してくれている。
今は、グランドの事も思い出す事もないくらいに、とても幸せに過ごしている。


◈◈◈


シャロンと離縁し、私はリターナと付き合い始めた。

父上は、カイヤ伯爵からの抗議文で慌てて領地からやって来た。

私に激怒していたけれど、私のリターナを思う気持ちを分かってくれたのかシャロンに慰謝料を払うと領地に戻って行った。

なぜ私を騙していた女に慰謝料を払うのか分からなかったが、怒らせてまたリターナとの事を反対されては困ると何も言わなかった。

そろそろ身体も大丈夫だからと騎士団に復帰すると騎士団長にシャロンと離縁した事を驚かれた。

「あんなに仲が良かったのに、休んでいる間に何があったんだ?記憶喪失と関係があるのか?」

仲が良かった?

聞けば、私達は政略結婚だが結婚する時には愛し合っていたと言う。
リターナは、私を捨て隣国へ嫁いだのだと…。

そんな馬鹿な…リターナは、私が婚約したから隣国へ嫁いだと言った。

どうなっているんだ?
皆がリターナと違う事を言う。

屋敷に戻り、執事のラルフに尋ねた。
騎士団長と同じ事を言った。

私がシャロンを愛していた?
リターナではなく?

ああー頭が痛い!!
誰か助けてくれー!

……グ…グランド、大丈夫?…どこが痛いの?……

シャ、シャロン!!

思い出した!
私の側にはシャロンが居た。

私はシャロンを愛している。
なぜ忘れてしまっていたのだろう?

そうだ、彼女のお腹には私の子がっ!!

私は急いでカイヤ伯爵家に向かう。

出迎えてくれた執事はシャロンは居ないと告げた。

カイヤ伯爵は、私を冷たい目で見ながら、「今更シャロンに会いたいなどと?貴方のせいで私達もシャロンと会えなくなってしまったのだ。貴方に教える事は何も無い。お帰り下さい!」と追い返されてしまった。

彼女は何処に行ったのだ?

リターナが屋敷にやって来た。

「リターナ、嘘を私に付いたな!?君は真実の愛に巡りあったと言って私を捨て隣国に嫁いだんだ!」

「あら?記憶が戻ったの?そうよ!貴方のお父様が認めてくれなくて、貴方もウジウジとして決断しないから金持ち伯爵家に嫁いだんだけれど、金を持ってるくせにケチで自由になるお金が無くて。ちょーっと贅沢に買い物したら怒鳴られるし、そんな時に話を聞いてくれる殿方が居たら親しくなるじゃない?それがバレたら離婚だ!出て行け!!なんて酷くない!?ああ貴方も奥様に出て行け!!と言っていたわね♪アハハ」

「私はシャロンを愛している」

「愛しているのに忘れちゃったんでしょ?それって本当に愛していたの?私を本当に愛しているから奥様の事を忘れたのよ。貴方は今でも私の事を愛しているのよ。ねぇグランド、私達が結婚するのが1番良いのよ」

違う!違う!!と言ってみても、なぜシャロンを忘れてしまったのか分からない。
ただリターナと結婚しても幸せになれないのは分かる。

私はリターナを屋敷から追い出すと、シャロンを探す事を執事に頼んだ。

父上は、やっと思い出したのか?
まあ何を言っても、もう遅いがな…と言った。
本当に遅いのか?もう無理なのだろうか?
いや彼女のお腹には私の子が居るのだ。
彼女に謝る事が出来れば、きっと帰って来てくれる。

しかし半年が過ぎてもシャロンは見付からない。
彼女は、何処に?
子供は産まれたのだろうか?

私の手放した物は大きく、今でも夢に君を見る。

夢の中で私に「愛しているわ、グランド」と言って子供を抱きながら微笑んでくれているシャロンがそこに居る。



END

*****

最後まで読んで頂き ありがとうございます。
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