【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI

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第一章

13. 試し打ち

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「薬はできましたわね。次は薬の効力を試してみましょう。」

先生は固体化した薬を小さな巾着に入れた。巾着は握りこぶしくらいの大きさなのにその容量を超えた量の荷物の収納が可能らしい。

「ちょうどわたくし、西のエリアにおります魔鹿の角が欲しいのです。眠り薬を使ってライファに捕まえてもらいましょう。」

「魔鹿ですか!?確か魔力ランク4の魔獣ですよね!?」
「あら、ご存じですの?」
「はい。師匠の部屋にあった本に載っていたので多少は知っています。実物は見たことがありませんが。」
「んふふふ。本を読むというのはとても良いことですね。本は知識の塊ですから。」

魔力ランク4の魔獣に挑む。今までは無謀でしかなかった行為だ。でも、今は私の手に効力の高い薬がある。戦うための武器があって挑むことがこんなに心強いとは知らなかった。緊張感と共に早く薬の効果を試したくてウズウズする。

「ライファ、いいか。魔力は少なくても戦い方次第では強い相手を倒すことも出来る。ちゃんと頭を使え。この経験はこの先活きてくる。」
「はい!」

私は食材を探しに世界を旅したい。その過程で必ず魔獣と対峙することもあるはずだ。

「先生、師匠、よろしくお願いします!」
「では向かいましょう。」


調合室のドアを出てすぐが西のエリアになる。

「魔鹿は鋭い角を持っていてその角で相手を突き飛ばす、もしくは刺して敵を倒します。角には十分気を付けてくださいね。」

私が頷いたのを確認すると、先生はソヨを呼んだ。

「それでは、わたくしたちはその辺にいますから、魔鹿の角をお願いしますね。捕まえたら角を根元から切ってください。角は数か月で再生しますので遠慮しなくても大丈夫ですよ。」
「しっかりやれよ。」

二人はそう言うとソヨの中に入っていった。




「さて、どうしようか。」

二人の姿が見えなくなった後、森の奥を目指して歩いて行く。魔鹿は崖に巣を作り暮らす魔獣だ。ドゥブ毒の薬材を集めに行った時にエリアの境目に崖があったのを思い出し、そこへ向かうことにする。魔鹿の生態はどんなだったろうか。本に書かれていた魔鹿の生態を思い出す。

魔鹿は1m弱の中型の動物で仲間意識が強く群れで生活する。草食動物で食事の時は崖から降りてくるが、食事を終えるとまた崖に上る。崖ではグループごとに巣穴を作りそこを寝床として生活する。魔力は足に宿る。確か本に書いてあったのはそんなような内容だった。

とりあえず、実物を見てみないと。

私は歩みを速めた。森が深くなるに連れて木が生い茂り、草の背丈が伸びてくる。顔の前に伸びる枝をどかしながら進むと、見たこともない魔花も虫もいて、木の上で眠っているヒューイも見かけた。

「あれは・・・ラッパンか?」

前方に小さな白い筒状の花をつけた魔木があった。ラッパンの花は魔力を通すと驚くほど大きな音がなる。先日【どうぐどうぐ】で買った魔木の本に載っていた。何かの役に立つかもしれない、2つだけ頂いていくことにして巾着に入れた。カオン、カオンと鳴くのはサッキ鳥だろうか。サッキ鳥は魔力ランク3で体のわりに羽が大きく、広げれば片翼だけで40cmにもなり中型動物でさえ捕食する肉食の鳥だ。人間を襲うことはまずないが、注意するに越したことはないだろう。ここには想像していた以上に魔獣が住んでいるようだ。

注意深く進むと木に大きな爪痕があった。私は木に寄りその爪痕を確認する。手で触れながらよく見れば2本のその爪痕は深く刻まれているようだった。ダイガの爪痕かもしれない、爪痕の深さをみると雄か。私は背中がヒヤリとするのを感じていた。

ダイガは魔力ランク8ある動物だ。獰猛で怪力、2mを超す大型動物で敵を見つければ木を破壊しながら一直線に走ってくる。ダイガがいるおおよその場所を把握しようと周りに目を凝らすと、1m先にも同じような爪痕があり、歯型もついていた。歯型はダイガの警告だ。

この先にダイガの巣があり、これより先に入ってきたら敵とみなされる。ヤバい!そう思うと同時にガァアアアアアというダイガの雄叫びが聞こえた。その声にビクッと体が震え全身を冷気が襲う。一瞬の間に汗が噴き出す。

大丈夫。落ち着け。まだ大丈夫だ。

ダイガは探っている状態のはずだ。身を低くし、鳴き声のした方へ体を向けたまま後ろ向きに引いた。1m、2m、そして3m程遠ざかった時ダイガの鳴き声が消えた。
「助かった・・・」額の汗をぬぐった。
  
 

 崖の近くに着くと20頭ほどの魔鹿の群れがいくつかのグループに分かれて崖にいるのが見えた。崖の高さは約20mといったところか。足に宿る魔力のお蔭なのか、崖のわずかな段に器用に立っている。私と魔鹿の距離は30m。ここから素手で眠り薬を投げたところで届くわけがない。しかも、万が一上手くいっても仲間意識が強い魔鹿のことだ、倒れた魔鹿の側に他の魔鹿が集まってくる可能性もある。とにかく、群れから一匹引き離すことが重要だろう。

魔鹿が崖から下りて食事をする時がチャンスだ。気配を消して葉の陰に隠れながらゆっくり崖へと近づいて行く。崖までの距離が3メートルになると近くの草むらに小さくなって身を潜めた。そのまま、1時間くらい経っただろうか。魔鹿のリーダーが一声鳴いたのを合図に魔鹿がぞろぞろ崖を下りてきた。魔鹿は警戒するかのように周りを見渡してから草を食べ始める。

どうやって引き離そうか、そう考えていると魔鹿の赤ちゃんがちょろちょろと動き回っているのが目に入った。こぶのような角しか生えていない魔鹿の赤ちゃんは好奇心旺盛なのかあちこちに鼻をつけては臭いを嗅いでいる。私は魔力を使って赤ちゃんの近くにある葉っぱをガサガサガサっと揺らした。赤ちゃんはピクッと耳を動かし、葉っぱを見る。今度はもう少し赤ちゃんから離れたところをガサガサさせる。

赤ちゃんはまた耳をピクッとさせると、少しずつ寄ってきた。それを繰り返して赤ちゃんを群れから引き離し、赤ちゃんを探して寄ってきた魔鹿を捉える作戦だ。ところが、赤ちゃんが群れから離れようとしたところですぐに大人の魔鹿が赤ちゃんを顔で押して群れの中に戻したのだ。・・・そう簡単にはいかないか。



 日が傾き、遠くの空にオレンジ色が滲んできた。魔鹿たちに崖に戻られては厄介だ。何か手を打たなければ。何か。そう考えを巡らせてハッと気づいた。ラッパンだ。ラッパンをここで鳴らせば魔鹿は巣の方へ一直線だろうが、巣の方で鳴ればどうだろう。音に驚いて巣とは反対方向へ行くのではないだろうか。そこを待ち伏せして薬を投げつければよい。

魔鹿たちに気付かれないように魔力でそうっとラッパンを魔鹿と巣の間に置いた。到着と同時に魔力を通す。

ぷぅあんっ!!

鼓膜が破れるのではないかという大きな音と共に魔鹿が一斉に走り出した。よほど驚いたのか四方八方へ散り散りにかけてゆく。私は魔力を通すと同時に草むらから出て薬を投げつける体勢をとっていた。それでも、魔力を宿した魔鹿の足は桁違いの速さで何匹か通り過ぎた後だった。

そこからは全てが一瞬の出来事だった。投げつけた眠り薬が魔鹿の首元に当たり首元が赤紫色になった。その染まり方を見て直観的に悟った。

あれではダメだ。

毛が薬の浸透を妨害していると感じたのだ。続けざまにもう一つを投げた。もはやイチかバチか、投げやり、そんな言葉が似合う投げ方だったが、賭けは私の勝ちだった。二回目に投げた眠り薬が二匹目の魔鹿の顔に当たり私から2m程離れたところで崩れ落ちた。まだ、眠りに落ちてはいないが動きを奪うことには成功したらしい。通り過ぎた魔鹿たちが振り返ったのを見て、とっさに巾着からもう一つのラッパンを出すと空中に放り出し、耳を左の肩と手で塞いで右手で魔力を放った。

ぷぅあんっ!!

またあのドデカい音がして、振り返っていた魔鹿たちは首を前にして散り散りになった。私はその隙に倒れた魔鹿に駆け寄りその角を切った。魔鹿はもう眠りについていた。もう少し時間が経てば、安全を確認した仲間たちが近寄ってくるだろう。私は角を手にしてその場を離れた。

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