【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI

文字の大きさ
36 / 226
第一章

36. ペンダントとブレスレット

しおりを挟む
 騎士団の建物にある自分のディスクに座って報告書を読んでいた。昨日のライファの事件の報告書だ。レイからライファが誘拐されたと聞いた時には全身の血の気が引いた。レイの動揺が激しかったお蔭で冷静になれたが、その場に誰もいなかったら取り乱していたに違いない。

報告書には死んだ犯人二人に対する調査報告が書かれていた。二人はユーリスアにある孤児院の出身らしい。年齢は22歳と24歳。身寄りはいない。近々お金が入るんだと、お金が入ったら孤児院の子供たちに差し入れをするからと孤児院の院長に話していたそうだ。やったことは決して許されることではない。けれど、根からの悪党ではないのだと思うとなんだかやりきれない気がした。

二人は脳を内部から破壊されて殺されていた。そんなことが出来るのは貴族しかいない。平民の魔力ではとてもできることではないのだ。二人がよくいく教会だとか、孤児院の出資者だとかを探し、接点を持ちそうな貴族をピックアップしたがどれも確証が持てない。

間にもう一人いるのかもしれないな。

人身売買はいつもトカゲのしっぽ切りだ。捕まえても、捕まえても尻尾を切り落としてどんどん逃げてゆく。
私は頭を抱えた。エマを置いていったことを考えればライファを狙ったのだろう。相手がライファを諦めてくれればよいが・・・。

机の引き出しを開けた。私がずっと側について守ってやれればいいのだがそういうわけにもいかない。それならばせめて、と引き出しから可愛いブレスレットを取り出した。いくつかの赤い石がはめ込まれたシンプルなデザインではあるが、彫刻が美しい。そのブレスレットに魔力を注ぎ込み、ライファのお守りになるようにしたのだ。ライファに危害を加えようものなら、そのブレスレットが反応してライファに結界を張る様にしてある。

コンコンコン

「ヴァンス隊長、ライファさんが来ました。」
「通せ。」

ライファがひょこっと顔を出した。背中に箱を背負っていて、まるで行商人かのような姿だ。続いてレイが入ってくる。

「レイ、聴取は30分もあれば終わるだろう。その間お前は下の階でユーリの手伝いをしてやれ。聴取が終わり次第、連絡する。」

「わかりました。」

レイが去って、ライファと向き合う。ライファの肩に乗っているキュロもどこか緊張した面持ちだ。

「ライファちゃん、どうぞ。座って。緊張しなくても大丈夫だよ。君もね。」

私はキュロにも話しかけると、いつまでも消えないレイの気配に違和感を覚えつつ聴取を開始した。

「昨日のことを詳しく話してくれるか?」

「はい。昨日はエマと市場に行きました。エマが少し先に行ったので追いかけようとしたら突然ハンカチで口を塞が
れました。何かの薬かと思い、咄嗟に息を止め、気を失ったふりをしました。」

話を聞いていて驚いた。普通、誘拐されたのならパニックになるはずだ。それなのに彼女は最初からきちんと考えて、助かる為の計画を立てていた。酷かった左手の親指の怪我が、ロープから逃れるために自身で傷をつけたのだと聞いた時には、驚きを通り越して少し呆れてしまった。

彼女は状況を説明しながら、本当はどうするべきだったのか反省点も含め話してくれ、お蔭で聴取はこういう場合はこうするのが良いなどど、まるで講義のようになってしまった。

「聴取は以上で終わりにする。」
「はい!大変勉強になりました。ありがとうございます!」

終了の会話もまるで講義の先生と生徒のようで、記録係が肩を震わせて笑っていた。

まったく、君と言う人は。




さて、聴取は終わったから先ほどから感じている違和感の正体を確かめようか。私は記録係に声をかけた。

「すまないが、ライファと少し話があるから、席をはずしてもらえないか?」

騎士団の下端である記録係は、はい、といって素直に退席した。

「ところでライファちゃん、さっきからレイの気配がするのだけれど、それはなんでかな?」

「え?ここにいるんですか?」

ライファに質問をぶつけると、とんちんかんな答えが返ってきた。全然意味が分かっていないらしい。
こんなに相手の気配がするということは、身も心も深くつながるか、相手の魔力を身につけているかのどちらかなのに。

「レイに何か渡されなかった?」
「あ、先ほどペンダントをいただきました。こんなに高価な物、貰っていいのかと躊躇ったのですが。」

ライファが首元にあるペンダントを見せてくれる。

あぁ、やはり。
私はレイに嫉妬した。

レイがライファに身につけさせているこのペンダント、これはジェンダーソン家の男が妻となる相手に贈るものだ。ジェンダーソン家は武力を重視している家柄だ。幼い頃から鍛え、実力もつける。当然、国家のピンチには立ち向かう故、自身の妻を守ることが出来ない。そのため、自分がいない時に伴侶を守ってくれるようにと作るのがこのペンダントだ。物心ついたときから、いずれ出会う愛しい人を守る為に毎日のように魔力を込める。そうすることで強力な守りとなるのだ。

「ライファちゃんはこのペンダントの意味が分かっているの?」
「意味ですか?なんだろう。お守りとしか聞いていませんけど。」

ライファはそう言って首を傾けた。

あぁ、そうか。嫉妬の奥底に潜んでいるのは、覚悟を決めきれない自分自身へのもどかしさか。迷いか。

魔力ランクを重んじる貴族でありながら、魔力ランクの低い平民の娘であるライファへの思いを貫く。その覚悟が今の私には出来ない。だが、レイにはライファの為に貴族の地位を捨ててもいいと思えるくらいの覚悟がもうできているのだろう。それが、悔しいのだ。

「ヴァンス様、どうかしました?」

こちらの気持ちなど知る由もなく、ライファが聞いてくる。

覚悟など、そんなに簡単にはできない。
だが、いいじゃないか。今はそれでも。
すぐに答えを出す必要はない。ライファも、私も。

私は机の引き出しからブレスレットを取り出した。

「ライファちゃん、これも受け取って欲しいのだけど。」

いつものように軽く言う。

「ライファちゃんに似合うと思って買っちゃったんだよね。僕が持っていても使い道もないし、ライファちゃんの為に買ったものだから。」

「えぇっ!こんなに綺麗な物、いいんですか?」
「いいの、いいの。ちょっと待ってね。」

私はそういうとブレスレットを取り出し、ブレスレットの石の部分を額につけると石に込めていた魔方陣を描きなおした。レイが物心ついた時から育てていたお守りにはとても敵わないから、そのお守りの効力を増大させるようなお守りに変更したのだ。

「ライファ・グリーンレイに守りを。」

最後にそう呟けばブレスレットは赤く光る。

「これもお守りだから外しちゃだめだよ。」

そう言うとライファの腕にはめた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...