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第二章
9. 好きってなんですか
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トトさんと並んで歩きながら調合研究室へ戻る。
「さっきのあれって、どういうことですかね?」
「ん~、以前二人が付き合っているという噂がありましたが、本当なのかもしれませんね。」
「それってつまり、好き合っているということですか?」
「そうなるだろうねぇ、いいなぁ。」
トトさんはそう言うと遠くを見つめた。
好きか・・・。前に魔木研究室に来た時には全然そんなふうには見えなかったんだけどな。
「ただいまー。」
フォレストのドアを開ければベルがピョーン!と飛びついてくる。
「おかえりー。ベルはいつもライファちゃんの帰りを心待ちにしているのねー。」
ナターシャさんがほんわりと言う。
「お目当ては夕食ですけどね。」
私がジロリとベルを見ると、ベルは、んふ~と宙を見上げた。
その日の食堂はいつもに増して混んでいた。
「近くで工事が始まったとかで、そこの職人さんが来てくれているのよ。」
キイナは私にそう告げると、食堂の端っこの席を用意してくれた。カラン、カランと繰り返される来客の音。
「ライファ、今日は混んでいるから一緒でお願い。」
キイナが一人の男性を私の前に座らせた。
「あ、恋人さん?」
思わず呟くと、キイナが少し顔を赤らめた。
「もー、ナターシャさんね!」と照れているのを隠す様に言う。
「グラント、今日は何にする?」
「俺はキイナのおススメでいい。」
「わかった。」
グラントさんは厨房へ向かうキイナの背中をずっと見ていた。
「あのー、グラントさん、はじめまして。私、フォレストにしばらくお世話になるライファと言います。」
「あぁ、キイナから聞いている。」
「ひとつ質問してもいいですか?」
グラントさんはなんだ?というように眉毛をあげた。
「どうぞ。」
「あの、好きってどういうことなんですかね?」
グラントさんは目を大きくして口をあけた。言葉でいうのなら、ぽかん、とした表情だ。
「グラントさんはキイナさんのことが好きなのでしょう?その好きってどういう感情のことなのかを教えていただきたいのです。」
「あ。」
「あ?」
一言、声が出たと思ったら、グラントさんの顔が盛大に真っ赤になった。え、えぇー・・・。気まずい。
「ライファ、お待たせ。」
キイナが私に料理を運んできて、真っ赤になっているグラントさんに気が付く。
「え?どうしたの?」
「いや、実はグラントさんに好きっていう感情がどういうものなのかを教えてもらおうと思いまして、質問したらこうなりました・・・。」
私は悪い事でもした子供のように上目づかいでキイナに報告する。
「ほら、二人は好き合っているわけでしょう?だから、二人なら好きっていうのがどういうことなのか分かるんじゃないかと思って・・・。」
そこまで言うと、キイナがぶぶーっと吹きだした。
「グラントには無理な質問ね。だって、ほら、この人、照れ屋さんだから。」
結局、グラントさんから好きと言う感情がどんなものなのかを聞き出すことは出来ず、かといって黙っているのも気まずく、世間話をしながら食事をした。
「え?グラントさんは研究所で働いているんですか!?」
「そうだ。魔道具研究室にいる。」
「私、調合研究室に置いて貰っているのです。」
「そうか。」
か、会話が続かない。
「魔道具研究室ってどんなことをしているんですか?」
「魔道具に関してなんでもだな。全員が全員同じことをしている訳でもなくて、個人、もしくは少人数でグループを作って研究している。だから、新しい魔道具の開発をしている人もいれば、昔の魔道具について調べている人もいるし、魔道具を修理するためのグループもある。」
「グラントさんは何をしているんですか?」
「俺は新しい魔道具を作っている。魔力ランクの低い人でも楽に扱えるような魔道具を開発しているんだ。」
「おぉ~、それは素敵です!私、魔力がほとんどないので、扱える魔術具が少なくて。」
「君はランクはいくつだ?」
「・・・1です。」
「なるほど。つまり、君が扱える魔道具なら誰でも扱えるってことか。」
「そうなりますね・・・。」
残念ながら・・・、と心の中で呟く。
「今度、うちの研究室に寄ってくれないか。ちょっと試してもらいたいものがあるんだ。」
グラントさんがちょっと前のめりになる。
「この魔力ランクが人の役に立てるなら喜んで協力しますよ。」
「本当か?」
「あら、なんだか二人で盛り上がってるじゃないー。」
キイナがぷぅっと口を尖らせた。
「あ、キイナ、いや、そういうんじゃなくて。」
キイナを前にするとグラントさんは先ほどまでの威勢も空しく、しぼんだ風船のようになった。
「ふふふ、分かってるわよ。どうせ研究の話でしょう?」
「さすがキイナさん!どうして分かるんですか?」
「グラントが饒舌になるのは研究の話だけなんだもん。」
そう言ってグラントさんを見つめるキイナの目がすごく優しい。ごめんと謝りつつもグラントさんも嬉しそうだ。そういえば前にこんな目を見たことがある気がする。あれは、いつだっただろうか。ターザニアに来る前、ユーリスアの王都・・・。あぁ、そうか、ユーリスアの王都から家に帰る日、レイがペンダントをくれた・・・あの時レイがこんな目をしていたような・・・。ドクン、と一度だけ心臓がはねた。レイが私を?いや、そんなわけないか。
「キイナちゃん、お水ちょーだい。」
「はーい、今いきます!」
キイナがパタパタと急ぎ足で厨房へ戻ってゆく。その姿を見ながら、ふとまたグラントさんに聞いてみた。
「どういう時に、キイナのことが好きだなーって思うんですか?」
すると、やはりというか、またもやグラントさんは顔を真っ赤にして黙ってしまった。
結局その日、二人から好きという感情がどういうものなのかを聞くことは出来なかった。
翌朝、今日は研究所が休みということもあり、のんびり起きる。むしろ、起きたら昼近くだった。
そうか、ここにはテンがいないんだもんな。ぐううっと体を逸らせて伸びると、ベルがやってきた。その手には果物が握られている。
「どうしたの?それ。」
ベルはあっち、あっちと指をさすとマッチョポーズをして、果物をあむっとした。
「あぁ、ガロンさんから貰ったの?」
そう聞くと、うんうん、と頷く。
「お礼はちゃんと言った?」
ベルは胸をたたいて、エッヘンとした。良くわからないが、お礼はちゃんとしているらしい。朝ごはん、食べ損ねちゃったなと思いながら一階に下りるとナターシャさんがいた。
「あら、ライファ、おはよう。朝ごはんまだでしょう?私たちこれから食べるけど、ライファも食べる?」
「いいんですか?」
「いいわよ。一人分増えるくらい、どうってことないから。」
クローズしている食堂のテーブルに3人分と1匹ぶんの食事を並べる。
「今日はターザニア名物、ジャンジャンツルだ!」
ガロンさんがそう言いながら今日のメインを取り分けてくれた。ジャンジャンツルというのは夢メニューでいうペペロンチーノに近い。ただし、ペペロンチーノがにんにくの香りが味を引き立てるのに対し、こちらは香りの強い野菜が味を引き立てる。薬草ペペロンチーノとでも言おうか。
いただきます、と手を合わせ一口頬張る。瞬間、口の中で薬草の香りが弾け口の中が清涼感に包まれた。カッ目が開く美味しさだ。
「そういえば、昨日、グラントを困らせて遊んでいたんですって?」
「えぇっ?遊んでいただなんてとんでもないですよ。ただちょっと質問をしただけです。」
「質問てどんな質問だ?」
ガロンさんが聞いてくる。
「好きって感情はどういうものですか?って聞いただけです。」
ぷぷっとナターシャさんが噴き出した。
「あ、あと、どういう時にキイナさんのこと好きだなーって思うんですか?っても聞きました。」
「それをグラントに聞いたのか!こりゃ、傑作だな。ガハハハ。」
ガロンさんまで笑い出した。
「奴には言葉にできないだろうなぁ。」
「そうね、グラントはよくあれで付き合うことができたなと思うほどシャイですもんね。」
「お二人はどうなんですか?」
「俺たちか?俺は出会った瞬間に恋に落ちたぞ。その声も体も心も全部自分のものにしたいと思った。」
「まぁっ!」
ナターシャさんはガロンさんの言葉に少し頬を染め、熱を冷ますかのように両手で頬を押さえた。
「じょ、情熱的ですね。いわゆる、ひと目ぼれというものでしょうか。」
「まぁ、そういうことだな。」
そういえば、師匠に渡された恋愛本にもそんな話があった。あの本は短編の恋愛話がいくつか書かれており、その中の2つだけは読んだのだ。ひと目ぼれ・・・、それは今までの私の人生にはなかったな。
「ナターシャさんは?」
「私は、そうねぇ。ガロンは会った頃からこんな感じで情熱的で。だからかしら、私は自分の気持ちに気が付くのには時間がかかった気がするわ。ほら、私は平民なのにガロンは魔力ランクの高い騎士団でしょう?いくら思いをつげられても、とても本気だとは思えなくて。」
「それでどうしたんですか?」
「私、両親の決めた人と結婚しようとしたのよねー。誓いのキスまでして、いよいよ魔力調和の儀式だってときに、ガロンが来たのよ。平民の儀式に貴族が乱入してきたんですもの。大騒ぎになるどころか、シーンとしちゃってねー。ガロンったら私の結婚相手に謝って、結婚式をなかったことにしちゃったのよ。貴族のいうことには誰も逆らえなかったわ。」
凍り付いた式場の様子が目に浮かぶようで、私は低く笑った。
「俺だってすまないとは思ったんだ。思ったんだけど、ナターシャが他の誰かのものになるなんて考えられなくて。その場でナターシャのご両親を説得した!」
ガロンさんはどこか誇らしげである。
「その後、数日経ってからガロンと式を挙げることになって、そこで初めてガロンとキスをしたの。その時、今までした誰とのキスとも全然違うかったのよね。すごく、すごく欲しかったものを与えられたみたいな感じ。体がぞわーってなって、あぁ、私この人のこと好きなんだなーって思ったわ。」
「つまり、キスをしなければ分からなかったってことですか?」
「そうねぇ、気付かなかったかもね。あそこでガロンが来なければ別の人と結婚していたわけだし、そうしたらもうガロンとキスすることなんて無いもの。」
ガロンさんとナターシャさんに聞いてみたものの、好きという感情がますます分からなくなっただけだった。
「さっきのあれって、どういうことですかね?」
「ん~、以前二人が付き合っているという噂がありましたが、本当なのかもしれませんね。」
「それってつまり、好き合っているということですか?」
「そうなるだろうねぇ、いいなぁ。」
トトさんはそう言うと遠くを見つめた。
好きか・・・。前に魔木研究室に来た時には全然そんなふうには見えなかったんだけどな。
「ただいまー。」
フォレストのドアを開ければベルがピョーン!と飛びついてくる。
「おかえりー。ベルはいつもライファちゃんの帰りを心待ちにしているのねー。」
ナターシャさんがほんわりと言う。
「お目当ては夕食ですけどね。」
私がジロリとベルを見ると、ベルは、んふ~と宙を見上げた。
その日の食堂はいつもに増して混んでいた。
「近くで工事が始まったとかで、そこの職人さんが来てくれているのよ。」
キイナは私にそう告げると、食堂の端っこの席を用意してくれた。カラン、カランと繰り返される来客の音。
「ライファ、今日は混んでいるから一緒でお願い。」
キイナが一人の男性を私の前に座らせた。
「あ、恋人さん?」
思わず呟くと、キイナが少し顔を赤らめた。
「もー、ナターシャさんね!」と照れているのを隠す様に言う。
「グラント、今日は何にする?」
「俺はキイナのおススメでいい。」
「わかった。」
グラントさんは厨房へ向かうキイナの背中をずっと見ていた。
「あのー、グラントさん、はじめまして。私、フォレストにしばらくお世話になるライファと言います。」
「あぁ、キイナから聞いている。」
「ひとつ質問してもいいですか?」
グラントさんはなんだ?というように眉毛をあげた。
「どうぞ。」
「あの、好きってどういうことなんですかね?」
グラントさんは目を大きくして口をあけた。言葉でいうのなら、ぽかん、とした表情だ。
「グラントさんはキイナさんのことが好きなのでしょう?その好きってどういう感情のことなのかを教えていただきたいのです。」
「あ。」
「あ?」
一言、声が出たと思ったら、グラントさんの顔が盛大に真っ赤になった。え、えぇー・・・。気まずい。
「ライファ、お待たせ。」
キイナが私に料理を運んできて、真っ赤になっているグラントさんに気が付く。
「え?どうしたの?」
「いや、実はグラントさんに好きっていう感情がどういうものなのかを教えてもらおうと思いまして、質問したらこうなりました・・・。」
私は悪い事でもした子供のように上目づかいでキイナに報告する。
「ほら、二人は好き合っているわけでしょう?だから、二人なら好きっていうのがどういうことなのか分かるんじゃないかと思って・・・。」
そこまで言うと、キイナがぶぶーっと吹きだした。
「グラントには無理な質問ね。だって、ほら、この人、照れ屋さんだから。」
結局、グラントさんから好きと言う感情がどんなものなのかを聞き出すことは出来ず、かといって黙っているのも気まずく、世間話をしながら食事をした。
「え?グラントさんは研究所で働いているんですか!?」
「そうだ。魔道具研究室にいる。」
「私、調合研究室に置いて貰っているのです。」
「そうか。」
か、会話が続かない。
「魔道具研究室ってどんなことをしているんですか?」
「魔道具に関してなんでもだな。全員が全員同じことをしている訳でもなくて、個人、もしくは少人数でグループを作って研究している。だから、新しい魔道具の開発をしている人もいれば、昔の魔道具について調べている人もいるし、魔道具を修理するためのグループもある。」
「グラントさんは何をしているんですか?」
「俺は新しい魔道具を作っている。魔力ランクの低い人でも楽に扱えるような魔道具を開発しているんだ。」
「おぉ~、それは素敵です!私、魔力がほとんどないので、扱える魔術具が少なくて。」
「君はランクはいくつだ?」
「・・・1です。」
「なるほど。つまり、君が扱える魔道具なら誰でも扱えるってことか。」
「そうなりますね・・・。」
残念ながら・・・、と心の中で呟く。
「今度、うちの研究室に寄ってくれないか。ちょっと試してもらいたいものがあるんだ。」
グラントさんがちょっと前のめりになる。
「この魔力ランクが人の役に立てるなら喜んで協力しますよ。」
「本当か?」
「あら、なんだか二人で盛り上がってるじゃないー。」
キイナがぷぅっと口を尖らせた。
「あ、キイナ、いや、そういうんじゃなくて。」
キイナを前にするとグラントさんは先ほどまでの威勢も空しく、しぼんだ風船のようになった。
「ふふふ、分かってるわよ。どうせ研究の話でしょう?」
「さすがキイナさん!どうして分かるんですか?」
「グラントが饒舌になるのは研究の話だけなんだもん。」
そう言ってグラントさんを見つめるキイナの目がすごく優しい。ごめんと謝りつつもグラントさんも嬉しそうだ。そういえば前にこんな目を見たことがある気がする。あれは、いつだっただろうか。ターザニアに来る前、ユーリスアの王都・・・。あぁ、そうか、ユーリスアの王都から家に帰る日、レイがペンダントをくれた・・・あの時レイがこんな目をしていたような・・・。ドクン、と一度だけ心臓がはねた。レイが私を?いや、そんなわけないか。
「キイナちゃん、お水ちょーだい。」
「はーい、今いきます!」
キイナがパタパタと急ぎ足で厨房へ戻ってゆく。その姿を見ながら、ふとまたグラントさんに聞いてみた。
「どういう時に、キイナのことが好きだなーって思うんですか?」
すると、やはりというか、またもやグラントさんは顔を真っ赤にして黙ってしまった。
結局その日、二人から好きという感情がどういうものなのかを聞くことは出来なかった。
翌朝、今日は研究所が休みということもあり、のんびり起きる。むしろ、起きたら昼近くだった。
そうか、ここにはテンがいないんだもんな。ぐううっと体を逸らせて伸びると、ベルがやってきた。その手には果物が握られている。
「どうしたの?それ。」
ベルはあっち、あっちと指をさすとマッチョポーズをして、果物をあむっとした。
「あぁ、ガロンさんから貰ったの?」
そう聞くと、うんうん、と頷く。
「お礼はちゃんと言った?」
ベルは胸をたたいて、エッヘンとした。良くわからないが、お礼はちゃんとしているらしい。朝ごはん、食べ損ねちゃったなと思いながら一階に下りるとナターシャさんがいた。
「あら、ライファ、おはよう。朝ごはんまだでしょう?私たちこれから食べるけど、ライファも食べる?」
「いいんですか?」
「いいわよ。一人分増えるくらい、どうってことないから。」
クローズしている食堂のテーブルに3人分と1匹ぶんの食事を並べる。
「今日はターザニア名物、ジャンジャンツルだ!」
ガロンさんがそう言いながら今日のメインを取り分けてくれた。ジャンジャンツルというのは夢メニューでいうペペロンチーノに近い。ただし、ペペロンチーノがにんにくの香りが味を引き立てるのに対し、こちらは香りの強い野菜が味を引き立てる。薬草ペペロンチーノとでも言おうか。
いただきます、と手を合わせ一口頬張る。瞬間、口の中で薬草の香りが弾け口の中が清涼感に包まれた。カッ目が開く美味しさだ。
「そういえば、昨日、グラントを困らせて遊んでいたんですって?」
「えぇっ?遊んでいただなんてとんでもないですよ。ただちょっと質問をしただけです。」
「質問てどんな質問だ?」
ガロンさんが聞いてくる。
「好きって感情はどういうものですか?って聞いただけです。」
ぷぷっとナターシャさんが噴き出した。
「あ、あと、どういう時にキイナさんのこと好きだなーって思うんですか?っても聞きました。」
「それをグラントに聞いたのか!こりゃ、傑作だな。ガハハハ。」
ガロンさんまで笑い出した。
「奴には言葉にできないだろうなぁ。」
「そうね、グラントはよくあれで付き合うことができたなと思うほどシャイですもんね。」
「お二人はどうなんですか?」
「俺たちか?俺は出会った瞬間に恋に落ちたぞ。その声も体も心も全部自分のものにしたいと思った。」
「まぁっ!」
ナターシャさんはガロンさんの言葉に少し頬を染め、熱を冷ますかのように両手で頬を押さえた。
「じょ、情熱的ですね。いわゆる、ひと目ぼれというものでしょうか。」
「まぁ、そういうことだな。」
そういえば、師匠に渡された恋愛本にもそんな話があった。あの本は短編の恋愛話がいくつか書かれており、その中の2つだけは読んだのだ。ひと目ぼれ・・・、それは今までの私の人生にはなかったな。
「ナターシャさんは?」
「私は、そうねぇ。ガロンは会った頃からこんな感じで情熱的で。だからかしら、私は自分の気持ちに気が付くのには時間がかかった気がするわ。ほら、私は平民なのにガロンは魔力ランクの高い騎士団でしょう?いくら思いをつげられても、とても本気だとは思えなくて。」
「それでどうしたんですか?」
「私、両親の決めた人と結婚しようとしたのよねー。誓いのキスまでして、いよいよ魔力調和の儀式だってときに、ガロンが来たのよ。平民の儀式に貴族が乱入してきたんですもの。大騒ぎになるどころか、シーンとしちゃってねー。ガロンったら私の結婚相手に謝って、結婚式をなかったことにしちゃったのよ。貴族のいうことには誰も逆らえなかったわ。」
凍り付いた式場の様子が目に浮かぶようで、私は低く笑った。
「俺だってすまないとは思ったんだ。思ったんだけど、ナターシャが他の誰かのものになるなんて考えられなくて。その場でナターシャのご両親を説得した!」
ガロンさんはどこか誇らしげである。
「その後、数日経ってからガロンと式を挙げることになって、そこで初めてガロンとキスをしたの。その時、今までした誰とのキスとも全然違うかったのよね。すごく、すごく欲しかったものを与えられたみたいな感じ。体がぞわーってなって、あぁ、私この人のこと好きなんだなーって思ったわ。」
「つまり、キスをしなければ分からなかったってことですか?」
「そうねぇ、気付かなかったかもね。あそこでガロンが来なければ別の人と結婚していたわけだし、そうしたらもうガロンとキスすることなんて無いもの。」
ガロンさんとナターシャさんに聞いてみたものの、好きという感情がますます分からなくなっただけだった。
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