【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI

文字の大きさ
90 / 226
第二章

46.  レベッカと薬

しおりを挟む
「まさか呼びつけておきながら留守だなんて。あの男、自分は平民で私が貴族だということを忘れてしまったのかしら。」

私は怒りをあらわにしながら主人のいない研究室を歩いた。そういえば、ニコラウスはここで何の研究をしているのだろう。ローザ様から頼まれた研究をしているのだと言ってはいたが・・・。何かヒントでもと思いつつ見ていると実験器具の脇に綺麗な青い液体があった。マリンブルーのその液体はビーカーに半分、5㎝くらいの高さの細い小瓶に入ったものが20本以上あった。

「へぇ、キレイね、これ。」
私は小瓶を持ち上げて目の高さに持っていくとその液体を透かしてみた。

「そこで何をしているのですか。」

突然聞こえた鋭い声に思わず持っていた小瓶を服の中に隠して振り返った。その声色が何かを咎める様なものだったからだ。

「ちょっと見ていただけですわ。そんなことよりも、人を呼び出しておいて不在にするなんて失礼じゃなくて?」
「それは失礼いたしました、レベッカ様。」

ニコラウスが厭味ったらしく私の名前を呼ぶが、気にしないようにしてニコラウスの元へ足を運んだ。

「ところで、あなたは何の研究をしておりますの?」
「おや、興味がおありですか?」

「ただ単に、自分がどのような研究に手を貸しているのか知りたいだけですわ。こんなに魔力を提供しているのだもの、少しくらい教えてくれても宜しいのではなくて?」

ニコラウスは少し考える様な仕草をした。

「それもそうですね。簡単に言えば、相手を意のままに操る薬ですよ。」
「へぇー。」
「あれ、信用していませんね?」

それはそうだ。人を意のままに操るなんて出来るわけがない。だいたいそんな薬が作れるというのならば、何でも思い通りにできるではないか。世の中そんなに上手くはいかないことくらいはいくら私でも知っている。そんな私の視線を感じてかニコラウスがムッとした表情をした。

「いいでしょう。信じさせてあげますよ。」

ニコラウスはそう言うと先ほどのマリンブルーの液体を持ってきた。そして簡単な人間の言葉なら理解できると言われているグロウという手のひらサイズの動物を実験台の上に乗せると、その液体を飲ませた。

「あなたはこのコップが好きでたまらなくなります。」

ニコラウスがグロウに言うとグロウは少しだけ、ぼーっとした目でコップを見つめた。その後、自身の体をコップに擦りつけてはコップの臭いをかぎ、自身の臭いも嗅げとばかりに自身のお尻をコップに向けている。その動作ばかりを繰り返すようになった。

「グロウの求愛行動ですよ。」

私はにわかには信じられなかった。

「もう完成しているということですか?」
「あと少しといった感じですかね。もう少し効力を長続きさせたいのです。」

この薬が完成したらローザ様はきっとこの薬を私に下さるおつもりなのだわ。まだ効力の持続時間が足りないらしいから、もう少し時間はかかるだろうけど。あのグロウのようにレイが私に求婚する日がくるのだ。

「驚くのはまだ早いですよ。」

ニコラウスは口の端だけで得意げに笑うとグロウの前に食べ物を差し出した。それを見たグロウは食べ物にがっつき、食べ終わるとまたコップに求愛行動をとり始めたのだ。

「どういうことです?」
「はっ、まさかこの素晴らしさが分からないなんて!」

「私はあなたのような研究バカとは違うのです。わからなくてもおかしくはないでしょう?ちゃんと説明してくださるかしら?」

馬鹿にしたように笑ったニコラウスを罵倒したい衝動に駆られたが、近い将来にレイが飲むことになるこの薬の方が大事だと踏みとどまった。

「人を意のままに操ろうという研究は古からありました。催眠術しかり薬しかり。催眠術はかけられる個体によっての個体差が大きく安定しない。その点、薬は誰にでも大差なく効力を発揮する。しかし薬の場合、催眠状態がずっと続いてしまうという問題点がありました。つまりね、命令したこと以外には無頓着になってしまうのです。食事をすることもせず、命令されたことだけをやり続けるようになってしまう。」

「では、この薬は・・・。」

「そう、この薬はその個体としての意識は保ったまま命令を遂行するのです。必要となれば食事をしますし、固体同士のコミュニケーションもちゃんと取れます。その個体が持っている知識をちゃんと持ったまま行動できるのですよ。」

つまり、レイにこの薬を飲ませればレイは私を好きなレイとして、今までのレイと同じように生活できるということか。

「わたくし、あなたを見直しましたわ。」

珍しく褒めると、まんざらでもなさそうにニコラウスが口元を歪めた。

「これであなたも、私の研究にもっと協力的になれそうですね。」

ぐががががががががが
ぐがああああああああああ

そんな話をしている最中、何の獣とも知れない獣のなき声が聞こえた。そういえば最近よく耳にする鳴き声で不気味だと思っていたのだ。

「全く、まだ調教がたりないですね。」

ニコラウスがうんざりした声で呟く。

「この鳴き声は何ですの?」

「・・・過ぎた好奇心は身を滅ぼしますよ。あなたは気にしなくても良いことです。さぁ、今日はもうここはいいですから。」

忙しそうなニコラウスに研究室を出るようにと促され、自室へと戻る。

「結局なんの手伝いもせずに話だけ聞いて戻ってきたわ。」
一体何のために呼ばれたのだろうか。

ため息をついているとローザ様からのチョンピーが届いた。

「レベッカ、これからターザニアの王宮へ参ります。あなたもついてきてちょうだい。」

私はわかりました、と返事を送ると急いで支度を始めた。侍女ならまだしも男であるトーゴの前で脱ぐわけにはいかないので、ある程度の着替えは自分でするようになったのだ。服を脱いでいると服の中からマリンブルーの液体が入った小瓶が出てきた。

「あ、つい持ってきちゃったわ。」
部屋に置いておいて自身がいない時に見つかることを恐れ、あとでこっそり戻すつもりでそのまま持ち歩くことにした。


「レベッカ、私は陛下の元へ参ります。あなたはどうしますか?」

いつものように建設中のお屋敷の魔方陣に魔力の供給を終えると、ローザ様に尋ねられた。

「館の側にある庭で休んでおります。」
「そう、では休んで回復したら私の部屋に戻りなさい。疲れたでしょうからおいしいお菓子を用意しておくように言っておくわ。」

ローザ様と離れたあと時間を確認しながら庭へと急いだ。今向かえばちょうど彼らの休み時間に間に合うはずだ。駆け足で庭へ行くと明るい声に迎えられた。

「レベッカ様!」
「どうしたんですか?そんなに急いで。」
「急いでなんかなくてよ。丁度今から庭で少し休もうと思っていたの。」
「じゃあ、俺らと一緒ですね。」

話しかけてくるのはローザ様の屋敷を建設している大工たちだ。あの日、キヨと話をしてからターザニアに来るたびに会うようになり、大工のみんなとすっかり顔なじみになったのだ。平民ではあるがレベッカ様、レベッカ様と慕われると悪い気はしない。何より北の大地ガルシアでの引きこもり生活ではこうして話をする相手もおらず、ここに来て話をすることはとても良い気分転換になる。

「レベッカ様、キヨの話を聞いてやってくださいよ。」

そんな声に促されて、どうしたの?と聞く。

「実はもうすぐ工事が終わってユーリスアに戻ることになるので彼女にプロポーズしようかと思っていて。」
「まぁ、それは素敵ね!」

確かキヨの彼女は平民の地味な女だったはずだ。キヨにはもっと可愛らしい女性の方がと思ったのだが、好きだという気持ちばかりはどうにもならないことを私は良く知っている。

「うまくいくといいわね。」
「はい・・・。」

キヨが珍しく不安そうな顔をしていた。

「なんだかすっきりしない表情ねぇ。」

「実は彼女にはユーリスアについて来て欲しいと思っているのです。でも彼女がターザニアを大好きなことも知っているから、ついて来てくれるか心配で。もしもついていけないから別れる、なんてことになったらどうしようかと。」

キヨが頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「ね、最近はずっとこんな調子なんですよ。」

いつもは太陽のような笑みを振りまいて人一倍明るいキヨがこんな風になっているのがなんだか可笑しい。思わず、くすくすと声に出して笑うと、キヨに、笑わないですださいよぅ、と情けない声を出された。

「仕方ないわね。これ、あげるわ。」

私がキヨに出したのは先ほどニコラウスの研究室から持ち出したマリンブルーの液体の入った小瓶だ。

「なんですか、これ。」
「願いが叶う液体、よ。どうしても上手くいかないときは、この液体を飲ませてもう一度説得するといいわ。そしたら上手くいくから。」

「それって・・・」
キヨが驚いた顔をして何か言おうとしたが、その唇の前に人差し指を立てて、言葉をふさいだ。

「うまくいくことを願っているわ。」

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

処理中です...