【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

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第二章

58. ローザと滅びの日

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ターザニアの王宮内に密かに建設した空間移動魔法陣がようやく完成した。

「ふふふふふ、あははははははは。ようやくこの日が来たわ。」

私は部屋のドアを開けると魔獣の部屋を呼び出した。部屋の扉を開ければ、鼻をつくような獣の匂いがする。土臭さと獣の排泄物と体液が混じったような匂いだ。一歩踏み出せば私を獲物と認識した魔獣たちが一斉にうなり声をあげる。その煩さといったら、いっそのことこのまま燃やし尽くしてしまおうかと思うほどだ。

この魔獣部屋は空間を歪めており、一見小さな部屋ではあるが魔力を吸い取る特別な檻の中に数百頭もの魔獣が住んでいる。これも全てターザニアを滅ぼすためだ。

「ローザ様、いらっしゃっていたのですか?」
「ニコラウス、準備はどう?」

「上々ですね。魔獣はダイガを基本として数種類の魔獣をかけあわせ殺傷能力を高めてあります。薬の方はまぁまぁ、ですかね。薬の効力が強力すぎて最大でも12時間しか体が持ちません。」

「12時間か。いずれはもっと体が持つようにしないと楽しみ方が減りますわね。でも、今は十分です。それから、もう一つの薬は?」

「そちらの方は完璧です。体内に入れると薬は心臓の脇で固まり始めます。そして、心臓が止まるとまだ体内に残っている魔力を一気に吸収し爆発します。」

「青の薬を飲んでいても発動はするのよね?」
「勿論です。心臓が止まった直後に作動するようになっているので干渉はしません。」

「上出来ですわ。ニコラウス、あなたは私が見込んだとおりとても優秀な研究者です。私の記憶にある研究者の中でも最上級ですわ。」

「勿体ないお言葉ありがとうございます。」
ニコラウスの自尊心をくすぐる様に褒めるとニコラウスは表情を歪めて笑った。



ターザニア。
最も忌むべき私の故郷。ようやく消すことが出来る。

3歳の頃、気付いた時にはもう私は幽閉の身だった。なぜ一人だけ離れにある部屋から出ることを許されないのか、当時の私には分からなかった。小さな部屋には本もおもちゃもなく、唯一許されたのは縫いぐるみだけ。外から聞こえる楽しそうな話し声に耳を澄ましては、一人ぼっちという現実と寂しさを抱える日々だった。

なぜこんな扱いを受けるのかに気が付いたのは5歳になった頃だ。部屋の高いところについていた唯一の窓に、テーブルと椅子を重ねてようやく手が届いた。よじ登って窓の外を歩く人を見た時、その人の声が聞こえた。この体内に響く音の感じを私は知っている。人の心の声だ。
私はその窓の向うからたくさんの情報を得た。


私の持つスキル、読心は人の秘密を簡単に覗くことが出来る。
国王である私の父親がこのスキルを危険視していること。
そして、恐れていること。
私の処分に頭を悩ませているということ。

処分に・・・だ。

そして7歳になった頃、その日が来た。
目の前に置かれた食事。毒。

見張る様に部屋を訪れたのは黒くて冷たい人たち。無表情ながらも心は雄弁なその男たちは何にどれくらいの毒が含まれているのかを教えてくれる。

とうとう私を殺すことにしたのか。

諦めと恐怖が私の心を支配した。スプーンを持つ手が震える。口にスプーンを近づけようとするたびに手の震えが酷くなりスープが零れ落ちた。そうしてなかなかスープを飲まない私にイライラした黒い男の一人が【あ~あ、面倒くせぇな】と体内に響く声で話し始めた。

【早く終わらせてさっさとここから出てぇ。今晩はあのふわっとした女のところに行こう。】

私が、今ここで命を終わらせようとしているこの時に、この黒い男はそんなことを考えていられるのだ。

「さっさと飲め。」

別の男が私に近寄り、片腕で首を絞めるように私の顔を上に向かせた。苦しくて空気を取り込もうと口を開ける。

【さっさと死ねよ】

黒い男の感情が言葉と共に流れ込んでくる。男は私の口の中に器を傾けるようにしてスープを注いだ。毒であるという事実と突然流れ込んできた大量のスープに体が拒絶反応を起こす。苦しくて息を吸おうとすれば流れ込んでくるスープが気管に侵入しようとし、咳をして吐き出せば体が吹き飛ぶほどに蹴られた。

口の中に血の味が広がる。床にぐったりと横たわりながら、早く死んでしまおうと思った。



死んでこの身が滅んだとしても、この国を滅ぼしてやる。

生まれ変わったとしても、この国を滅ぼしてやる。



苦しさに身をよじりながら、この痛みを紛らわすかのように魔力を走らせた。
それは何の目的も持たないただ放出された魔力。



この国に死を。



この国に死を。


その後、死んだと思われた私は埋葬されることもなく海へと捨てられた。どことも知れぬ海岸に流れ着き、読み書きすることも出来ず、魔力の使い方さえ知らない私は体を売ることで生き延びた。

やがて魔女に出会い、その知識を得て、ようやくここまで来たのだ。



決行は今晩。
その前に一度、あいつらの顔を見に行こう。

絶望をより味わえるように、こちらを見ることが出来る鏡でも置いて来ようかしら。

「ローザ様、おでかけですか?」

館を出ようとする私を見てレベッカが話しかけてきた。華々しい世界が大好きな子だ。この館に閉じ込められているのは嫌なのだろう。今回の始末が付いたら、どこか別の国へ行くのもいい。

「レベッカ、少し出かけてきます。しばらくしたら、旅にでもいきましょうか。もっと暖かい地へ。」
「本当ですか?すごく嬉しいです。ここは寒くて・・・。」

レベッカが嬉しそうに声を弾ませた。微笑んだまま扉を開けると、お気をつけて、というレベッカの声が聞こえた。


馬車を降り、空間移動魔法陣のある森を歩く。すると前方にある空間移動魔法陣が揺らめき、魔法陣の中からひとりの男が現れた。私は木の影に身を潜めその男の様子を見る。随分と薄着なその男は顔を上げるとあたりを見回した。そして、目が合う寸前に私は男の元へ魔力を足に宿して一瞬で移動し、その首を締め上げた。男の顔には見覚えがあった。ターザニアの騎士団隊長。

「グショウでしたか。」

グショウは大きく目を見開いたまま苦しそうな表情でなぜあなたがここに?と言った。その問いには答えず、殺すつもりで最大魔力を腕に移動させる。指が首に食い込み、喉の骨が軋む感触がした時、ふとイタズラ心が舞い降りた。この男を生かしてみよう。

家族を失い、仲間を失い、国を失った人間がどうするのか見てみたいと思ったのだ。私を殺しに来るだろうか?私の種を植えたら、この男はどういう未来を選択するのだろう。

私は意識を失っている男の額に手をあて、意識に侵入した。記憶の核に触れ先ほどの記憶を引きずり出す。その記憶を魔力で包むと、グショウ自身には簡単にアクセスができないようにした。そして新たな記憶の部屋を作りそこに私の種を植えた。自然に少しずつ、グショウの意識に溶け込んでいくように。全ての作業を終わらせると、意識の接続を切る。

死なないようにとグショウの体を少しだけ回復させるとその体を魔法陣の外へ出し、私は空間移動魔法陣を起動した。


ターザニアに別れの挨拶をするために。





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