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第三章
12. 綱渡りの機嫌
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「どう?体は温まってきた?」
温泉に背中を向けたまま青年が聞く。
「はい、だいぶ。あの、怪我とかしませんでした?私、動物を追いかけるのに必死でよく見てなかったからかなりの衝撃があったんじゃないかと。」
「そりゃあ、必死になるよね。僕としては大歓迎だけど。美女が全裸で激突してくるなんてこんなに面白いことはなかなか無いからね。ぷぷぷぷっ。あ、怪我はしてないから大丈夫。それで、これからどうするの?」
「それを今から考えているところです。」
「旅人?宿はどこ?」
「この近くの森のうたっていう宿屋です。」
「あぁ、あそこか。いいよ、僕のコートでくるんで送っていってあげるよ。」
「いいんですか?」
「いいもなにも、それしか方法は無いでしょ?」
「・・・そうかも。よろしくお願いします。私、ライファと申します。」
「僕はルカ。よろしくね。ぷぷっ。」
「そんなに笑わないでください・・・。」
「ごめん、ごめん。目は閉じておくから、このコートにくるまって出てきてくださいな。」
しっかり体を拭き、借りたコートを羽織る。ベルもちゃっかりコートの中に納まった。
全裸コート・・・。変態でしかないが、全裸よりはずっとマシだ。ありがたい。
「お願いします。」
声をかけて、さぁ!と言わんばかりに両手を広げると、ぶっぶぶっーっと吹きだされた。
「いや、可愛いけどね、そういうのも。でも、この場合は違うかな。」
ルカは笑いながら私の横に立つと、ひょいっとお姫様抱っこをした。両手を広げる必要はなかったようだ。そっと手を下すと、今度は堪えたように笑われる。さっきからどうも笑われ過ぎる。むむっと口を尖らせつつも、助けてくれることには感謝しかない。
「重くないですか?大丈夫ですか?」
「魔力を使っているから平気ではあるけど、これから階段を下りたりもするから僕の首に手を回して自分でも捕まって。」
「はい。」
落とさないようにとしっかり私の体を抱え、滑らないようにと足を踏みしめて歩く。クリッとした目の可愛らしい外見とは裏腹に鍛えられた体と言動から私より少し年上なのではないかと思われた。
「ルカさんも旅人なのですか?」
「ルカでいいよ。うん、そう。僕はハンターなんだ。各地を旅して薬材や食材なんかを手に入れて売っている。」
「本当ですか!?」
驚きのあまりルカの首に回していた腕を引っ張ってしまった。
「いたっ、ちょっと、落ち着かないとコートがはだけるよ!」
「すみません。ちょうど薬材が欲しいと思っていたので、つい。」
「へぇ、じゃあ、僕は全裸のお客さんを手に入れたわけだ。ぷぷっ。」
「またそうやってすぐからかう。」
むぅーっと口を尖らせつつ、もしかしたら絶花について何か知っているかもしれないと思った。
「ルカは、絶花って知ってますか?」
「絶花?聞いたことはあるよ。ドーヤのあたりの森にあるんだったかな。」
「そう、それです!実は絶花を手に入れたくてドーヤまで行こうと思っているのですが、何か知っていることがあれば教えていただけませんか?」
「知っていることって言ってもなぁ。噂みたいなものだし。そうそう、エンヤ族に会うといいよ。エンヤ族しか絶花を採ることは出来ないと言われているからね。」
「エンヤ族か・・・。ありがとうございます!」
「まぁ、これくらいは、ね。ほら、見ちゃったし。」
ルカはぷぷっと笑っていたけれど、こちらとしては恥ずかしい以外の言葉はない。
「・・・わすれてください。ほんとうに。」
「ライファ!!」
遠くから名前を呼ばれたと思ったらレイが慌てて走ってくる。髪の毛は乱れているし宿着も着崩れていて、探し回りました!と言わんばかりの格好だ。
「どうした?怪我でもした?」
書置きしてきたのにな、と思いつつ「怪我はしてないよ」と答える。
「何がどうなっているのかはよく分かりませんが、ここからは私が運びますので大丈夫です。どうもありがとうございます。」
レイはルカにお礼を言うと、少し強引にルカから私を引き離そうとする。
「あぁ、丁寧にやらないと服がはだけちゃいますよ。彼女、全裸なので。」
「なっ!!」
レイがとんでもない物でも見るような目で私を見る。
「温泉に浸かってたら、服を盗まれてしまって。宿着、なくしちゃったことを女将さんに謝らないといけない。」
自分のあまりのうっかりっぷりに恥ずかしくなってレイから顔を逸らす。
「理由はわかった。とりあえず、こっちに。本当にありがとうございます。」
レイはルカに丁寧にしっかりと頭を下げた。ルカの首に回していた腕を外し、レイへと伸ばす。
「せっかくだから僕もここに泊らせてもらおう。全裸のお客さんもつかまえたことだし、コートも返して貰わなくちゃ。」
「あとで必ずお礼に伺います!」
「待っているよ。ちゃんと服を着てからおいで。」
ルカはぷぷっと笑うとフロントへ向かった。
「あー・・・、レイ?心配かけちゃった?ごめん。テーブルの上に書置きをしておいたんだけど。」
恐る恐るレイに話しかけると、意外にも満面の笑顔のレイが私を見下ろしていた。
「そうだったの?気付かなかった・・・。とにかく無事で良かったよ。」
・・・逆にこわい。
部屋に戻ってからもレイは優しい。
「ライファ、寒くない?あ、私、部屋の外にいるから着替えてしまいなよ。」
「・・・ありがとう。」
着替えを済ますとルカのコートを持ってレイに声をかけた。
「レイ、もう入ってきていいよ。女将さんに謝って、ルカのところにも行ってくる。」
「ルカ?」
入ってくるなり、レイが顔を歪めた。
「うん、さっき私を助けてくれた人、ルカって言うんだ。ハンターをしていて薬材を持っているっていうから、いいのがあったら購入しようかと思って。ちょうど、薬材が欲しいと思っていたところなんだよね。調合料理を作って少しでもレイの助けになりたい。」
レイがふっと笑顔になって、じゃあ私も行くよと言った。
その笑顔がいつもの感じだったので、私は少しほっとした。
「こんな時間に男の部屋に一人でのこのこと行かせるわけにはいかないからね。」
勘違いだったようだ・・・。まだ怒っている気がする。
コンコン
「ルカ?ライファです。」
「どうぞ。」
ドアを開けてくれたルカはお風呂にも入ったようで、宿着で寛いだ様子だった。
「遅くにごめん。私たち、明日にはここを出るから今日しかなくて。」
「とんでもない。お客さんはいつでも歓迎するよ。」
「こちらはレイ。レイも一緒でいい?」
「勿論。」
ルカがドアを広く開けて部屋に入る様にと促した。
「借りたコートなんだけど、女将さんに洗濯をお願いしてあるから明日には仕上がるって。それで良いい?」
「うん、今日はもう出かけないし、大丈夫だよ。」
「よかった。」
「用事は薬材のこと?」
「うん、どんなのを持っているか見せて欲しくて。」
ルカはいいよ、と言いながら今持っている薬材を並べ始めた。
「ライファは調合師なの?」
「調合師ではないけど・・・でもある程度の調合は出来るので道中の役に立てばなーと思ってはいる。」
「へぇー、どれくらいの腕前かは分からないけど、調合できる人が同行する旅って心強いよねー。自分たちの為に調合することも出来るし、いざとなったら調合した薬を売ればいいし。レイはライファの護衛かなんか?」
「え?」
突然話しかけられたことにレイが驚いて声を上げる。
「あ、貴族様を呼び捨ては流石にまずいか。」
「いや、いいけど・・・。これでも隠しているつもりなんだけどな。」
「それは無理でしょ。こんな品のいい平民なんていないよ。」
ルカが笑う。ルカの凄いところはスルッと人との距離を詰められることだ。クリッとした目と男性にしては小柄な体が少年っぽさを引き出しており、こちらも自然とガードが甘くなる。そしてこの話し方だ。気づけば自分も昔から知っている友達と話しているような気になってしまう。
「今持っているのは、ブンの木の実、ビョーン花、トノ実酒、ガル鹿の角、珍しいものだと空雷鳥の目かな。」
「眠り効果,保温効果、精力増強効果、体力回復効果、遠見効果か。」
それぞれの効果を言葉にすると、レイがゴホッとむせて少し顔を逸らした。
「おぉ~、よく知っているね。精力増強効果は人気商品なんだよ。レイも買っておく?ってレイには必要ないか。」
「なっ、なにを!」
顔を真っ赤にしたレイをルカがキャッキャとからかう。そんな二人のことは気にせず、話を進めた。
「ん~、興味があるのはガル鹿の角、空雷鳥の目、だな。」
ビョーン花に保温効果があることをすっかり忘れていた。夏にユーリスアの国王に送ってもらったものが庭に植えてあるはずだ。あとで師匠に話してバッグに入れてもらおう。ガル鹿の角は体力回復効果がある。疲れた時に良い。空雷鳥の目は小瓶の中に入っていてなかなかグロテスクであるが、遠見効果が気になる。一時的にでも遠くまで見えるようになるという効力はこの先の旅で役に立つかもしれない。
「それぞれ幾らになる?」
「ガル鹿の角は一本3000オン、空雷鳥の目は片目で25000オンだよ。」
「25000オン!?」
旅に出る時に師匠から貰ったお金が10万オン。ターザニアで稼いだお金は全てターザニアの銀行に預けていたので、今となっては貯金はゼロだ。薬材を全部買うと28000オン。宿代などはレイが出してくれているとはいえ、全財産の4分の1強に当たる28000オンの大金をここで使うわけにはいかない。宿代などをレイに払って貰っているのも心苦しいというのに・・・。
「高い。こんなには払えない・・・。」
んがー。諦めるしかないか。
「お金ないのー?んー、じゃぁ、ここにある薬材でなにか調合できる?」
調合か。この中で相性が良さそうなのは眠り効果と保温効果、ガルシアの気候であれば尚更、体が温まれば眠りやすくなるだろう。
「ブンの木の実とビョーン花を調合することでブンの木の実の眠りの効力を上げることが出来そうかな。」
「強めの眠り薬ってことかー。ありきたりだなぁ。」
ルカにありきたりと言われてムムッとする。調合は想像力とそれを行う度胸だ、
「トノ実酒とガル鹿の角を調合すれば体力回復効果のある精力剤が出来そうな気もする。」
「それだ!これは売れるぞ!!二回戦目と考えれば、若者にもいけるな。よし、その薬を調合してくれるなら全部で1万円でいいよ。」
「いや、ちょっと待って。調子に乗り過ぎたかも・・・。一度も扱ったことない食材だし、一回ですぐ成功するとは限らない。別のものが出来るかもしれないし・・・。」
「確かに。よし、3回の失敗までなら材料費は全部こっちで持つ。それでどうだ?」
「・・・その精力剤にそれほどのメリットがあるの?」
「それだけじゃない。腕のよい調合師ならぜひ懇意にいておきたいし、という下心もある。」
ルカはテヘッでも言うように少しだけ舌を覗かせた。こういう仕草も似合ってしまうのがルカである。
「ライファ、調合なんてしなくてもいいよ。お金なら私が払うし。」
「いや、でもそれは・・・。いつもレイに払って貰ってばかりだし・・・さ。」
「じゃあ、いつか何かで返してくれればいい。とにかく、調合はしなくていいよ。ルカ、今回は世話になった。ありがとう。お金はちゃんと払うから、薬材を売ってくれ。」
「待って、ちょっと待ってよ!わかった。もう、僕の負けだよ。調合はしなくてもいいし、お金も10000オンでいいよ。」
「え?なんで?いいの?」
突然の変わりように驚いて口にすれば、うん、いいよ、と商売人の顔をしたルカがいた。
「その代り、僕と友達になって。」
「え?」
「腕の良い調合師なら懇意にしたいと言ったとたん、レイが僕からライファを引き離しにかかるんだもん。ライファの調合の腕は確かなんだろ?」
ルカの言葉にレイが口元を押さえて横を向いた。その姿を見て、レイは分かりやすいなぁ、とルカが笑う。
「二人はどういう関係なの?愛人?姉弟ではないよね。魔力が全然違うもん。」
ルカは私が購入した薬材を手際よくまとめながら聞いてきた。
「いや、その・・・。」
私が返答に困っていると、レイが私の手をギュッと握った。
「愛人ではないよ。」
その通りだ。その通りだけど、まるで私はライファをそういうふうに好きではないよ、とはっきりと言われたかのようで心が重くなる。そんなにハッキリ言わなくてもいいのに。
「でも、大事な人だから手は出さないでね。」
え?今、なんて言った?
思わずレイを見れば、レイはルカににこりと微笑み、ルカは「ヘイヘイ」と肩を竦めている。
「でも、それとこれとは別。友達は友達だからね、ライファ。」
レイに手を引かれてルカの部屋を後にしながら「勿論!」と頷いた。
温泉に背中を向けたまま青年が聞く。
「はい、だいぶ。あの、怪我とかしませんでした?私、動物を追いかけるのに必死でよく見てなかったからかなりの衝撃があったんじゃないかと。」
「そりゃあ、必死になるよね。僕としては大歓迎だけど。美女が全裸で激突してくるなんてこんなに面白いことはなかなか無いからね。ぷぷぷぷっ。あ、怪我はしてないから大丈夫。それで、これからどうするの?」
「それを今から考えているところです。」
「旅人?宿はどこ?」
「この近くの森のうたっていう宿屋です。」
「あぁ、あそこか。いいよ、僕のコートでくるんで送っていってあげるよ。」
「いいんですか?」
「いいもなにも、それしか方法は無いでしょ?」
「・・・そうかも。よろしくお願いします。私、ライファと申します。」
「僕はルカ。よろしくね。ぷぷっ。」
「そんなに笑わないでください・・・。」
「ごめん、ごめん。目は閉じておくから、このコートにくるまって出てきてくださいな。」
しっかり体を拭き、借りたコートを羽織る。ベルもちゃっかりコートの中に納まった。
全裸コート・・・。変態でしかないが、全裸よりはずっとマシだ。ありがたい。
「お願いします。」
声をかけて、さぁ!と言わんばかりに両手を広げると、ぶっぶぶっーっと吹きだされた。
「いや、可愛いけどね、そういうのも。でも、この場合は違うかな。」
ルカは笑いながら私の横に立つと、ひょいっとお姫様抱っこをした。両手を広げる必要はなかったようだ。そっと手を下すと、今度は堪えたように笑われる。さっきからどうも笑われ過ぎる。むむっと口を尖らせつつも、助けてくれることには感謝しかない。
「重くないですか?大丈夫ですか?」
「魔力を使っているから平気ではあるけど、これから階段を下りたりもするから僕の首に手を回して自分でも捕まって。」
「はい。」
落とさないようにとしっかり私の体を抱え、滑らないようにと足を踏みしめて歩く。クリッとした目の可愛らしい外見とは裏腹に鍛えられた体と言動から私より少し年上なのではないかと思われた。
「ルカさんも旅人なのですか?」
「ルカでいいよ。うん、そう。僕はハンターなんだ。各地を旅して薬材や食材なんかを手に入れて売っている。」
「本当ですか!?」
驚きのあまりルカの首に回していた腕を引っ張ってしまった。
「いたっ、ちょっと、落ち着かないとコートがはだけるよ!」
「すみません。ちょうど薬材が欲しいと思っていたので、つい。」
「へぇ、じゃあ、僕は全裸のお客さんを手に入れたわけだ。ぷぷっ。」
「またそうやってすぐからかう。」
むぅーっと口を尖らせつつ、もしかしたら絶花について何か知っているかもしれないと思った。
「ルカは、絶花って知ってますか?」
「絶花?聞いたことはあるよ。ドーヤのあたりの森にあるんだったかな。」
「そう、それです!実は絶花を手に入れたくてドーヤまで行こうと思っているのですが、何か知っていることがあれば教えていただけませんか?」
「知っていることって言ってもなぁ。噂みたいなものだし。そうそう、エンヤ族に会うといいよ。エンヤ族しか絶花を採ることは出来ないと言われているからね。」
「エンヤ族か・・・。ありがとうございます!」
「まぁ、これくらいは、ね。ほら、見ちゃったし。」
ルカはぷぷっと笑っていたけれど、こちらとしては恥ずかしい以外の言葉はない。
「・・・わすれてください。ほんとうに。」
「ライファ!!」
遠くから名前を呼ばれたと思ったらレイが慌てて走ってくる。髪の毛は乱れているし宿着も着崩れていて、探し回りました!と言わんばかりの格好だ。
「どうした?怪我でもした?」
書置きしてきたのにな、と思いつつ「怪我はしてないよ」と答える。
「何がどうなっているのかはよく分かりませんが、ここからは私が運びますので大丈夫です。どうもありがとうございます。」
レイはルカにお礼を言うと、少し強引にルカから私を引き離そうとする。
「あぁ、丁寧にやらないと服がはだけちゃいますよ。彼女、全裸なので。」
「なっ!!」
レイがとんでもない物でも見るような目で私を見る。
「温泉に浸かってたら、服を盗まれてしまって。宿着、なくしちゃったことを女将さんに謝らないといけない。」
自分のあまりのうっかりっぷりに恥ずかしくなってレイから顔を逸らす。
「理由はわかった。とりあえず、こっちに。本当にありがとうございます。」
レイはルカに丁寧にしっかりと頭を下げた。ルカの首に回していた腕を外し、レイへと伸ばす。
「せっかくだから僕もここに泊らせてもらおう。全裸のお客さんもつかまえたことだし、コートも返して貰わなくちゃ。」
「あとで必ずお礼に伺います!」
「待っているよ。ちゃんと服を着てからおいで。」
ルカはぷぷっと笑うとフロントへ向かった。
「あー・・・、レイ?心配かけちゃった?ごめん。テーブルの上に書置きをしておいたんだけど。」
恐る恐るレイに話しかけると、意外にも満面の笑顔のレイが私を見下ろしていた。
「そうだったの?気付かなかった・・・。とにかく無事で良かったよ。」
・・・逆にこわい。
部屋に戻ってからもレイは優しい。
「ライファ、寒くない?あ、私、部屋の外にいるから着替えてしまいなよ。」
「・・・ありがとう。」
着替えを済ますとルカのコートを持ってレイに声をかけた。
「レイ、もう入ってきていいよ。女将さんに謝って、ルカのところにも行ってくる。」
「ルカ?」
入ってくるなり、レイが顔を歪めた。
「うん、さっき私を助けてくれた人、ルカって言うんだ。ハンターをしていて薬材を持っているっていうから、いいのがあったら購入しようかと思って。ちょうど、薬材が欲しいと思っていたところなんだよね。調合料理を作って少しでもレイの助けになりたい。」
レイがふっと笑顔になって、じゃあ私も行くよと言った。
その笑顔がいつもの感じだったので、私は少しほっとした。
「こんな時間に男の部屋に一人でのこのこと行かせるわけにはいかないからね。」
勘違いだったようだ・・・。まだ怒っている気がする。
コンコン
「ルカ?ライファです。」
「どうぞ。」
ドアを開けてくれたルカはお風呂にも入ったようで、宿着で寛いだ様子だった。
「遅くにごめん。私たち、明日にはここを出るから今日しかなくて。」
「とんでもない。お客さんはいつでも歓迎するよ。」
「こちらはレイ。レイも一緒でいい?」
「勿論。」
ルカがドアを広く開けて部屋に入る様にと促した。
「借りたコートなんだけど、女将さんに洗濯をお願いしてあるから明日には仕上がるって。それで良いい?」
「うん、今日はもう出かけないし、大丈夫だよ。」
「よかった。」
「用事は薬材のこと?」
「うん、どんなのを持っているか見せて欲しくて。」
ルカはいいよ、と言いながら今持っている薬材を並べ始めた。
「ライファは調合師なの?」
「調合師ではないけど・・・でもある程度の調合は出来るので道中の役に立てばなーと思ってはいる。」
「へぇー、どれくらいの腕前かは分からないけど、調合できる人が同行する旅って心強いよねー。自分たちの為に調合することも出来るし、いざとなったら調合した薬を売ればいいし。レイはライファの護衛かなんか?」
「え?」
突然話しかけられたことにレイが驚いて声を上げる。
「あ、貴族様を呼び捨ては流石にまずいか。」
「いや、いいけど・・・。これでも隠しているつもりなんだけどな。」
「それは無理でしょ。こんな品のいい平民なんていないよ。」
ルカが笑う。ルカの凄いところはスルッと人との距離を詰められることだ。クリッとした目と男性にしては小柄な体が少年っぽさを引き出しており、こちらも自然とガードが甘くなる。そしてこの話し方だ。気づけば自分も昔から知っている友達と話しているような気になってしまう。
「今持っているのは、ブンの木の実、ビョーン花、トノ実酒、ガル鹿の角、珍しいものだと空雷鳥の目かな。」
「眠り効果,保温効果、精力増強効果、体力回復効果、遠見効果か。」
それぞれの効果を言葉にすると、レイがゴホッとむせて少し顔を逸らした。
「おぉ~、よく知っているね。精力増強効果は人気商品なんだよ。レイも買っておく?ってレイには必要ないか。」
「なっ、なにを!」
顔を真っ赤にしたレイをルカがキャッキャとからかう。そんな二人のことは気にせず、話を進めた。
「ん~、興味があるのはガル鹿の角、空雷鳥の目、だな。」
ビョーン花に保温効果があることをすっかり忘れていた。夏にユーリスアの国王に送ってもらったものが庭に植えてあるはずだ。あとで師匠に話してバッグに入れてもらおう。ガル鹿の角は体力回復効果がある。疲れた時に良い。空雷鳥の目は小瓶の中に入っていてなかなかグロテスクであるが、遠見効果が気になる。一時的にでも遠くまで見えるようになるという効力はこの先の旅で役に立つかもしれない。
「それぞれ幾らになる?」
「ガル鹿の角は一本3000オン、空雷鳥の目は片目で25000オンだよ。」
「25000オン!?」
旅に出る時に師匠から貰ったお金が10万オン。ターザニアで稼いだお金は全てターザニアの銀行に預けていたので、今となっては貯金はゼロだ。薬材を全部買うと28000オン。宿代などはレイが出してくれているとはいえ、全財産の4分の1強に当たる28000オンの大金をここで使うわけにはいかない。宿代などをレイに払って貰っているのも心苦しいというのに・・・。
「高い。こんなには払えない・・・。」
んがー。諦めるしかないか。
「お金ないのー?んー、じゃぁ、ここにある薬材でなにか調合できる?」
調合か。この中で相性が良さそうなのは眠り効果と保温効果、ガルシアの気候であれば尚更、体が温まれば眠りやすくなるだろう。
「ブンの木の実とビョーン花を調合することでブンの木の実の眠りの効力を上げることが出来そうかな。」
「強めの眠り薬ってことかー。ありきたりだなぁ。」
ルカにありきたりと言われてムムッとする。調合は想像力とそれを行う度胸だ、
「トノ実酒とガル鹿の角を調合すれば体力回復効果のある精力剤が出来そうな気もする。」
「それだ!これは売れるぞ!!二回戦目と考えれば、若者にもいけるな。よし、その薬を調合してくれるなら全部で1万円でいいよ。」
「いや、ちょっと待って。調子に乗り過ぎたかも・・・。一度も扱ったことない食材だし、一回ですぐ成功するとは限らない。別のものが出来るかもしれないし・・・。」
「確かに。よし、3回の失敗までなら材料費は全部こっちで持つ。それでどうだ?」
「・・・その精力剤にそれほどのメリットがあるの?」
「それだけじゃない。腕のよい調合師ならぜひ懇意にいておきたいし、という下心もある。」
ルカはテヘッでも言うように少しだけ舌を覗かせた。こういう仕草も似合ってしまうのがルカである。
「ライファ、調合なんてしなくてもいいよ。お金なら私が払うし。」
「いや、でもそれは・・・。いつもレイに払って貰ってばかりだし・・・さ。」
「じゃあ、いつか何かで返してくれればいい。とにかく、調合はしなくていいよ。ルカ、今回は世話になった。ありがとう。お金はちゃんと払うから、薬材を売ってくれ。」
「待って、ちょっと待ってよ!わかった。もう、僕の負けだよ。調合はしなくてもいいし、お金も10000オンでいいよ。」
「え?なんで?いいの?」
突然の変わりように驚いて口にすれば、うん、いいよ、と商売人の顔をしたルカがいた。
「その代り、僕と友達になって。」
「え?」
「腕の良い調合師なら懇意にしたいと言ったとたん、レイが僕からライファを引き離しにかかるんだもん。ライファの調合の腕は確かなんだろ?」
ルカの言葉にレイが口元を押さえて横を向いた。その姿を見て、レイは分かりやすいなぁ、とルカが笑う。
「二人はどういう関係なの?愛人?姉弟ではないよね。魔力が全然違うもん。」
ルカは私が購入した薬材を手際よくまとめながら聞いてきた。
「いや、その・・・。」
私が返答に困っていると、レイが私の手をギュッと握った。
「愛人ではないよ。」
その通りだ。その通りだけど、まるで私はライファをそういうふうに好きではないよ、とはっきりと言われたかのようで心が重くなる。そんなにハッキリ言わなくてもいいのに。
「でも、大事な人だから手は出さないでね。」
え?今、なんて言った?
思わずレイを見れば、レイはルカににこりと微笑み、ルカは「ヘイヘイ」と肩を竦めている。
「でも、それとこれとは別。友達は友達だからね、ライファ。」
レイに手を引かれてルカの部屋を後にしながら「勿論!」と頷いた。
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「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
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