【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI

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第三章

42. 異空間

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空雷鳥の目、煮凝りバージョンをニコラウスさんに渡す。

「お口に合うかはわかりませんが。」

ニコラウスさんが口に含むのを緊張しながら見つめていた。自分が作った薬を研究者であるニコラウスさんに食べてもらうのは、試験を受けているかのようだ。

「へぇ、好みではないけど確かに食べやすい。空雷鳥の目は吐き出しそうな程生臭くて不味いからね。それに比べれば美味しいよ。」

「良かった。」
「なるほどね、調合料理、か。まぁ、面白いかな。・・・へぇ、うん、上手く効力を引き出している。」

ニコラウスさんはそう言うと目を閉じた。目を閉じて寝転がったまま微動だにしない。

「に、ニコラウスさん、どうしました?大丈夫ですか?」

慌てて声をかける私に、ニコラウスさんは静かなトーンで答えた。

「大丈夫だよ。こうして目を閉じて変化を感じようとしているんだ。薬を食べる前と今と何が違うのか。目が重くなっていないか、違和感はないか、何でもいいんだ。こういうことは薬が体内にいる時にしかできないから。」

この人、本当にすごい研究者なのかもしれない
勿論、先生も師匠もすごい。先生たちの凄さは魔力があって知識があって、そういう土壌があっての凄さだ。けれどニコラウスさんは少し違う。少しの研究機会も無駄にしない、そういう貪欲さを感じた。

「さてと、そろそろ本気で釣らないと夕食がなくなってしまう。」
ニコラウスさんが体を起こし顔を上げた。その視線が遠くを見つめる。

「まずい、逃げるぞ!木に登れ!」
その言葉と同時にベルが飛び立った。ニコラウスさんに急かされ木に登る。

「もっと、高く。もっと。」
焦ったような声で言われて、その声のまま下を見る余裕もなく上った。

ぐが、ぐが、ごろごろごろごろ。
ぐが、ぐが、ごろごろごろごろ。

木の下の方で獣の鳴き声がする。

「ふぅ、上っては来ないようだな。その辺の枝に座っていいぞ。」

ニコラウスさんのお許しが出たことでようやく枝に自分の場所を取り座った。その隣にニコラウスさんが座る。そして下を見れば私たちの上った木に体をこすり付けているダイガがいた。

「なっ!」
「静かに。」

思わず大きな声が出そうになってニコラウスさんに窘められる。

「あれはダイガの雌だ。私たちに求愛しているんだよ。」
ニコラウスさんはため息をつきながら額に手をやった。

「求愛・・・ですか。」

「あぁ、すまない。私の落ち度だ。魔獣避けに使ったのがダイガの雄。その雄の香りに発情した雌が求婚にやってきたのだろう。木を上るつもりもないらしいし、人間だとばれなければ攻撃されることもないとは思う。」

「いつ諦めてくれるのでしょうか。」
「それはダイガに聞くしかないな。」

今のところ攻撃されることはないか、と肩の力を抜いた瞬間大きな衝撃が木を襲った。

「うわっ!」

雌のダイガが木に体当たりを始めたのだ。上るのではなく意中の相手を落とすことにしたらしい。
木から私の元へ身も心も落ちてダーリン!か。上手いな。

こんな時でも脳内はなぜか呑気なもので現状をそんな言葉に変換していると木がみしみしと音を立てた。本気でヤバい。私が小弓を取り出そうと巾着に手を伸ばすのと、木がバランスを崩すのは同時で私に手を伸ばすニコラウスさんの姿が見えた。そして、ぐにゃりとした生温かい空間を抜けて・・・落ちた。



「ぐはっ!!」
ドサッと落ちた後、更に衝撃が加わりその衝撃に声が出た。

つ、つぶれる・・・。

「あ、すまん。運動神経はあまり良い方ではなくてね。」
「とりあえず、降りてください。」

ニコラウスさんが私の上、背中から降りたことでようやくゆっくりと息をすることが出来た。そして目の当たりにしたのは緑色の葉っぱが光に透けて、足元にも背丈の短い黄緑の草が生えている場所だった。先ほどまでは濃い緑色の葉ばかりの森の奥にいたというのに、あの場所と似ても似つかないここは・・・。

「・・・ここはどこですか?」
「さぁ、さっきまでいた場所ではないことは確かだね。あの木の下はこんな場所ではなかったし。」
「ニコラウスさんはこんな時でも冷静ですね。」
「慌ててもどうしようもないしね。」

ニコラウスさんが何てこともないことかのように言うから、私の中で膨らみかけた不安がすっと地に落ちた。そういえばこの風景ってゴードン・キーの言っていた風景に近いのではないだろうか。

「ニコラウスさん、私、幽玄の木に会ったことがあるというゴードン・キーさんの話を聞いたことがあるのですが、ゴードンさんが幽玄の木に会ったという風景に近い気がします。」

「あぁ、別空間ってこと?」
「はい。」

ニコラウスさんは少し考えるような素振りを見せた。

「その可能性は高いだろうね。というか、むしろそうとしか考えられない。」
「ゴードンさんの話では目を開けたときには幽玄の木が居たそうですが。」

私は辺りを見回し、ここには居ないですね、と付け足した。

「このままここにいても現状が良くなるとも思えないね。移動してみようか。ここが別空間なら幽玄の木に会えるかもしれない。」

「そうですね。この場所がゴードンさんが行ったのと同じ別空間なのなら、奇跡の近くにいるってことですからこのチャンスはしっかり掴まないと。」

「そうだね。目印はつけながら行こう。ここから元の空間に戻れるとは限らないけど、一応この場所に戻れるように。」

ニコラウスさんは自分の服の袖を1.5cm幅くらいの太さで引きちぎると木に結んだ。
「これでいい。行こう。」




「ベルも行くよ。」
初めての場所にふらふらと探検をしていたベルに声をかけ、ニコラウスさんと一緒に森を歩く。

「幽玄の木を探すと言っても情報が少なすぎて居場所を特定できないな。取りあえず、この森のことを把握したい。高い所にでも上るか。」

「それなら私、シューピンを持っています。シューピンで浮上すれば高くまでいける。」

「じゃあ、君にお願いしようかな。遠見効果の薬を食べておいた方がいい。その方が遠くまで見ることが出来る。そういえばさっきダイガをかわすことが出来たのも君の薬のお蔭だったな。偶然とはいえ助かったよ。」

「いえ、ニコラウスさんが食べてくれたお蔭で私も助かりましたから。」

シューピンに片足を乗せ、地面を軽く蹴る。シューピンは私を乗せてふわっと30cmの高さに浮かび、右足に大きく体重をのせシューピンを上方向に向かせるとシューピンは勢いをつけて上昇した。

風が柔らかい・・・。

この空間は空気がほどよく温かく、自身が動かなければ風さえ起こらないのではないかと思う程まったりとしている。色彩もそうだ。私たちのいる世界の暗い色を3段階ほど消して、残りの色で創造したような感じだ。

・・・不思議なところだな。

シューピンはぐんぐん上昇し、辺りの木より5mほど高くなったところで停止させた。この高さまで上昇したのは久し振りだ。心地よさに身を任せながら辺りを見渡す。

遠見効果のお蔭で随分遠くまで見えてはいるが、全て森だ。村や集落なと人が住んでいるような感じは無い。ここから50mぐらい右に行くと川がある。飲み水はなんとかなりそうだな。川の向う、100mくらい進むて高い岩のようなものがある。地面からそそり立つ崖のようなその岩は頂上に人が10人乗るのがやっとと思えるほどの大きさだ。幽玄の木を探しつつも、魔獣がいないかも探す。

私とニコラウスさんとでは極力魔獣に会わないようにしないと幽玄の木を探す以前に、この世界にさようなら、なんてことにもなりかねない。川の近くに魔獣らしき生き物を発見した。体はさほど大きくはなく、中型の魔獣だろう。器用に木から木へと飛び回っている。その魔獣の付近に同じような魔獣が数匹いるのも見えたので、群れで動く魔獣かもしれない。あのエリアには近づかない様にしよう。

異空間にもやはり魔獣はいるんだな。そう思ったら先ほど心配そうな顔で私を見たレイが脳裏に浮かんだ。心配しているだろうか。早く戻らなくては、と思う。さっさと幽玄の木が見つかってくれればいいのだけど。

大して収穫はないけれど、一旦下に戻るか。

視線を下に向けると、リュックを振り回しているニコラウスさんの姿が見えた。

何だ!?

目を凝らしてみると、長い体をして手と足に鋭い爪を持った魔獣とニコラウスさんが戦っている。運動は苦手だと言っていたニコラウスさん、どう見てもニコラウスさんの劣勢だ。

「ニコラウスさん!!」



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