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第三章
47. 幽玄の木
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「待って、待ってください!」
追いかけながら、そもそも幽玄の木って人の声が聞こえるのだろうか、と思う。聞こえていたとしても言葉は理解できるのだろうか。そうは思いつつもやはり話かけないわけにはいかない。
「待って、ど、どちらに行かれるんですか?」
幽玄の木は私の言葉には一向に反応せず、ふらふらと森を進んでゆく。
「あの、ずっとあなたを探し・・・。えぇっ!?」
突然、ドーン!という音と共に細い木がいくつか倒れたと思えば幽玄の木の前に1m程の大きな手が現れた。さすがに幽玄の木も立ち止まる。次にバキバキバキっとものすごい音を立てながら木をなぎ倒してニコラウスさんが現れた。
ど、どういうことだ?
「いててててて、覚悟はしていたけど凄い伸縮力だな。体に結界を張っていなければ大怪我するところだった。」
先ほど現れた手はニコラウスさんに繋がっており、その手の前に立ったニコラウスさんは完全に幽玄の木の行く先を塞いでいた。ニコラウスさんは手を重そうに移動させ、幽玄の木の前に広げる。小さな子供がちょうだいをする時の手の形だ。
「幽玄の木よ、その枝を私に恵んではもらえないだろうか。」
突然の事態に唖然としていた私もニコラウスさんの言葉にハッとなり、ニコラウスさんの手の隣に並ぶと同じように手を広げた。
「幽玄の木さん、私にもその枝をお恵み下さい。」
すると幽玄の木はカサッと音を立てて空を見上げるかのように体を反らせた。その後、まるで体操でもするかのように体を動かし始め、体を捻るような動きをしたとき、バキバキバキっと音がした。そして気が付けば、幽玄の木の足元に木の枝が4本落ちていた。思わずニコラウスさんと顔を見合わせる。
「あ、ありがとうございます!」
私が大きな声を上げるとニコラウスさんは頭を下げ、幽玄の木は元来た道を漂いながら消えていった。
「ニコラウスさん!やりましたね!!」
私は幽玄の木が置いて行った枝を拾い上げる。」
「そうだね。案外、早くに手に入ったね。」
「良かったです。はい、これはニコラウスさんの分。」
私は拾った枝のうち2本をニコラウスさんの大きな手に乗せた。
「なんか知りたいことがたくさんあるのですけど・・・。」
「あぁ、この手のこと?」
「そうです。一体何でこんなことに?」
私はそう言いながらニコラウスさんの大きな手を指先で押したり撫でたりしてみた。
「くすぐったいんだけど。大きくてもちゃんと感覚はあるから。」
「あ、すみません。こんな大きな手って初めて見たから。」
「そうだろうね。私だって初めてだよ。」
「もしかして、さっき調合した薬ですか?グレーリの蔦のやつ。」
「そうだよ。想像通りの薬になった。ちょっと手の大きさが大きすぎるけど。でも役に立ったでしょ?」
ニコラウスさんはそう言いながら嬉しそうに笑った。
「はい、助かりました。この手のおかげで幽玄の木が立ち止まってくれたのですから。もしかしてこの事態を想定してこの薬を調合したのですか!?」
「まさか。幽玄の木のことは考えてなかったよ。」
考えてなかったんかい!
「あの岩からシューピンを使わずに下りられる薬をと思ってね。もうあんなのはごめんだから。ほら、大成功でしょ。崖から下りられた。」
「確かにそうですけど。でも、下りる為には大きな手にしなくても伸縮効果で足でも伸ばせば良かったのではないですか?」
「君は分かってないなぁ。伸縮効果というのはね、そのものの大きさぶんしか伸ばすことが出来ないんだよ。小指の爪くらいの大きさのものを僕の身長まで伸ばしたらどうなると思う?」
「細くなって、細くなって最終的には切れますかね。」
「そうでしょ。だからこそガラージュの髭のBIG効果が必要だったんだよ。」
「なるほど。でもどうして手だったのですか?岩から降りるのなら足の方が楽そうだけど。」
「手の方が使い勝手が良さそうだったから。足は手ほど器用には動かせないからね。」
ニコラウスさんはそう言うと幽玄の木を地面に置いて、空へ片手を投げた。手は凄い勢いで伸びて飛んでいき、戻ってきた時にはその手の中に鳥が捕まえられていた。
「ほらね、今日の夜ご飯。」
「おおーっ!!ニコラウスさん流石です!!・・・でも、その大きな手はいつ小さくなるのですか?」
「それは分からない。なんせ初めて作ったし。とりあえず、川の方にでも移動しようか。今日の寝床を確保しないと。」
「歩く姿はなんだかシュールですね・・・。」
ニコラウスさんが防御結界を張った大きな手を引きずって歩く姿を見て、思わず呟いた。
その日の夜。
今日の夕食はニコラウスさんが捕まえてくれた鳥を使って、鳥の塩焼きにすることにした。肉に塩を振り馴染ませるために放置する。その間にキノコをカットし、美味しそうに見えた野菜っぽい実たちもカットする。初めて何かを食べる時にも私のスキルは役に立つ。毒があるものは毒効果としてスキルで確認することが出来るからだ。ここにある野菜はスキルで確認済みなので味はともあれ毒は無いのは確かだ。
「なんか変なのが釣れたよ。」
普通の大きさの手に戻ったニコラウスさんが川からウニョウニョした生き物を持ってきた。
「タコ!?どうして?」
「タコ?君はこの生き物を知っているの?」
「いや、似たような生き物を見たことがあったなと思って。」
夢でだけど・・・。ベルがウニョウニョと動くタコの足が気になるのか近づいて触ろうとする。
「ベル、触るとくっつかれるよ。」
ベルが私の言葉にビクッと手をひっこめた。タコの半分は塩で茹でて、もう半分は明日用に燻製にすることにする。穴を掘りその中に薪と火を入れ穴の上に枝を網目のように置き、葉っぱを敷いてタコを置く。私の魔力で時短魔方陣は使えないので、一晩かけて作ることにした。
先ほど塩を馴染ませた鳥はカリカリに焼いた後に蒸し焼きにし、しっとりと仕上げた。野菜は鳥を焼いた鍋でそのまま焼き野菜にする。
「ニコラウスさん。出来ましたよ。」
声をかけるとぼーっと川を見ていたニコラウスさんがやってきた。
「へぇー、美味しそう。」
鳥と野菜、タコに果物。即席にしては意外と豊富な食材が並んでいる。
「これ、さっきのやつ?」
ニコラウスさんが手にしたのはタコだ。
「そうですよ。今日はニコラウスさんの活躍で結構豪華なご飯になった気がします。」
「あ、うまい。もっと泥臭いかと思ったんだけど。」
「塩でもみながらしっかりと洗ったからですかね?」
「あ、鳥もうまい。香ばしくてしっとりしてる。」
「焼いて焦げ目をつけてから蒸し焼きにしたので、美味しさがギュッとつまってますよ。」
「へぇ、もしかして君って料理が得意なの?」
「得意というか、好きなんです。美味しい物を食べるのが。だって楽しいじゃないですか。」
私が微笑むとニコラウスさんが複雑な表情をした。
「こう美味しいとパンが食べたくなるね、あと、お酒も。んっ、なにこれ、苦っ!」
ニコラウスさんが口元を押さえて顔を歪めた。
「この野菜ですか?どれどれ。うわ、本当だ。苦っ!!」
ひーっと声を出しながら果物をかじる。
「ぷぷっ、変な顔。料理得意なんじゃないの?」
「得意ではありますけど、この野菜たちは初めてなんですもん。味の保証はできません。」
「味の保証は出来ないって料理作った者としてどうなのよ?」
「でもほら、どんな味かワクワクするでしょ。罰ゲームみたい。」
私がクスクス笑うとニコラウスさんも釣られたように笑った。
「罰ゲームじゃだめでしょ。」
食事も終えて夜も更けた時間。レイ宛にチョンピーを飛ばす。そのチョンピーの行く先を祈るような気持で見つめていた。
「また飛ばしてるの?」
声に振り向くとニコラウスさんが居た。
「料理を作る前も飛ばしてたでしょ。」
「見ていましたか。レイと連絡が取れればな、と思って。」
「帰りたい?」
「そりゃあ、勿論。」
「待っていてくれればいいけどね。」
「え?」
「森の中で年頃の男女が二人きり。レベッカはレイにご執心だ。何もない方が不思議でしょ?」
・・・そこまで考えもしなかった。このままレイと会うことが出来ないかもしれない?ゾクッとした不安が襲い、思わず真顔になった。
「そんな顔しないでよ。」
ニコラウスさんが笑う。
「ひとつ方法を思いついたんだ。最も、レイがまだ森で君を探していなければ不可能なんだけどね。」
私はグッと拳を握った。誘拐された時も、ターザニアの時もレイはいつも私を探し出してくれた。そのレイを信じられない理由などあるはずがない。
「大丈夫です。レイはきっと私たちを探しています。」
追いかけながら、そもそも幽玄の木って人の声が聞こえるのだろうか、と思う。聞こえていたとしても言葉は理解できるのだろうか。そうは思いつつもやはり話かけないわけにはいかない。
「待って、ど、どちらに行かれるんですか?」
幽玄の木は私の言葉には一向に反応せず、ふらふらと森を進んでゆく。
「あの、ずっとあなたを探し・・・。えぇっ!?」
突然、ドーン!という音と共に細い木がいくつか倒れたと思えば幽玄の木の前に1m程の大きな手が現れた。さすがに幽玄の木も立ち止まる。次にバキバキバキっとものすごい音を立てながら木をなぎ倒してニコラウスさんが現れた。
ど、どういうことだ?
「いててててて、覚悟はしていたけど凄い伸縮力だな。体に結界を張っていなければ大怪我するところだった。」
先ほど現れた手はニコラウスさんに繋がっており、その手の前に立ったニコラウスさんは完全に幽玄の木の行く先を塞いでいた。ニコラウスさんは手を重そうに移動させ、幽玄の木の前に広げる。小さな子供がちょうだいをする時の手の形だ。
「幽玄の木よ、その枝を私に恵んではもらえないだろうか。」
突然の事態に唖然としていた私もニコラウスさんの言葉にハッとなり、ニコラウスさんの手の隣に並ぶと同じように手を広げた。
「幽玄の木さん、私にもその枝をお恵み下さい。」
すると幽玄の木はカサッと音を立てて空を見上げるかのように体を反らせた。その後、まるで体操でもするかのように体を動かし始め、体を捻るような動きをしたとき、バキバキバキっと音がした。そして気が付けば、幽玄の木の足元に木の枝が4本落ちていた。思わずニコラウスさんと顔を見合わせる。
「あ、ありがとうございます!」
私が大きな声を上げるとニコラウスさんは頭を下げ、幽玄の木は元来た道を漂いながら消えていった。
「ニコラウスさん!やりましたね!!」
私は幽玄の木が置いて行った枝を拾い上げる。」
「そうだね。案外、早くに手に入ったね。」
「良かったです。はい、これはニコラウスさんの分。」
私は拾った枝のうち2本をニコラウスさんの大きな手に乗せた。
「なんか知りたいことがたくさんあるのですけど・・・。」
「あぁ、この手のこと?」
「そうです。一体何でこんなことに?」
私はそう言いながらニコラウスさんの大きな手を指先で押したり撫でたりしてみた。
「くすぐったいんだけど。大きくてもちゃんと感覚はあるから。」
「あ、すみません。こんな大きな手って初めて見たから。」
「そうだろうね。私だって初めてだよ。」
「もしかして、さっき調合した薬ですか?グレーリの蔦のやつ。」
「そうだよ。想像通りの薬になった。ちょっと手の大きさが大きすぎるけど。でも役に立ったでしょ?」
ニコラウスさんはそう言いながら嬉しそうに笑った。
「はい、助かりました。この手のおかげで幽玄の木が立ち止まってくれたのですから。もしかしてこの事態を想定してこの薬を調合したのですか!?」
「まさか。幽玄の木のことは考えてなかったよ。」
考えてなかったんかい!
「あの岩からシューピンを使わずに下りられる薬をと思ってね。もうあんなのはごめんだから。ほら、大成功でしょ。崖から下りられた。」
「確かにそうですけど。でも、下りる為には大きな手にしなくても伸縮効果で足でも伸ばせば良かったのではないですか?」
「君は分かってないなぁ。伸縮効果というのはね、そのものの大きさぶんしか伸ばすことが出来ないんだよ。小指の爪くらいの大きさのものを僕の身長まで伸ばしたらどうなると思う?」
「細くなって、細くなって最終的には切れますかね。」
「そうでしょ。だからこそガラージュの髭のBIG効果が必要だったんだよ。」
「なるほど。でもどうして手だったのですか?岩から降りるのなら足の方が楽そうだけど。」
「手の方が使い勝手が良さそうだったから。足は手ほど器用には動かせないからね。」
ニコラウスさんはそう言うと幽玄の木を地面に置いて、空へ片手を投げた。手は凄い勢いで伸びて飛んでいき、戻ってきた時にはその手の中に鳥が捕まえられていた。
「ほらね、今日の夜ご飯。」
「おおーっ!!ニコラウスさん流石です!!・・・でも、その大きな手はいつ小さくなるのですか?」
「それは分からない。なんせ初めて作ったし。とりあえず、川の方にでも移動しようか。今日の寝床を確保しないと。」
「歩く姿はなんだかシュールですね・・・。」
ニコラウスさんが防御結界を張った大きな手を引きずって歩く姿を見て、思わず呟いた。
その日の夜。
今日の夕食はニコラウスさんが捕まえてくれた鳥を使って、鳥の塩焼きにすることにした。肉に塩を振り馴染ませるために放置する。その間にキノコをカットし、美味しそうに見えた野菜っぽい実たちもカットする。初めて何かを食べる時にも私のスキルは役に立つ。毒があるものは毒効果としてスキルで確認することが出来るからだ。ここにある野菜はスキルで確認済みなので味はともあれ毒は無いのは確かだ。
「なんか変なのが釣れたよ。」
普通の大きさの手に戻ったニコラウスさんが川からウニョウニョした生き物を持ってきた。
「タコ!?どうして?」
「タコ?君はこの生き物を知っているの?」
「いや、似たような生き物を見たことがあったなと思って。」
夢でだけど・・・。ベルがウニョウニョと動くタコの足が気になるのか近づいて触ろうとする。
「ベル、触るとくっつかれるよ。」
ベルが私の言葉にビクッと手をひっこめた。タコの半分は塩で茹でて、もう半分は明日用に燻製にすることにする。穴を掘りその中に薪と火を入れ穴の上に枝を網目のように置き、葉っぱを敷いてタコを置く。私の魔力で時短魔方陣は使えないので、一晩かけて作ることにした。
先ほど塩を馴染ませた鳥はカリカリに焼いた後に蒸し焼きにし、しっとりと仕上げた。野菜は鳥を焼いた鍋でそのまま焼き野菜にする。
「ニコラウスさん。出来ましたよ。」
声をかけるとぼーっと川を見ていたニコラウスさんがやってきた。
「へぇー、美味しそう。」
鳥と野菜、タコに果物。即席にしては意外と豊富な食材が並んでいる。
「これ、さっきのやつ?」
ニコラウスさんが手にしたのはタコだ。
「そうですよ。今日はニコラウスさんの活躍で結構豪華なご飯になった気がします。」
「あ、うまい。もっと泥臭いかと思ったんだけど。」
「塩でもみながらしっかりと洗ったからですかね?」
「あ、鳥もうまい。香ばしくてしっとりしてる。」
「焼いて焦げ目をつけてから蒸し焼きにしたので、美味しさがギュッとつまってますよ。」
「へぇ、もしかして君って料理が得意なの?」
「得意というか、好きなんです。美味しい物を食べるのが。だって楽しいじゃないですか。」
私が微笑むとニコラウスさんが複雑な表情をした。
「こう美味しいとパンが食べたくなるね、あと、お酒も。んっ、なにこれ、苦っ!」
ニコラウスさんが口元を押さえて顔を歪めた。
「この野菜ですか?どれどれ。うわ、本当だ。苦っ!!」
ひーっと声を出しながら果物をかじる。
「ぷぷっ、変な顔。料理得意なんじゃないの?」
「得意ではありますけど、この野菜たちは初めてなんですもん。味の保証はできません。」
「味の保証は出来ないって料理作った者としてどうなのよ?」
「でもほら、どんな味かワクワクするでしょ。罰ゲームみたい。」
私がクスクス笑うとニコラウスさんも釣られたように笑った。
「罰ゲームじゃだめでしょ。」
食事も終えて夜も更けた時間。レイ宛にチョンピーを飛ばす。そのチョンピーの行く先を祈るような気持で見つめていた。
「また飛ばしてるの?」
声に振り向くとニコラウスさんが居た。
「料理を作る前も飛ばしてたでしょ。」
「見ていましたか。レイと連絡が取れればな、と思って。」
「帰りたい?」
「そりゃあ、勿論。」
「待っていてくれればいいけどね。」
「え?」
「森の中で年頃の男女が二人きり。レベッカはレイにご執心だ。何もない方が不思議でしょ?」
・・・そこまで考えもしなかった。このままレイと会うことが出来ないかもしれない?ゾクッとした不安が襲い、思わず真顔になった。
「そんな顔しないでよ。」
ニコラウスさんが笑う。
「ひとつ方法を思いついたんだ。最も、レイがまだ森で君を探していなければ不可能なんだけどね。」
私はグッと拳を握った。誘拐された時も、ターザニアの時もレイはいつも私を探し出してくれた。そのレイを信じられない理由などあるはずがない。
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