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第三章
74. 魔獣の復活
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2時間後に目覚めた魔獣は排泄部屋に向かう。まだお腹は下っているし、血便も同じではあるが先ほどは食後1時間で排泄したのに対し、今回は2時間持った。歩き方も少しマジになったような気がする。魔獣は寝床に戻った後しばらくはぼんやりと周りを見渡していたが、そのうちまた目を閉じた。
「魔獣の調子はどう?」
隣の部屋で食事の片づけをしていたルカが様子を見にやってきた。
「ほんの少しは良くなったかも。悪くなっていないことは確かだね。ロッド様は?」
「いい感じに酔っ払っていたからレイが送って行った。随分ご機嫌だった。焼肉がよほど美味しかったらしい。タレのレシピを教えて貰おうと言っていたよ。」
「ふふふ、美味しいお肉がある時は焼肉に限る。タレを作って焼けばいいだけだから作る方も楽なんだ。」
「焼いた肉は良く食べるけど、あの美味しいタレは僕も初めてだったよ。ライファは本当に料理が上手なんだね。レイが夢中になるはずだ。」
「なっ!」
「くすくすくす、そんなに照れなくても。」
「からかわないでよ。ったく、ルカはすぐからかう。」
「ライファとレイがあんまりにも真っ直ぐだから反応が楽しくてね。・・・好きな人と一緒にいられるって凄いことだよね。とても幸運なことだ。」
「・・・うん、私もそう思う。」
ルカの目が遠くを見ていた。
その日を境に魔獣の体調は日に日に回復していった。2日目は効力を上げた胃腸薬を調合しそのお蔭もあって排便の回数が大きく減った。3日目になるとお腹は下っているものの血便が止まった。4日目になると薬の効力を下げ、代わりにブンの葉を加えた調合をし、ぐっすりと眠れるようにした。そして5日目。すっかり体調を回復し、目に精気が宿った魔獣が私たちに深々と頭を下げている。
因みに、この5日間、夕方になるとロッド様が食材を持ってやってきては私の料理を食べご機嫌で帰るというのが日課だった。
「この度は本当に助かった。あの苦しみが嘘のようじゃ、と申しております。」
リトルマインの向う、ジンさんが魔獣の言葉を訳してくれた。
「元気になられて何よりです。」
レイがニコリと微笑む。その隣でなぜかロッド様も得意げだ。
「私はこの森の長老をしておりますザクヤと申します。お主たちはチェルシー鳥の居場所を探しているだとか。」
ザクヤ様は真っ白な長い毛並みの60cmくらいの魔獣だ。夢の世界に出てくる猿という動物によく似ている。ザクヤ様は地面に腰を下し、その両脇にはザクヤ様と同じ毛並みをした魔獣がザクヤ様を守るかのように立っていた。
「ワシはこの森に住んで100年以上になる。チェルシー鳥が姿を見せなくなってから70年は経つかのぅ。」
「チェルシー鳥はこの島にいるのか?」
率直なロッド様の問いにザクヤ様は短く、いる、とだけ答えた。
「今も、ですか?」
今度はレイが尋ねる。
「うむ、今もいる。」
「姿を見せないのにどうしてまだこの森にいると分かるのですか?他の森に引っ越しているかもしれないのに。」
「あぁ、時々差し入れをしているからの。あやつは酒が好きでな。わしが作った酒をある場所に置いておくと、翌日にはなくなって代わりに木の実が置いてあるんじゃ。」
「なるほど。じゃあそこに行けばチェルシー鳥に会えるってことか!」
ロッド様が喜びの声を上げる。
「そう上手くはいかないだろうよ。」
一瞬、緊迫しそうになった空気をレイが柔らかい声で粉砕した。
「それはどういう意味ですか?」
「チェルシー鳥はな、孤独な鳥なのじゃ。同じ種の仲間がおらん。一匹しかおらんのじゃ。その命が尽きる時と同時に新たな命となり存続してきた生き物じゃ。」
「死なない、ということですか?」
「いや、そういうことではない。ちゃんと死は訪れるし、死んだ者は還らない。我々が母親から産まれたように、チェルシー鳥はチェルシー鳥の屍から新たな命として生まれるのだ。だから家族が出来ることは無い。永遠に一匹だけ。」
ザクヤ様は言葉を一度区切る、果物を一口齧った。口の中を潤したらしい。
「だからこそ、チェルシー鳥は仲間を求めた。姿形は違っても家族が欲しかったのだ。だが、お前たち人間のチェルシー鳥に対する態度はどうじゃ?」
私はヘイゼル公爵夫妻のチェルシー鳥に対する反応を思い出していた。ロッド様もレイもそれを思い出しているのか口を噤む。ヘイゼル公爵夫妻の態度が何も特別なわけではない。チェルシー鳥の姿は生理的に受け入れられづらい姿なのだ。ザクヤは悲しそうに目を伏せた。
「自分が人間にどう思われるのかを知った日からチェルシー鳥は姿を見せなくなった。私たち魔獣にさえもじゃ。そのチェルシー鳥が君たちの前に姿を見せるとは思えぬ。」
ザクヤ様の話に全員が口を噤んだ。一生、いや、何度その命が産まれてもひとりぼっち、どれ程の孤独だろうか。その上、害をもたらしたわけでもないのに嫌われる理不尽さ。一人という孤独、底のように思えた孤独から更に深くに落とされたかのようだ。チェルシー鳥は一人という孤独を更に深くしてこれからも生き続けるのだろうか。そんなのは哀しすぎる。
「私たちにチャンスを頂けませんでしょうか!!」
思いの外大きな声になったことに自分自身が驚いた。
「私たちはチェルシー鳥の涙が欲しくてチェルシー鳥を探しています。でも、それ以前に生きているものとして、チェルシー鳥の今の生き方は哀しすぎます。チェルシー鳥自身が一人でいるのが好きだというのならそれでもいい。でもそうでないのなら、可愛さや良いところを伝える手伝いをさせて欲しい。内面を知れば、抱く印象はガラッと変わるものです。ザクヤ様、なんとか私たちとチェルシー鳥を引き合わせて貰うわけにはいかないでしょうか。」
「うむ、其の方たちには借りがある。だかしかし、会わなくなってもワシはチェルシー鳥は友人だ。チェルシー鳥を裏切るわけにはいかん。其の方たちに私がチェルシー鳥に酒を渡している場所は教えよう。其の方達に会うかどうかを決めるのはチェルシー鳥自身じゃ。」
「わかりました。そこから先は自分たちでやってみます。」
「うむ。困ったことがあれば相談にはのろう、チェルシー鳥の友人として、ワシもこのままで良いとは思ってはいないからのぅ。」
「ありがとうございます。」
ザクヤ様の巣から出て森を歩いていると、レイが難しい顔をしていた。
「どうすればチェルシー鳥に会ってもらえるのだろうか。」
真面目に考え事をしている姿がレイらしい。
「何の手がかりもなかった状態からここまで来れたじゃないですか。チェルシー鳥が存在していると分かったこと、なぜに姿を見せないのか、それが分かったというのは大きいですよ。ザクヤ様も協力してくださるとおっしゃっておりましたし、大進歩です!」
「そうだぞ。今までチェルシー鳥がいるかどうかも分からなかったんだから。親父も喜ぶ。」
「そうですね。これもライファが頑張って調合してくれたお蔭だね。ありがとう、ライファ。」
「あ、いや、こちらこそありがとうございます。」
レイに優しく微笑まれて嬉しさを隠そうと思ったらぎこちない言い方になってしまった。そんな私を見て、ルカがこっそりと笑っている。
「帰ったらお茶会をするんだろ。そこで美味いお菓子でも食べながら作戦会議といこうぜ。」
ロッド様がレイの肩に手をおいてニヤリとこちらを振り返った。ジンさんと約束していたお茶会のことを言っているようだ。自分もお茶会に招かれるものだと思い込んでいるところがロッド様らしい。こう言われて、まさか招いてませんなどと言えるはずもなく。
「えぇ、屋敷に戻りましたらお茶会の準備を始めますね。つきましてはロッド様、お茶会の為のお菓子を作るのに厨房を貸していただけると助かるのですが宜しいでしょうか。」
「あぁ、料理長に話しておこう。ついでに、焼肉のタレのレシピも教えてやってくれ。あれは本当に美味かった。」
「承知いたしました。」
こうして、5日ぶりにようやくお屋敷に戻ることが出来た。
「魔獣の調子はどう?」
隣の部屋で食事の片づけをしていたルカが様子を見にやってきた。
「ほんの少しは良くなったかも。悪くなっていないことは確かだね。ロッド様は?」
「いい感じに酔っ払っていたからレイが送って行った。随分ご機嫌だった。焼肉がよほど美味しかったらしい。タレのレシピを教えて貰おうと言っていたよ。」
「ふふふ、美味しいお肉がある時は焼肉に限る。タレを作って焼けばいいだけだから作る方も楽なんだ。」
「焼いた肉は良く食べるけど、あの美味しいタレは僕も初めてだったよ。ライファは本当に料理が上手なんだね。レイが夢中になるはずだ。」
「なっ!」
「くすくすくす、そんなに照れなくても。」
「からかわないでよ。ったく、ルカはすぐからかう。」
「ライファとレイがあんまりにも真っ直ぐだから反応が楽しくてね。・・・好きな人と一緒にいられるって凄いことだよね。とても幸運なことだ。」
「・・・うん、私もそう思う。」
ルカの目が遠くを見ていた。
その日を境に魔獣の体調は日に日に回復していった。2日目は効力を上げた胃腸薬を調合しそのお蔭もあって排便の回数が大きく減った。3日目になるとお腹は下っているものの血便が止まった。4日目になると薬の効力を下げ、代わりにブンの葉を加えた調合をし、ぐっすりと眠れるようにした。そして5日目。すっかり体調を回復し、目に精気が宿った魔獣が私たちに深々と頭を下げている。
因みに、この5日間、夕方になるとロッド様が食材を持ってやってきては私の料理を食べご機嫌で帰るというのが日課だった。
「この度は本当に助かった。あの苦しみが嘘のようじゃ、と申しております。」
リトルマインの向う、ジンさんが魔獣の言葉を訳してくれた。
「元気になられて何よりです。」
レイがニコリと微笑む。その隣でなぜかロッド様も得意げだ。
「私はこの森の長老をしておりますザクヤと申します。お主たちはチェルシー鳥の居場所を探しているだとか。」
ザクヤ様は真っ白な長い毛並みの60cmくらいの魔獣だ。夢の世界に出てくる猿という動物によく似ている。ザクヤ様は地面に腰を下し、その両脇にはザクヤ様と同じ毛並みをした魔獣がザクヤ様を守るかのように立っていた。
「ワシはこの森に住んで100年以上になる。チェルシー鳥が姿を見せなくなってから70年は経つかのぅ。」
「チェルシー鳥はこの島にいるのか?」
率直なロッド様の問いにザクヤ様は短く、いる、とだけ答えた。
「今も、ですか?」
今度はレイが尋ねる。
「うむ、今もいる。」
「姿を見せないのにどうしてまだこの森にいると分かるのですか?他の森に引っ越しているかもしれないのに。」
「あぁ、時々差し入れをしているからの。あやつは酒が好きでな。わしが作った酒をある場所に置いておくと、翌日にはなくなって代わりに木の実が置いてあるんじゃ。」
「なるほど。じゃあそこに行けばチェルシー鳥に会えるってことか!」
ロッド様が喜びの声を上げる。
「そう上手くはいかないだろうよ。」
一瞬、緊迫しそうになった空気をレイが柔らかい声で粉砕した。
「それはどういう意味ですか?」
「チェルシー鳥はな、孤独な鳥なのじゃ。同じ種の仲間がおらん。一匹しかおらんのじゃ。その命が尽きる時と同時に新たな命となり存続してきた生き物じゃ。」
「死なない、ということですか?」
「いや、そういうことではない。ちゃんと死は訪れるし、死んだ者は還らない。我々が母親から産まれたように、チェルシー鳥はチェルシー鳥の屍から新たな命として生まれるのだ。だから家族が出来ることは無い。永遠に一匹だけ。」
ザクヤ様は言葉を一度区切る、果物を一口齧った。口の中を潤したらしい。
「だからこそ、チェルシー鳥は仲間を求めた。姿形は違っても家族が欲しかったのだ。だが、お前たち人間のチェルシー鳥に対する態度はどうじゃ?」
私はヘイゼル公爵夫妻のチェルシー鳥に対する反応を思い出していた。ロッド様もレイもそれを思い出しているのか口を噤む。ヘイゼル公爵夫妻の態度が何も特別なわけではない。チェルシー鳥の姿は生理的に受け入れられづらい姿なのだ。ザクヤは悲しそうに目を伏せた。
「自分が人間にどう思われるのかを知った日からチェルシー鳥は姿を見せなくなった。私たち魔獣にさえもじゃ。そのチェルシー鳥が君たちの前に姿を見せるとは思えぬ。」
ザクヤ様の話に全員が口を噤んだ。一生、いや、何度その命が産まれてもひとりぼっち、どれ程の孤独だろうか。その上、害をもたらしたわけでもないのに嫌われる理不尽さ。一人という孤独、底のように思えた孤独から更に深くに落とされたかのようだ。チェルシー鳥は一人という孤独を更に深くしてこれからも生き続けるのだろうか。そんなのは哀しすぎる。
「私たちにチャンスを頂けませんでしょうか!!」
思いの外大きな声になったことに自分自身が驚いた。
「私たちはチェルシー鳥の涙が欲しくてチェルシー鳥を探しています。でも、それ以前に生きているものとして、チェルシー鳥の今の生き方は哀しすぎます。チェルシー鳥自身が一人でいるのが好きだというのならそれでもいい。でもそうでないのなら、可愛さや良いところを伝える手伝いをさせて欲しい。内面を知れば、抱く印象はガラッと変わるものです。ザクヤ様、なんとか私たちとチェルシー鳥を引き合わせて貰うわけにはいかないでしょうか。」
「うむ、其の方たちには借りがある。だかしかし、会わなくなってもワシはチェルシー鳥は友人だ。チェルシー鳥を裏切るわけにはいかん。其の方たちに私がチェルシー鳥に酒を渡している場所は教えよう。其の方達に会うかどうかを決めるのはチェルシー鳥自身じゃ。」
「わかりました。そこから先は自分たちでやってみます。」
「うむ。困ったことがあれば相談にはのろう、チェルシー鳥の友人として、ワシもこのままで良いとは思ってはいないからのぅ。」
「ありがとうございます。」
ザクヤ様の巣から出て森を歩いていると、レイが難しい顔をしていた。
「どうすればチェルシー鳥に会ってもらえるのだろうか。」
真面目に考え事をしている姿がレイらしい。
「何の手がかりもなかった状態からここまで来れたじゃないですか。チェルシー鳥が存在していると分かったこと、なぜに姿を見せないのか、それが分かったというのは大きいですよ。ザクヤ様も協力してくださるとおっしゃっておりましたし、大進歩です!」
「そうだぞ。今までチェルシー鳥がいるかどうかも分からなかったんだから。親父も喜ぶ。」
「そうですね。これもライファが頑張って調合してくれたお蔭だね。ありがとう、ライファ。」
「あ、いや、こちらこそありがとうございます。」
レイに優しく微笑まれて嬉しさを隠そうと思ったらぎこちない言い方になってしまった。そんな私を見て、ルカがこっそりと笑っている。
「帰ったらお茶会をするんだろ。そこで美味いお菓子でも食べながら作戦会議といこうぜ。」
ロッド様がレイの肩に手をおいてニヤリとこちらを振り返った。ジンさんと約束していたお茶会のことを言っているようだ。自分もお茶会に招かれるものだと思い込んでいるところがロッド様らしい。こう言われて、まさか招いてませんなどと言えるはずもなく。
「えぇ、屋敷に戻りましたらお茶会の準備を始めますね。つきましてはロッド様、お茶会の為のお菓子を作るのに厨房を貸していただけると助かるのですが宜しいでしょうか。」
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