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第三章
81. チェルシー鳥
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レイはそのまま一気に崖を駆け上がると立ち止まりドーム型の大きな結界を張った。レイに追いついた私とロッド様も結界の中に入っている。
「こりゃ、見事な結界だな。魔力の厚さに歪みがない。」
ロッド様が感心したように呟く。
「チェルシー鳥、結界を張ってすみません。きっと驚いたでしょう。君とどうしても話がしたいと思い強引な方法をとらせて貰いまいした。」
レイははっきりとした口調で話し始めた。
「君に危害を加えることはしないし、私たちはこの場所から動くこともありません。君を無理に引きずり出したり探したりはしないから安心してください。」
レイはそこで言葉を切ると倒れた木に座った。大木が倒れただけあってまるでベンチのようだ。レイの隣に私が座り、ロッド様は近くの木の根元に腰を下ろした。
「お酒やおつまみはどうでしたか?お口に合いましたでしょうか。どんなお酒が君の口に合うのだろうと皆と相談して選んだのですよ。」
レイはゆっくりとした口調で優しく話しかけているがチェルシー鳥からの返事は無い。
「果物、ありがとうございます。ザクヤ様が珍しい果物だと教えてくれました。私たちのために探してくれたのですか?まだ食べてはいないのですが食べるのが楽しみです。」
風の音がして、私たちの出す音がして、ベルの飛ぶ音もする。チェルシー鳥は何一つ音を立てずにじっと身を潜めているようだ。
「一匹しかいないという君のことをザクヤ様からお聞きしました。ひとりで寂しくはないですか?閉じこもって誰とも会わなければ傷つくことは無い。でも、寂しさが消えることもない。君の未来の話をしましょうよ。」
レイはそこからしばらく黙った。チェルシー鳥の反応を待っているのだ。ふと視線を崖に向けるといつの間にか崖を登ってきていたルカが結界に顔をピタッとくっつけていた。私と目が合うなり、入れてくれと言わんばかりにぎゅううっと顔を押し付けるものだから鼻も潰れ目も細くなる。
「ぶっ!」
静かな空気の中に私が吹き出した音だけが響いた。ロッド様の空気を読めという視線が刺さる。
「いや、ルカのせいですから。」
私がルカを指差すと指に導かれてルカを見たロッド様も吹き出した。
「ぶーっ!!酷ぇ顔つ!!」
レイも微かに吹き出す。すると、その笑い声の中に小さく別の笑い声が混じっているのに気が付いた。気が付いたことを悟られないように視線を動かすと左目の視界の端っこに葉っぱが不自然に動いている場所があった。
あそこか。思っていたより近くにいる。
「ねぇ、私の友人が仲間に入れて欲しがっているのだけど結界の中に入れてもいいかな。」
「・・・いいお。」
少女のような可愛らしい声、チェルシー鳥の声だ!ルカのお蔭でそこにあった緊張感がいつの間にか消えていた。ルカはこれを狙っていたのだろうか。さすがだ。
居場所が分かってもレイは近づくこともせず、同じようにゆっくりと話しかける。今までと違うのはチェルシー鳥の反応があることだ。
「お酒、美味しかった?」
「うん、あの、さいしょのひのと、しろいおさけ、すごくおいしい。」
まだ茂みから出てきてはくれないが答えてはくれる。チェルシー鳥って本当にいるんだ。いや、今までだってチェルシー鳥は存在していると思ってここまで来たわけだけれど、どこか現実感がなかった。こうして声まで聞くと途端に現実味を帯びてくる。私はふらっと立ち上がった。レイがチェルシー鳥に話しかけている声を聞きながら立ち上がってチェルシー鳥が隠れている茂みの前にしゃがみこんだ。レイの話が終わるのを待ってチェルシー鳥に話しかける。
「私たちね、君の涙が欲しい。でも君の境遇を知って君を寂しいままにはしたくないなって思ったんだ。」
さっきまで解けていた空気がまた少し緊張を伴った。きっと私はチェルシー鳥の痛いところに触れているのだろう。
「このままずっと寂しいのとさ、自分を好きになってくれる人を探しに行くのとどっちがいい?私たちと一緒に寂しい明日を変えに行こうよ。」
鳥の鳴き声がよく響き、私たちはチェルシー鳥の言葉を待っていた。ベルも私の肩に止り茂みをじっと見つめている。カサ、カサっと茂みが二度、音を立てた。
「・・・ぼくをすきになってくれりゅひと、いりゅかな。」
「きっといるよ。君のことを知れば君を好きになってくれる人もいるはず。だから、出ておいで。」
今度は茂みが大きく揺れ、可愛らしい手が出てきた。私がその手を救い上げるように自分の手を重ねると今度は茂みから鼻が出てきて頭が出てきて目が合った。
「うん、やっぱり可愛い。」
納得したかのようなトーンで呟く。
「あなたはぼくが きもちわりゅくないの?」
実際に見たチェルシー鳥の姿は、顔は目がぱっちりとした豚で体はペンギンだ。鳥というからには飛べるかと思っていたけれど、飛べなさそうなプリッとツヤッとした腕。
「ないよ。」
そう答えた途端、うわああああーんと大きな声を出してチェルシー鳥が泣き出した。目から毀れた涙は地面に落ちる前にピンクがかった透明な宝石のように姿を変え草の上に落ちては転がった。
「お、おう・・・・・。」
あまりのことに固まっているとレイやロッド様、ルカがやってきた。
「あり、がとう~。う、う、そういえばあなたは ぼくのなみだが ほしかったよね。これ ぜんぶ あなたに うう、あげりゅ。」
チェルシー鳥はそう言ってもう片方の手も私に重ねた。
「ありがとう、すごく嬉しい。でも、とりあえず落ち着こうか。」
チェルシー鳥の背中を撫でるとチェルシー鳥は更に鳴き続け、なんとか泣き止ませようとレイが肩に触れると更に大きな声で泣いた。
「これは困ったな。」
レイもロッド様も困り顔である。そんな中冷静なのはルカだ。「これ袋に入れておきますね」そう言って涙を片っ端から袋に入れている。
さすが商売人・・・。きっと自分の取り分もきっちり計算しているに違いない。
チェルシー鳥はその後も泣き続けたが、その頃には涙は涙のまま流れるようになっていた。どうやら全ての涙が薬材に変化するわけではないらしい。
「落ち着いた?」
「うん、いっぱいないて ごめんなしゃい。ううっ。」
「大丈夫!大丈夫だから落ち着いて!」
また泣き出しそうなチェルシー鳥にレイが言う。
まさかこんなにチェルシー鳥が泣き虫だとは・・・。私はロッドに近付くとコッソリ言った。
「ロッド様は今はまだチェルシー鳥に近付かないでくださいね。ロッド様は涙のスイッチを押しまくりそうですから。」
「それどういう意味だよ。・・・でも、まぁ、お前たちに任せるわ。魔獣だろうが何だろうが泣かれるのは苦手だ。」
チェルシー鳥の外見はロッド様も苦手だったはずなのにチェルシー鳥の涙攻撃にすっかり毒気を抜かれたようだった。
「君の名前は?」
「むかしは ちぇりゅと よばれていた。いまは だれも よばない。」
「チェルか。呼びやすくていい名前だね。私たちもチェルと呼んでもいい?」
レイがそう尋ねるとチェルシー鳥は嬉しそうに目を細めた。
「ぼくをよんでくれるの?」
「うん、友達になるのに呼ぶ名前がないのは不便じゃないか。ねぇ、チェル、私は君をお茶会に招待してもいいかな?」
「ともだち・・・。」
チェルは友達という言葉を噛みしめるかのように呟いた。友達という言葉の衝撃にお茶に誘ったレイの言葉は耳には入っていないようだ。まるで小さな子供のようなチェルに自然と皆の視線が優しくなる。
「くすくすくす。ねぇ、チェル。君をお茶会に招待してもいいかな。」
「おちゃかい・・・。」
「そうだよ。この島にお屋敷があるのは知っているでしょう?そこでお茶会を開くんだ。お屋敷の人達と仲良くなれたら素敵だと思わない?」
レイの言葉にチェルシー鳥は目を輝かせた。
「ともだち、たくさんになりゅ?」
「それは分からない。君を好きになる人もいればやっぱり駄目だって思う人もいると思う。どんな生き物でも、全員に好かれるってことはないんだよ。」
「まぁまぁ、レイ様、そんなにハッキリ言わなくても・・・。」
「いや、ルカ。私はチェルにもう少し強くなって貰いたいんだ。誰でもみんなに好かれるってのは無理な話だろ。」
レイはそう言うとチェルにもう一度向き直った。
「チェル、君を嫌だと思う人はいる。でも好きになってくれる人も必ずいるんだ。だから閉じこもってしまわないで
好きになってくれる人に会いに行こうよ。探しに行こう。」
レイの言葉にチェルが深くゆっくり頷く。
「ぼく、おちゃかい、いく。」
「こりゃ、見事な結界だな。魔力の厚さに歪みがない。」
ロッド様が感心したように呟く。
「チェルシー鳥、結界を張ってすみません。きっと驚いたでしょう。君とどうしても話がしたいと思い強引な方法をとらせて貰いまいした。」
レイははっきりとした口調で話し始めた。
「君に危害を加えることはしないし、私たちはこの場所から動くこともありません。君を無理に引きずり出したり探したりはしないから安心してください。」
レイはそこで言葉を切ると倒れた木に座った。大木が倒れただけあってまるでベンチのようだ。レイの隣に私が座り、ロッド様は近くの木の根元に腰を下ろした。
「お酒やおつまみはどうでしたか?お口に合いましたでしょうか。どんなお酒が君の口に合うのだろうと皆と相談して選んだのですよ。」
レイはゆっくりとした口調で優しく話しかけているがチェルシー鳥からの返事は無い。
「果物、ありがとうございます。ザクヤ様が珍しい果物だと教えてくれました。私たちのために探してくれたのですか?まだ食べてはいないのですが食べるのが楽しみです。」
風の音がして、私たちの出す音がして、ベルの飛ぶ音もする。チェルシー鳥は何一つ音を立てずにじっと身を潜めているようだ。
「一匹しかいないという君のことをザクヤ様からお聞きしました。ひとりで寂しくはないですか?閉じこもって誰とも会わなければ傷つくことは無い。でも、寂しさが消えることもない。君の未来の話をしましょうよ。」
レイはそこからしばらく黙った。チェルシー鳥の反応を待っているのだ。ふと視線を崖に向けるといつの間にか崖を登ってきていたルカが結界に顔をピタッとくっつけていた。私と目が合うなり、入れてくれと言わんばかりにぎゅううっと顔を押し付けるものだから鼻も潰れ目も細くなる。
「ぶっ!」
静かな空気の中に私が吹き出した音だけが響いた。ロッド様の空気を読めという視線が刺さる。
「いや、ルカのせいですから。」
私がルカを指差すと指に導かれてルカを見たロッド様も吹き出した。
「ぶーっ!!酷ぇ顔つ!!」
レイも微かに吹き出す。すると、その笑い声の中に小さく別の笑い声が混じっているのに気が付いた。気が付いたことを悟られないように視線を動かすと左目の視界の端っこに葉っぱが不自然に動いている場所があった。
あそこか。思っていたより近くにいる。
「ねぇ、私の友人が仲間に入れて欲しがっているのだけど結界の中に入れてもいいかな。」
「・・・いいお。」
少女のような可愛らしい声、チェルシー鳥の声だ!ルカのお蔭でそこにあった緊張感がいつの間にか消えていた。ルカはこれを狙っていたのだろうか。さすがだ。
居場所が分かってもレイは近づくこともせず、同じようにゆっくりと話しかける。今までと違うのはチェルシー鳥の反応があることだ。
「お酒、美味しかった?」
「うん、あの、さいしょのひのと、しろいおさけ、すごくおいしい。」
まだ茂みから出てきてはくれないが答えてはくれる。チェルシー鳥って本当にいるんだ。いや、今までだってチェルシー鳥は存在していると思ってここまで来たわけだけれど、どこか現実感がなかった。こうして声まで聞くと途端に現実味を帯びてくる。私はふらっと立ち上がった。レイがチェルシー鳥に話しかけている声を聞きながら立ち上がってチェルシー鳥が隠れている茂みの前にしゃがみこんだ。レイの話が終わるのを待ってチェルシー鳥に話しかける。
「私たちね、君の涙が欲しい。でも君の境遇を知って君を寂しいままにはしたくないなって思ったんだ。」
さっきまで解けていた空気がまた少し緊張を伴った。きっと私はチェルシー鳥の痛いところに触れているのだろう。
「このままずっと寂しいのとさ、自分を好きになってくれる人を探しに行くのとどっちがいい?私たちと一緒に寂しい明日を変えに行こうよ。」
鳥の鳴き声がよく響き、私たちはチェルシー鳥の言葉を待っていた。ベルも私の肩に止り茂みをじっと見つめている。カサ、カサっと茂みが二度、音を立てた。
「・・・ぼくをすきになってくれりゅひと、いりゅかな。」
「きっといるよ。君のことを知れば君を好きになってくれる人もいるはず。だから、出ておいで。」
今度は茂みが大きく揺れ、可愛らしい手が出てきた。私がその手を救い上げるように自分の手を重ねると今度は茂みから鼻が出てきて頭が出てきて目が合った。
「うん、やっぱり可愛い。」
納得したかのようなトーンで呟く。
「あなたはぼくが きもちわりゅくないの?」
実際に見たチェルシー鳥の姿は、顔は目がぱっちりとした豚で体はペンギンだ。鳥というからには飛べるかと思っていたけれど、飛べなさそうなプリッとツヤッとした腕。
「ないよ。」
そう答えた途端、うわああああーんと大きな声を出してチェルシー鳥が泣き出した。目から毀れた涙は地面に落ちる前にピンクがかった透明な宝石のように姿を変え草の上に落ちては転がった。
「お、おう・・・・・。」
あまりのことに固まっているとレイやロッド様、ルカがやってきた。
「あり、がとう~。う、う、そういえばあなたは ぼくのなみだが ほしかったよね。これ ぜんぶ あなたに うう、あげりゅ。」
チェルシー鳥はそう言ってもう片方の手も私に重ねた。
「ありがとう、すごく嬉しい。でも、とりあえず落ち着こうか。」
チェルシー鳥の背中を撫でるとチェルシー鳥は更に鳴き続け、なんとか泣き止ませようとレイが肩に触れると更に大きな声で泣いた。
「これは困ったな。」
レイもロッド様も困り顔である。そんな中冷静なのはルカだ。「これ袋に入れておきますね」そう言って涙を片っ端から袋に入れている。
さすが商売人・・・。きっと自分の取り分もきっちり計算しているに違いない。
チェルシー鳥はその後も泣き続けたが、その頃には涙は涙のまま流れるようになっていた。どうやら全ての涙が薬材に変化するわけではないらしい。
「落ち着いた?」
「うん、いっぱいないて ごめんなしゃい。ううっ。」
「大丈夫!大丈夫だから落ち着いて!」
また泣き出しそうなチェルシー鳥にレイが言う。
まさかこんなにチェルシー鳥が泣き虫だとは・・・。私はロッドに近付くとコッソリ言った。
「ロッド様は今はまだチェルシー鳥に近付かないでくださいね。ロッド様は涙のスイッチを押しまくりそうですから。」
「それどういう意味だよ。・・・でも、まぁ、お前たちに任せるわ。魔獣だろうが何だろうが泣かれるのは苦手だ。」
チェルシー鳥の外見はロッド様も苦手だったはずなのにチェルシー鳥の涙攻撃にすっかり毒気を抜かれたようだった。
「君の名前は?」
「むかしは ちぇりゅと よばれていた。いまは だれも よばない。」
「チェルか。呼びやすくていい名前だね。私たちもチェルと呼んでもいい?」
レイがそう尋ねるとチェルシー鳥は嬉しそうに目を細めた。
「ぼくをよんでくれるの?」
「うん、友達になるのに呼ぶ名前がないのは不便じゃないか。ねぇ、チェル、私は君をお茶会に招待してもいいかな?」
「ともだち・・・。」
チェルは友達という言葉を噛みしめるかのように呟いた。友達という言葉の衝撃にお茶に誘ったレイの言葉は耳には入っていないようだ。まるで小さな子供のようなチェルに自然と皆の視線が優しくなる。
「くすくすくす。ねぇ、チェル。君をお茶会に招待してもいいかな。」
「おちゃかい・・・。」
「そうだよ。この島にお屋敷があるのは知っているでしょう?そこでお茶会を開くんだ。お屋敷の人達と仲良くなれたら素敵だと思わない?」
レイの言葉にチェルシー鳥は目を輝かせた。
「ともだち、たくさんになりゅ?」
「それは分からない。君を好きになる人もいればやっぱり駄目だって思う人もいると思う。どんな生き物でも、全員に好かれるってことはないんだよ。」
「まぁまぁ、レイ様、そんなにハッキリ言わなくても・・・。」
「いや、ルカ。私はチェルにもう少し強くなって貰いたいんだ。誰でもみんなに好かれるってのは無理な話だろ。」
レイはそう言うとチェルにもう一度向き直った。
「チェル、君を嫌だと思う人はいる。でも好きになってくれる人も必ずいるんだ。だから閉じこもってしまわないで
好きになってくれる人に会いに行こうよ。探しに行こう。」
レイの言葉にチェルが深くゆっくり頷く。
「ぼく、おちゃかい、いく。」
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